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カタール旅行その3 勝っちゃった(11/23)

◇起きて朝飯を食べる

かなり疲れているはずなのにあまり寝られず、朝5時頃には完全に覚醒してしまっていた。ぼんやりした頭で会社の携帯をチェックする。スマホの中で同僚がめちゃめちゃ働いていた。
日本とカタールは時差がちょうど6時間だったので、現地時間の計算がとてもしやすい。

ベランダに出ると外はカラッと晴れていて、Tシャツ1枚で心地の良い、最高の気候だった。
寝起きの光景で言うと、間違いなく人生で一番の朝だったと思う。


改めてシャワーを浴びると、頭から土臭い匂いがした。しっかり見ると、シャワーの水がほんのり茶色く燻んでいる。スーパーで買ったミネラルウォーターで流しても匂いは全然落ちない。
そしてどんなに洗っても髪の毛がキシキシになってしまい、中学生の時の陰キャ天パ髪質(精通のタイミングで癖っ毛になり出したと言う最悪なエピソードトークがある)に戻ってしまっていて最悪だった。


昨日の夜に朝ご飯用に買ってあったミニトマトを食べずにノータイムで捨てて、オレンジジュースを飲むとすぐにやる事が無くなってしまったので、7時過ぎには宿舎を出た。
その日は9時オープンのカタール国立博物館に行きたかったので、まずはその近くで朝ごはんを食べる予定だった。

宿から地下鉄の最寄り駅まではバスで15分ほどかかり、そこから地下鉄で25分くらいで街の中心部に着く。
早朝から博物館に向かう馬鹿は僕だけだったので、バスは貸切状態だった。
ひたすら続く砂漠の景色にスピッツが良く映える。

最高の気候



朝ご飯は博物館の近くにあるカフェで食べた。
現地の学生がバイトしているようなお店なのだろうか、接客時に聞こえたのは旅の中で最も崩れた英語で、正直何を言っているのかさっぱりわからなかった。

言葉が使えない僕を前に、注文を取りに来た店員はとても苛立っているように見えた。それはほぼほぼ敵意に近かったと思う。
そんな中でも店長と思わしき人物は僕に笑顔で対応をしてくれていて、とても助かった。

言葉が通じないなりに、はちみつとチーズのパンのやつを頼んで食べた。甘くて美味しい。
コーヒーはどこで飲んでも美味しいので、ここでも美味しい。

店内では有線で僕でも耳にした事があるような海外のヒットチャートが流れていた。会計中に突如、LiSAが日本語で流れ始めてびっくりした。会計中に店長に目配せをされたので、熱唱したらお店全体でかなりウケた。
僕を睨んでいた若い店員も、ようやく笑顔を見せてくれた。
嬉しい。この旅行で初めて、狙ってウケることが出来てよかった。

砂漠の中から突然駅が出現するので油断ならない


◇カタール国立博物館

朝9時に開くはずの博物館は、10時にならないと開かなかった。なんなんだ開けてくれ。
入り口の前の椅子とも建物ともわからないスペースに腰を下ろして開場を待った。

このタイミングで、手に入れた今日の観戦席がドイツ側だったことに気がついた。
雑魚すぎる。
まあでも、カタールまで来てしまっているし仕方がない。些細なことだと、思うようにした。


博物館は国の成り立ち、自然、文化とカタールのすべての情報がひとまとめになっていて、とても見応えがあった。

カタールという国は大雑把に言うとモンゴル帝国の一端から始まって、欧州やアフリカからの侵攻を経て、化石燃料によって独立した国家だった。その歴史は常に戦争にさらされていて、いくつもの勝ち負けがあった。

何かを勝ち取ったり、奪われていく歴史を身の前にして、僕には土器を作る力も、戦争で人を殺す力も、地下深くでガスを掘る力もないように思えた。今、僕が豊かなのは時代のおかげ他ならないと感じた。
ふと、異国に1人でいることを実感した。情けないけど怖くなって、日本に帰って友達や家族に会いたいと思った。


なんだかどっと疲れてしまって、椅子に座り込む。
そう言えば、と思い立って久しぶりにTwitterを開いた。
いつもの様にエロい漫画の広告が表示されていて、それを見てなぜかかなりムラムラして、しっかり勃起した。
意味が分からなすぎて面白く情けない。勘弁してくれ。

風土の展示では、一般的なラクダの名前の一覧があって良かった。地域によって、ラクダに付けがちな名前が違うのだ。面白い。
将来動物を飼う事があったら、ドーハで一般的なラクダの名前をつけようと思った。

カタールで一般的なラクダの名前としては、haag,talb,zamalなどが挙げられる



博物館を出て外観をパシャパシャ撮っていると、イラク人の2人が話しかけて来た。
同じアジア人として日本に勝ってほしい、頑張れよと励ましてくれた。
お互いの写真撮影を手伝って、最後はFC東京のタオルマフラーと共に一緒に写真を撮った。
とても楽しい時間で、もっと言葉がわかればなと強く思った。

