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【行政法⑧行政行為_行政行為の種類・効力・瑕疵・付款】
いよいよ、行政法の本丸へ突入する。
行政主体が国民に対して行う行為はいくつかあるが、そのうち最も一般的な「行政行為」≒「処分」についてまとめていく。
◆行政行為の種類
まず大きく、法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為に分けられる。そして、法律行為的行政行為は、さらに「命令的行為」と「形成的行為」に分けられる。なお、言うまでもないが、国民の権利義務に干渉することになるから、法律留保の原則により、処分には法律の根拠が必要である。
では、順にまとめていく。
★法律行為的行政行為
行政庁の意思表示の通りの効果が発生する行政行為のこと。※行政庁の意思表示が必要、ということだけ覚えればよい。
〇命令的行為
国民が生まれながらに持っている活動の自由を制限して、一定の義務を課したり、その義務を解除したりする行為。以下の4つがある。完全に覚える。
①下命(かめい)
国民に対して一定の行為をする義務を課す。
課税処分、違法建築物の除却の命令、予防注射の実施命令、など。
②禁止
国民に対して一定の行為をしてはならない義務を課す。
道路の通行禁止、営業の停止命令、など。
③許可
すでに法令または行政行為によって課されている一般的な禁止を、特定の場合に解除する。(するな、と言われているものをしてもよい)
風俗営業の免許、火薬類製造の許可、自動車運転の免許、医師の免許、飲食店の営業許可、建築の許可、質屋営業の許可、酒類製造の免許、旅館業経営の許可、公衆浴場経営の許可、など。
※許可を受けないで行われた法律行為も有効である。(無効ではない)
※許可が被許可者の経歴・能力など人的性質に着目されて付与されていた場合(対人許可)、その地位は行政庁の承認を得なければ、譲渡・相続できない。一方、物の性質に着目した対物許可であれば、原則として譲渡・相続の対象になる。
④免除
すでに法令または行政行為によって課されている作為義務を特定の場合に解除する。(しろ、と言われていたのをしなくてよい)
租税の免除・猶予、児童の就学義務の免除、予防接種の免除
さてここまでが、命令的行為。次!
〇形成的行為
国民が本来持っていない特殊な権利や法律上の地位を与えたり、奪ったりする行為。これは3つある。完全に覚える。
①特許
人が生まれながらには持っていない新たな権利や法律上の地位を特定の人に付与する。
鉱業権設定の許可、公企業の特許、公務員の任命、河川の占有許可、外国人帰化の許可、公有水面埋立の免許、道路の占有許可、バス等の運送事業の免許、など。
※特許は、私人の本来的自由にかかわるものではない(あくまで特殊な権利)であるから、行政庁の裁量の幅が広い。一方、私人本来の自由にかかわる許可は、行政庁の裁量の幅は狭い。
②認可
私人の法律行為を補充して、その法律上の効果を完成させる。
地方債の起債許可、公共組合(土地改良区など)の設立認可、ガス供給約款の認可、農地の権利移動の許可、特許企業の運賃及び料金等の認可、河川占有権譲渡の承認、銀行合併の認可、など。
※認可の対象となる法律行為に瑕疵があるときは、私人は、認可後も当該法律行為の取消しを主張することができる。
③代理
第三者のなすべき行為を行政主体が代わって行う。
土地収用裁決等で当事者間の協議が整わない場合の行政庁による裁定など。
★準法律的行政行為
行政庁が単に判断したことや認識したことを表示した場合に、法律の規定によって一定の効果が発生すること。※意思表示が存在しないということ。
①確認
特定の事実や法律関係の存否について判断する行為のうち、法律関係を確定する効果が認められるもの。(判断を表示した瞬間、効果発生)
所得税額の決定、建築確認、当選人の決定、発明の特許、審査請求の裁決、など。
②公証
特定の事実や法律関係の存在を公に証明する行為のうち、法律の規定によって一定の効果が発生することとされているもの。
選挙人名簿への登録、戸籍への記載、各種証明書・鑑札の交付、など。
③通知
相手方に対して一定の事項を知らせる行為のうち、法律の規定によって一定の効果が発生することとされているもの。
納税の督促、代執行の前提としての戒告、など。
④受理
相手方の行為を有効なものとして受け付ける行為のうち、法律の規定によって一定の効果が発生することとされているもの。
各種申請、届出の受理、など
◆行政行為の効力
行政行為には、行政主体が行うからこそ生まれる不思議なパワーがある。
私人にはないものだ。この特別な力は、4つある。
※これら特別な力は、法令が特段の定めをしている場合を除き、(行政行為を)相手方が了知し、または相手方が了知するべき状態に置かれたときに発生する。
①公定力
行政行為が違法であっても、直ちには無効とならず、それが取り消されない限り有効なものとして扱われる効力。
※いやマジかよ…
②不可争力
一定期間を経過すると、私人の側から行政行為の効力を争うことができなくなる効力。※行政庁の側から取り消すことは可能!
