初心でいよう。
前回に続き、これも珈琲美美創業者の森光宗男さんから伺った言葉です。
お客さんがいない、ある日の午後でした。
珍しくカウンターではなく、緑が美しい窓辺の席に向かい合わせに座り、雑談を終えた頃。
森光さんが席を立ちながら、
「感動を呼ぶには、初心であることが大事だと思うんだよね」
とおっしゃいました。
「うぶ」という言葉の響きが新鮮で、私はハッとさせられました。
半世紀以上も生きていると、知ったつもりが身につきます。
素直に感動する前に、浅い知識や曖昧な経験値でつい解説してしまったり。
いえ、簡単に感動しないぞ!とばかりに斜に構え、
妙なものさしを振りかざしているかも…。
コーヒーの神様を信じていた森光さんは、理解を超えた宇宙的なひらめきに感動を見いだしていたのでしょう。
感動とは一期一会。
老いにかまけて情緒を耕さなければ、感動は遠のくばかりなのかもしれません。
そしてその日私は、小林秀雄と岡潔の雑談集「人間の建設」を手渡されたのでした。