春月夜のアンダンテ
花時雨上がりの やわらかな春月夜
慣れない鼻緒の痛みが 心をそっと揺らす
3月の淡雪は 気がつけば通り過ぎ
それはいつも予期せぬ 何気ない日々の移ろい
ただ静かに見返す瞳 過ぎ去りし日々を紡いでいたの
春風がたなびくほどに 思い出す微笑みを
二人並ぶ畦道さえも 今胸を締め付ける
白い椿が揺れる
流しこむ珈琲は それほど苦くもない
昔は飲めやしないと 大袈裟に顔をしかめた
時が経ち、私達、少し大人になったんだろうね
春颯吹き抜くほどに 思い出すぬくもりを
喧嘩後の気まずいゴメンネも 懐かして愛おしい
赤い椿が揺れる
おどけた仕草も はにかんだ笑顔も
少し不器用で 怒った横顔も
全て過去だと わかっているのに
もどかしく浮かんで 夜に散っていく
花風が舞い舞うほどに 花びら登る朧月
あなたと見た同じ景色が 今年も過ぎ去って行く
春風がたなびくほどに 思い出す優しい目を
二人並ぶ畦道はもう 想い出に溶けてゆく
淡い椿が揺れる
<作曲の経緯>
この曲はDTMで作った2作目の曲で、10%manのデビュー作です。1曲目はまだnoteで紹介できていませんが「生きる。」でした。DAWを導入したのが2024年2月で、丁度「生きる」が完成(?)したのが3月中旬。1作目は実験的な要素が強く、本当は公開する予定がなかったので、ここから本格的な曲をつくるぞ!という意気込みで3月中旬ぐらいから制作をスタートしました。
この曲は植物ソング投稿祭2024で初公開していますが、実は投稿祭のために作曲したものではありません。たまたま曲を作っていたら植物ソング投稿祭があるということを知って、丁度テーマに該当しそうだったので出してみたのです。それがなければ10%manという名前もその後の活動もなかったのですからご縁というのは本当に大切だなと思います。
当時は個人的に毎月何かしら曲を作れれば良いぐらいに思っていたので、この曲は春にふさわしい曲にしようと思っていました。本当にそのぐらいしか考えていなかったと思います笑。
<作詞の経緯>
まず当時は作詞が本当に苦手でした。これまで歌物を作ったことがなかったので、曲は作れても詞が全然作れなかったのです。1作目はミックスの勉強をしようと割と適当に歌詞を書いてしまったので、本作では納得のいく作詞をしたいと思いました。
最初は作詞の本を沢山読み漁りました。完読したのが3冊、摘まみ食いをいれたら6冊ぐらい読んだと思います。
カフェ(スタバ)で作詞の本を読み漁りながら詞を悩んでいるときに、偶然目に留まったのが振袖袴姿の女の子達でした。そうか、今日は大学生の卒業式かと思い何気なく眺めていました。しばらくすると男の子の集団もやってきて何やらわいわいとしています。親しく話した後それぞれがバラバラのグループになり帰って行きました。青春だな~この後同窓会でもあるんだろうか?あの中に恋人とか元恋人とかそういう恋愛模様もあったりするのだろうか?と思った時ふと閃きました。「もし大学生の元恋人同士が卒業式が終わった後偶然カフェで鉢合わせたらどう思うのだろうか?」と。もうお分かりだと思いますがそのストーリーを歌詞にしたのが本作です。
<詞のポイント解説>
■タイトル
この詞は女性視点ですが、上述の通り主人公は大学4年生の女の子です。元恋人と偶然カフェで再会し、別れたあとカフェを出て夜道を歩いているときの彼女の心情を歌っています。Andante(アンダンテ)はイタリア語のAndare(アンダーレ:歩く)に由来する音楽標語で「歩く速度で」という意味です。春の夜道を歩きながら歌う心情=春月夜のアンダンテという訳ですね。
■内容
1番は偶然の出会いに同様している様子を、2番では付き合っていた頃を思い出している様子を、3番はすべてをちょっぴり切なくも想い出として昇華していく様子を表しています。
2つポイントがあり、一つは春の季語が沢山出てきます。これはただの失恋ソングではなく、和風の季節感を大切にするため当時の私が考えたことだったのでしょう。使いすぎな気もしますが違和感なくストーリーに織り込んでいる辺りは時間をかけただけあるなと今見ても思います。
もう一つはサビの最後の「椿が揺れる」です。お気づきの方もいるかと思いますが3番サビの花風というのは桜の花びらですので、実は歌詞上では桜も出てきているんですね。(実際に私が住んでいる辺りには桜の木が沢山あるのですが椿は見たことがありません。)
椿は初春を象徴する花ですが多くの花言葉を持っています。そしてそれらの殆どは控えめな美徳や愛を表すものが多く、それらが揺れている…つまり主人公の女心が揺れている様子を表しています。桜は華がありますが椿の奥ゆかしさの方がこの曲の主人公にはあっていると思いました。そのため桜は花の名前で使うのは避け、花風と花びらと表現を留めています。散っていく桜と揺れる椿で青春の恋に別れを告げていく様子を表したかった訳ですね 。