③執行力
行政庁は行政行為の内容を自力で実現することができるという効力。
※私人が命令に従わない場合、行政が強制的に実現できるようにした。ただし、強制的な実現(執行力の発揮)のためには、命令を根拠づける法律とは別に法律の根拠が必要である。(要は、執行力つかっていいよ、という法律が必要)
④不可変更力
行政庁は一度行った行政行為を自ら変更することはできないという効力。
※不可変更力は、審査請求の裁決のような訴訟裁断的性質の行政行為について認められる。(何でもかんでも、というわけではない)
※重要判例
旧自作農創設特別措置法に基づく農地買収計画の決定に対してなされた訴願を認容する裁決(つまり、取消しを認容した)は、他の一般的な処分とは異なり、裁決庁自らの判断で取り消すことはできない。
◆行政行為の瑕疵について
〇瑕疵による無効
行政行為が違法であったり、不当だったりする場合、その程度によって以下の場合分けがなされる。
①公定力や不可争力が認められるもの
→取り消されるまでは有効であり、私人からは争えない。
②当然に無効となるもの
→行政行為の瑕疵が重大かつ明白である場合、当然に無効となる。公定力や不可争力は無視される。
※重要判例
瑕疵が明白であるかどうかは、当該処分の外見上、客観的に誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきである。
※重要判例
最高裁の判例は、明白性を必ず要求しているわけでない。つまり、第三者を保護する必要がなければ(課税処分のように)、その行政処分の瑕疵が重大であるだけで、当然に無効としている。
〇違法性(不当は入らない)の継承
原則、行政行為の瑕疵はそれぞれ独立して判断されるべきであり、違法性の継承は認められないとされている。しかし、先行行為と後行行為が一連の手続きを構成し、一定の法律効果を目指している場合は、例外的に違法性の継承が認められる。
※重要判例
農地買収計画に瑕疵があった場合、その後の農地買収処分に瑕疵がなかったとしても、違法性の継承が認められ、農地買収処分の違法性を争うことができる。
※重要判例
東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号)4条3項に基づく安全認定が行われた上で建築確認がされている場合に建築確認の取消訴訟において安全認定の違法を主張することの可否。
建築確認の取消訴訟において,安全認定が違法であるために同条1項違反があると主張することは許される。
〇瑕疵の治癒・違法行為の転換
瑕疵の治癒とは、事後的(行政行為後)に瑕疵がなくなること。
※重要判例
税務署長のした更正処分(税金申告額訂正)について、付記理由不備の瑕疵は、その後の審査請求の裁決にて当該付記理由が明らかにされたとしても、治癒しない。
瑕疵の転換とは、瑕疵ある行政行為を別の行政行為として見直すことで適法な行政行為として維持すること。
※転換にあたり必ずしも訴訟を提起して裁判所の確定判決を得る必要はない。
〇取り消しと撤回
★取消し
瑕疵ある行政行為の効力をその行為がなされた時点に遡って失わせること。(元からなかったことにさせる)処分庁とその上級処分庁が行える。
★撤回
適法に成立した行政行為について、事情の変化によりその行為を維持することが適当でなくなった場合に、その行為の効力を将来に向かって失わせること。処分庁のみ行える。
【補足】
