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マイケル・トマセロ「コミュニケーションの起源を探る」勁草書房

  1. なぜ、人間には6000ものバラバラな言語があるのか?

    ・人間には、自分の文化の共通基盤を増やして、他の文化に勝ちたい欲がある。
    ・集団行動の規範性が、ある特定の形をとる、濃縮すると文法になる。ある発話共同体が物語などで、繰り返して使用する慣習が構文になり、幼児は周りからそれを吸収。

  2. つまり・・
    言語とは発話共同体の慣習であり、普遍的なコードが生来あるというのは誤りだ。

  3. この本が参考にした人物は誰か
    ・グライス。人が助け合うこと=相互相利共生による協力的推論、はグライスが下地になっている(ただグライスは受け取り手に注視、トマセロは、発信者が相手の心を推論)
    ・スペルベル&ウィルソン。ただ、もう少し情報処理寄り。人間の取捨選択を性悪説的見地。4層読めば嘘はわかる、など。

  4. キーワードは?
    ・系統発生・個体発生
    ・志向性・アイコン的身振り
    ・相利共生・相互性・集団レベル到達
    ・模倣→順応→連帯→所属
    ・概念的共通基盤
    ・要求→知らせる→共有する
    ・明示的コミュニケーションは概念基盤の共有が多くなれば、少なくなる
    ・発話共同体

  5. キーワードを全部使用すると?

    トマセロは、この本において、系統発生的には類人猿レベルの志向性のある指差しなどによる要求、アイコン的身振りなどを用いて、知らせる、そして概念的共通基盤ができ、共有する状態で、相利共生・相互性・集団レベル到達という人間固有のコミュニケーションが成立し、これを文化を産む要因ととらえた。また、明示的コミュニケーションは概念基盤の共有が多くなれば、逆に少なくなる。(歯科医と歯科助手の例。)
    個体発生的に見ると、模倣→順応→連帯→で生まれた所属の欲求により、物事を共有したいという発話共同体の規範的行為が文法を生んだ。そのため、世界には6000以上もの言語が存在する。

  6. 上記を、オリジナルな捉え方で述べると?
    二軸でとらえると、動物・霊長類・幼児・類人猿・人間という時間軸(系統発生&個体発生=幼児)横軸を、志向性をもつ指差しと、言語の発達の受け皿となった、ものまね・模倣の段階という縦軸で繋げている。
    互いを助け合うこと、コミュニケーションを求めること、文化をつくり伝えてく行動などを、人間のみ固有の行為と位置づけ、言語のDiversity多様性の謎に答えをだしている。

  7. この本の構成はどうか?
    非常に良い構成。無駄が無い。図なども適切な量。読みやすく工夫(段落分けや箇条書き)例が多く専門書だけでなく一般書として通用しうる。夏休みのプールサイドや木陰でのバカンスにもってこい。

  8. トマセロは日本人に好まれるか?
    はい。西欧人やアラビア人などと比較し、より日本人の思考に近い論理を発展させている。
    ・受け手の心の状態を発信者が推測する概念は、察しの文化に近似。グライス(互いに歩み寄り)やスペルベル(騙されまいと努力)より日本人に近い発想。
    ・論理が性善説に近い⇄スペルベル。「人間は独自の理由からあまり厄介でなければ、他者の要求を満たしてあげるのが好き。」
    ・発話共同体の基盤共有が進めば、明示的コミュニケーションが少なくなる。まさに移民のいない国、日本ならでは。

  9. この本が私にとって便益があるとすれば?
    次のテーマについて研究する際、トマセロの考えが非常に有益だろう。①「日本人の引きこもりの若者のコミュニケーション」
    Communication among young Japanese shut-ins". トマセロやグライスによると、コミュニケーションには相手の心の推論をしながら、お互い擦り合わせをしていく側面があり、人間はコミュニケーション無しでは生きられない。日本人の引きこもりは、その辺りどうなのか?受け手の心の状態は、どのような文脈やディスコースにより推論しているのかを、引きこもりへのアンケート調査や実態観察をもって解き明かしたい。②「オノマトペの発達とトマセロの定義による明示的コミュニケーションの増減」The development of onomatopoeia and the increase and decrease of explicit communication as defined by Tomasello,日本語の特徴である多彩なオノマトペは、それのみで歯科の診察が可能なほど、言語の省略がなされている。トマセロは、明示的コミュニケーションは概念基盤の共有が多くなれば、少なくなると言ったが、果たしてオノマトペと日本文化の関係には、定量分析可能な関係性はあるのか、また逆に、労働者の移民受け入れの開始された日本で、「活用なく覚えるコストの低い言葉」としてオノマトペの使用が増える可能性はあるので、外国人移住者の多い地区に赴き、オノマトペを比較対象的中心に教えることで、その後の言語定着率を統計分析的に解き明かしたい。


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