このことはイラストを描いてもらった友人にも話してあります。なので椿は実花ではなく、花風(桜吹雪)に手を伸ばす主人公の振袖のイラストとして描かれています。
<作曲について>
この曲と「生きる。」「ホシノコエ」はほぼ同時に作曲しています。その中で一曲は和風の曲を作ってみたくて作ったのが本作で、王道のヨナ抜き5音階を使用してメロディを作成しています。私はサビだけ作り込んでから他を作ることも多いのですが、この曲は珍しくAメロ〜サビまでを詩を入れず先に曲を完成させました。コードも王道進行をベースに、メジャーとマイナーの雰囲気を行き来するように意識しています。アレンジはボーカル、アコギ、エレキ、ベース、ドラム、ピアノにストリングスとてんこ盛りですが…そう大好きなMr.Childrenを参考にしてます笑。
<新旧の違いについて>
初出は植物ソング投稿祭2024ですが、その後ボカロリメイク投稿祭にも出しています。アレンジはほぼ同じです。最初の作品だったため、音の被りが多く音数も書きすぎではないかとリメイク時に思いました。しかし半年前の自分を尊重してリメイク時もMIDIデータは殆ど修正しませんでした。最初にやりたかったけどやりきれなかったことに再挑戦してみたかったのです。結果としてMIXをかなり工夫しリメイクの方は大分聴きやすいサウンドになっているのではないかと思います。
植物ソング投稿祭版はまずセイカさんがライト版という大きな違いがあります。また楽器やプラグインもほぼ無料ソフトです。リメイク版はセイカさんを有料版に、音源もその後手に入れた物に差し替えました。MIXは楽器の聞こえ方や配置、音量バランスなどかなり大胆に変更しています。ただ今聴くと初版の良さもあって、特にライト版セイカさんのちょっと子供っぽい歌い方はそれはそれで良さがあり、この声も好きだったのでラスサビ前のブリッジパート(Dメロ)のラジオボイスエコーだけはライト版の声を残しました。昔の自分と対話してるみたいで曲にもあっていて気に入っています。
<京町セイカとの出会い>
セイカさんがメインのVo.になったきっかけもこの曲です。実は「生きる。」はNeutrinoのナクモくんで作っていました。理由は単純で私が男性だったので男性ボーカルを選んだというだけです。(当時は無料で使えるのがナクモくんしかなかったのです。)ですが、この曲は女性目線なのでナクモくんに歌ってもらうにはイマイチでした。そこでひたすら合成音声の声を調べて片っ端から聴き漁り、ピッタリだったのがセイカさんだったという訳です。そしてこの曲でセイカさんの声を気に入ってしまい、それからずっとセイカさんに歌ってもらっています。この曲が無ければ京町セイカPの10%manはいなかったと考えると感慨深いです。
<イラストについて>
このイラストは友人に描いてもらったものですが、実は初出時点で依頼していました。しかし友人は絵でお仕事をされてる方で予定を上手く合わせられなかった(途中で植物ソング投稿祭に出すことを決めたため)のと、私も初作品で自身もなかったので、自分にある程度能力がついたときにこの絵でリミックス版を出したいなと思っていました。作曲のデモの時から聞いて描いてもらったので曲の世界観はとてもよく表現されていて素晴らしいなと思っています。曲もそうですが、このイラストを沢山の人に見てほしいなと思っています。
<2つの投稿祭について>
植物ソング投稿祭は本当に何もわからないままとりあえずXとニコニコとYouTubeのアカウントを作って乗り込んでいった思い出の投稿祭です笑。ですが凄く暖かい投稿祭で、この時知り合ってから今でも仲良くさせて頂いているPさんが沢山います。主催者様の聴き周り生放送やおすすめなど初心者でもイベントを楽しんでもらえる工夫がされていますし、参加のハードルもそんなに高くないので、DTMやボカロ初心者で投稿祭参加してみたいけど不安…という方は是非この投稿祭をおすすめします。(同じ主催者様の動物ソング投稿祭というのもあり半年ズレで開催してるのでこちらもオススメです)
ボカロリメイク投稿祭は皆様自分の過去曲から選んでリメイクされるので、思いいれもあってか曲としての完成度のレベルが高い投稿祭でした。またXのFFさんのリメイクを聞いて懐かしさを感じられたり、新旧比較して聞けたりできるのが魅力ですね。
<最後に>
デビュー曲ということでかなり長くなってしまいました。ここまで読んで頂きありがとうございます。音楽は常に自分との闘いだと思っていますので、これからも過去の自分の作品と向き合いながら創作活動ができたら良いなと思っています。
2024.12.20 10%man