誰やねんいえい

◇日本対ドイツ戦

試合は16:00キックオフだったので、14:00を目指してスタジアムに向かう。お腹が全く減らなかったので、アイス屋で禍々しい色合いのアイスだけを食べて、コンビニで水をたくさん買って地下鉄に乗り込んだ。

駅構内は各国のサポーターで満杯で、各々が大騒ぎをしていた。電車内でも南米系のサポーターはまるでブラスバンド部の練習かの様な音量で太鼓やラッパを鳴らし、3次会のカラオケかの様に大声で歌っていた。
倫理がまるで違って面白い。

ドイツの若い男性5人が車内のポールを中心に、片手を握り合って車座になって騒いでいた。
彼らは騒ぐだけでは飽き足らず、お互いの顔を平手でブン殴り出した。殴り合い、笑い合っている。凄すぎる。


とにかく、全員が全員興奮していた。

僕自身も興奮した面持ちでスタジアムに着く。
スタジアムはとても綺麗で、明らかに新品と言った面構えをしていた。
いそいそと両国の国旗を手に入れて、アルビレックス新潟のユニフォームを着たサポーターの方に写真を撮ってもらった。
Jリーグのユニフォームを着ている方が結構多くて、頼もしい。

スタジアム内はホームとアウェイの概念が曖昧で、ドイツ側の席にも日本人がちらほらいて助かった。隣の席も日本人の方で、とても安心した。
日本とドイツ以外の国の方も多く来ていて、いわゆるアラブの若富豪的な男性も沢山いたのが面白かった。

そんな中で、4列ほど前のドイツ人家族御一行は「日本の応援をする」ボケを全力で一生やっていて、周囲のドイツサポからしっかりと反感を買っていた。
逐一こちらに目配せをして来られても反応に困る。
流石に一緒に騒ぐ雰囲気ではないので、ヘラヘラしてかわした。

その後試合中にドイツが先制した際、彼らは最も苛立っていた中年男性に、肩を引っ掴まれて中指を立てられていた。
一緒に騒いでいなくて本当に良かったと思う。


試合開始が近づくにつれて雰囲気に乗せられたのか、僕自身も少しずつ気持ちが湧き上がっていった。
興味本位でカタールまでサッカーを観に来ているだけで、「日本代表を応援する」と言う気持ちはあまり無かったはずなのに、気がつけば「絶対に勝ってほしい」と拳を握りしめていた。

試合開始15分前には緊張からか、呼吸が浅くなっていた。
カタールだろうと何だろうと結局はサッカー観戦、いつもやってる事と同じだろうとたかを括っていたけど、甘かった。4年に1度のプレッシャーは凄まじい。
そこには名をあげてやると言った様な前向きな思いだけではなく、国家の威信や、掛けてきた時間への対価を期待するような、どんよりとした怨念に近い重圧を感じた。


試合は言葉にならない、素晴らしい90分だった。
喜怒哀楽の全てがあった。
途中途中で記事用のコメントを友人に送っていたから何とか正気を保てていたけど、特に後半はずっと興奮していて、まるっきし感情の制御が効かなかった。
酒井宏樹に代わって南野拓実が出て来た時が1番面白かった。そんな事して良いはずが無いから。

とにかく、凄い試合だった。しばらく忘れないと思う。

かなり味スタと同じノリ
足が長いだけの人が歓迎してくれていた なんで?

◇試合後

試合が終わった後も少し呆然としてしまい、自席に残ってぼんやりとピッチを眺めていた。
周りのゴミを拾う余裕は無かった。ゴミを拾っている人達は凄すぎる。
何とか力を振り絞って外に出ると、日本の応援団が大騒ぎをしていた。良い景色だった。


何か口にしないと宿まで帰れそうに無かったので、夜飯を食べにスタジアム近くのショッピングモールに寄った。
そこも各国のサポーターで超満員で、店もフードコートの席も全て埋まっていた。

荷物で席を取るわけにもいかず、店に並ぶ気力もなかったので、ビックマックセットをテイクアウトして、閉店している店のレジカウンターに腰掛けて食べた。異国に1人が染み付いて、完全に人目を気にしなくなっている。
マックは作りが下手なのか、日本の物より美味しくなかった。コーラすらぬるくて美味しくない。
正気に戻った。ありがとう!

スタジアム近辺は人で溢れかえっていて、地下鉄の駅に入るのも一苦労。入口までの待機列で20分ほど並んだ。
そこでは前に並んでいたフランス人夫婦が話しかけてくれて、日本の戦いぶりを褒めてくれた。
時間にして10分強の英会話レッスンは、疲れた身にかなり応えたけれど、この興奮を、感動を、拙くても誰かに直接話したかったのでとても有り難かった。

bon vayage!!となけなしのフランス語をなんとか捻り出して別れた。シチュエーションとは微妙に合ってないのだけれど、心意気は買って欲しい。

ふらふらになりながら宿までバスで帰り、スーパーで水だけ買って帰った。
21時過ぎには帰れたはずなのに、興奮していたのか1時過ぎまで寝られなかった。

勝った!

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