※いずれも法律の根拠は不要である。ただし、撤回により相手方に損失が生じた場合、行政庁はその損失を圃場する必要がある。
※受益的行政行為(補助金の交付や営業許可など国民に利益を与える行政行為)の取消しや撤回は、相手方の不利益を上回るだけの必要性が認められる場合に限り、することができる。(なんでもかんでもできない)
優生保護法一四条一項による指定を受けた医師が、虚偽の出生証明書を発行して他人の嬰児をあつせんするいわゆる実子あつせんを長年にわたり多数回行つたことが判明し、そのうちの一例につき医師法違反等の罪により罰金刑に処せられたため、右指定の撤回により当該医師の被る不利益を考慮してもなおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる場合に、指定権限を付与されている都道府県医師会は、右指定を撤回することができる。
なお、同裁判では、法令上その撤回について直接明文の規定がなくても、指定医師の指定をてっかいすることができる、とされた。
◆行政行為の付款
行政行為に制限を付けるために付加された従たる意思表示のこと。以下の5種類がある。すべて覚える。
①条件(2種類ある)
行政行為の効果の発生を不確実な将来の事実にかからせるもの。
❶停止条件
事実の発生と同時に効果が生じるものを停止条件と呼ぶ。
※その効果は、成就するまで”停止”させられている、という意味。
(例)
本免試験に合格(不確定な事実)したら、
自動車免許を交付(効果)する。
合格まで交付が停止されている。
❷解除条件
事実が発生したときに、効果が消滅するのが解除条件。
※継続中の効果が、ある条件のもと”解除≒なくなる”される。
(例)
災害が落ち着けば、(不確定な事実)
道路工事の中止を解く(効果の消滅)
※道路工事の中止、という継続されていた効果が解除される。
②期限
行政行為の効果の発生・消滅を確実な将来の事実にかからせるもの。
(例)運転免許の有効期限
③負担
許可・認可などの授益的行政行為につけられるもので、相手方に特別の義務を命ずるもの。※負担が履行されなかったとしても、行政行為の効力が消滅するわけではない!!
(例)
運転免許に付された眼鏡使用の義務付け、道路の占用許可に付された占用料の納付、など。
④撤回権の留保
行政行為をするにあたり、将来、撤回することがある旨をあらかじめ確認しておくこと。
(例)
「食中毒を起こせば、営業許可を撤回する」とあらかじめ確認しておく。
⑤法律効果の一部除外
法律が認める効果の一部を行政庁の意思で排除するもの。
※法律にこれを認める明文根拠が必要である。
(例)公務員に出張を命じつつ、旅費を支払わないこととする、など。
〇付款の限界
★付款は、法律行為的行政行為にしか付すことができない。
★付款は、法律に明示されていなくても(法律効果の一部除外以外は)行政庁の裁量権が認められていれば付すことができるが、以下原則の制限を受ける。
・目的拘束の原則→本たる行政行為の目的以外の目的では付せない。
・比例原則→法目的に照らし、過大な義務をかすことはできない。
・平等原則→相手方を不平等に扱う内容はNG。
〇付款の瑕疵
付款が、本たる行政行為と可分(分けられる)の関係にある場合は、訴訟提起により付款のみの取消しを求めることができる。
一方、不可分の関係であれば、本たる行政行為の取消訴訟をしなければならない。
超重要な回でした。すべて覚えておく必要があります。
さて次回は、行政裁量についてまとめます。