【行政法⑬】<行政上の強制措置>
頻出の論点になるからしっかりまとめておきたい。
行政上の強制措置とは、行政機関が国民に強制力を加える手段のことです。
大きく分けて、将来に向けて一定の状態を確保する行政強制と、過去の違反行為に制裁を科す行政罰があります。
そして、行政強制は、国民の義務の不履行の有無によって行政上の強制執行と即時強制に分類されます。
一方、行政罰は、その違反の軽重によって行政刑罰と秩序罰に分かれます。
全体の構造としては以下です。
◆行政上の強制執行
4種類ある。侵害留保の原則から、いずれも法律(条例では足りない!!)の根拠が必要。なお、行政上の義務の履行を履行させるにあたっては、行政庁が自ら強制執行を行う必要がある。民事訴訟を起こして、裁判所に強制執行を委ねることは許されない。
①代執行
・・・代替的作為義務(代わりの人ができる義務)を履行しない義務者に代わって行政機関がその義務を履行し、または第三者に履行させて、その費用を義務者から徴収すること。別に法律で定められている場合を除き、行政代執行法の定めるところによる。
★代執行における4つの要件
❶代替的作為義務が履行されていないこと
❷その義務が法律(条例を含む)または法律に基づき行政庁から命ぜられたものであること。(※1)
❸その他の手段によっては、その履行を確保することが困難であること。(※2)
❹不履行を放置することが著しく公益に反すると認められること。
※1:代執行そのものを発動するには条例では足りないが、対象となる義務は、条例や命令(法律の根拠あり)を根拠としていてもよい。
※2:後述の「行政罰」は、義務履行確保の手段でないため、行政罰の規定があったとしても(同時に)代執行を執行できる。
★代執行の手続き(3つ、文書を送りつける)
❶まずは、相当の履行期間を定め、その期間で履行がなされなければ代執行するという旨を文書で戒告する。
❷履行がない場合、代執行令書による通知を行う。(これから代執行します)
❸最後に徴収を行う。実際に要した費用の額及び納期日を定め、文書をもってその納付を命ずる。国税滞納処分の例によってこれを徴収することができる。
※代執行を実施する際には、執行責任者が証票を携帯しなければならない。
※ちなみに戒告や通知について義務者が審査請求できる定めはない。
②執行罰
・・・義務を履行させるため、あらかじめ義務を履行しない場合は過料(ペナルティ)を科すことを予告し、履行がないたびごとに過料を徴収する。
【補足】
❶執行罰は刑罰ではないので反復して課しても、二重処罰を禁止した憲法39条には違反しない。
❷現行法で執行罰を規定しているのは、砂防法第36条しかない。
❸過料の漢字に注意!
③直接強制
・・・直接義務者の身体または財産に有形力を行使して義務の内容を実現すること。現行法は一般的制度としてはこれを認めておらず、個別の法律の根拠を必要とする。
例:成田新法による建物の実力封鎖など(というかこれしかない)
〇成田新法事件とは
概要:
左翼の過激派Xらは、成田空港の開港を阻止するため、空港周辺に多くの団結小屋を設営して妨害工作を行っていた。また、開港の数日前には空港内に車で突入し、管制塔を占拠した。
そこで政府は急遽、Xらの破壊活動を防止するため、空港周辺の工作物の使用を禁止する「成田新法」を定め、即日施行した。
運輸大臣は新法3条1項に基づき、団結小屋の使用禁止命令を出したが、Xは「事前に告知、弁解、防御の機会が与えられなかったことは適正手続きを定めた憲法31条に違反する」として処分の取消しと損害賠償を求めた。
論点:
刑事手続きを想定する憲法31条の保障は行政手続にも及ぶか。
結論:
・憲法31条の法定手続の保障は、行政手続にも及びうる。
・ただし、行政手続と刑事手続はその性質に差がある。
・行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、処分の内容とそれにより制限を受ける権利の内容などを較量して決定するものであって、必ず機会を与えなければいけないものではない。
④行政上の強制徴収
・・・義務者が金銭を支払う義務を履行しない場合に、直接義務者から金銭を徴収すること。国税徴収法の定めが基本になるが、国税債権以外を強制徴収するためには、別途、法律に「国税滞納処分の例による」といった明文規定が必要。また、裁判所に訴えを提起して徴収を委ねることは許されない。(宝塚市パチンコ事件と同様の論理)
◆即時強制(義務なし)
義務を命じる余裕がない場合、直接に相手の身体・財産に有形力を行使して、行政目的を達成する。もちろん法律の根拠が必要だが、法律だけでなく条令もOKとされている。(行政上の強制執行とは異なる!)
例:
感染症患者の強制入院、火災時の消防団員による救出のための建物破壊など。
※個別の法律にその手続きに関する規定があるだけで、通則的な規定は存在しない。(行政代執行法にもない)
◆行政罰
・・・行政上の義務違反に対して国民に科せられる罰のこと。行政刑罰と秩序罰の2種類あるが、いずれも法律の根拠が必要である。(条例でも良い。)
①行政刑罰
・重大な義務違反があった場合に科される。
・刑事訴訟法に基づき、刑事裁判によって科される。
・死刑・懲役・禁錮・罰金・拘留・科料を科す。
・罰を科すものは裁判所である。
※行政刑罰については、義務違反者の使用者や事業主をも罰する両罰規定を置くことができる。(秩序罰は不可)
②秩序罰
・軽微な義務違反(形式的違反行為)があった場合に科される。
・法律違反の場合は、非訟事件訴訟法により裁判所によって科される。
・条例違反の場合は、地方公共団体の長の処分によって科される。
・いずれも過料(ペナルティ)を科す、しか選択肢はない。
★二重処罰について(めちゃ大事!)
①行政刑罰と行政刑罰の併科は不可能(憲法39条)
※同一人物が1つの義務違反で2件の行政刑罰を受けることはない。
※もちろん、拘留+罰金、のように1件の行政刑罰で2種類の罰を受けることはある。
②行政刑罰と秩序罰の併科は可能
(行政刑罰と秩序罰の)両者は目的、要件および実現の手続きが異なり、必ずしも二者択一の関係にあるものではないため、二重処罰の禁止の法理に違反しない。
③行政刑罰と行政上の強制執行の併科も可能
過去の義務違反に対する制裁と未来の行政目的の実現、というように大きく目的が異なるので、二重処罰の禁止の法理に違反しない。