2020 ADSTARS Film 受賞アイデア
前回D&ADにつづき、世界で最も敷居の低い国際広告祭「ADSTARS」のFilm部門から(クラフトは入っていません)
1 フィルムアイデア、ストーリーのよかったもの
2 フィルム単体としてよりも、統合、PR、デジタルなどのアイデアが優れたもの
3 個人的に好きなアイデアのワークス
4 それ以外全受賞作(ブロンズ以上)
を(自分のために)まとめています。ただの紹介はすでにどこかにあると思うので、アイデアの分析に重きを置いています。
ADSTARSはアジア(釜山)で行われる広告際で、なんと出品料がタダ! その敷居の低さから基本欧米からは「アジアのちっこい広告賞」と、見なされがちですがそれでも一部の貪欲なエージェンシーや、 AUS,NZからはドシドシ応募されているので、上位入賞は簡単ではありません。
また、世界の潮流をあまり受けていないので、他の賞レースに絡んでこないヘンテコなワークスが入賞している秘宝館的な面白さも魅力です。
凡例:
賞(G/ゴールド,S/シルバー, B/ブロンズ):"タイトル"/クライアント/エージェンシー/国 (その他時々末尾にプロダクションとディレクター)
1:ストーリー/フィルム企画のアイデアがよかったもの
G:"Dear Neighbor"/Bose/Wunderman Thompson/United Arab Emirates
商品の必要な状況をユニークに(この場合は優雅に)描くアイデア。「隣人のうるさい音あるある」を描いたノイズキャンセルヘッドフォンのCM。同じ曲をループして聞いてたり、大声で歌ってたり、深夜に掃除機かけたりなど、あるあるの構成&エスカレートの仕方と優雅な映像と音楽、ナレーションのトンマナが優れた上手CM。
G&S:"Fanta - In The Name of Play"/ The Coca-Cola Company / 72andSunny Amsterdam / Netherlands
「くだらないことをかっこよく描く」アイデア。(主にSNSで)バカなことをやる若者の挑戦をドラマチックに描いたCM。それなりによくあるアイデアだけどビッグブランドなので説得力がある。ストーリー的にオチ的なキリン男を最初に出したらダメなのでは、というのが僕のまず思った意見。
G:"Up, Up and Toupee" / Virgin Australia / DDB Sydney / Australia
ザ・ギャグ。旅行に行くときに親父のカツラが飛んで、到着した時に自分の頭に戻ってくる、という昔のギャグCMみたいなギャグCM。であるが、シチュエーションのエスカレーション具合はとても典型的で分析すると理にかなっているし、シチュエーション自体でまたふざけすぎてないバランスもいい意外に巧みなストーリー作り。ヴァージン航空というビッグブランドで作られているのが評価されている理由かと。Production: Revolver、Director: Gary Freedman。
B:"OREO x Game of Thrones" / OREO / 360i / United States
商品を使って、何かを物理的に作り上げるフィルムアイデア。オレオで、ゲームオブスローンズのオープニング映像を再現する。商品を使って、積み木的に何かを作りあげるだけでは新しさがないので、コンテンツの組み先や、モチーフの意義の持たせ方、それからもちろんアートディレクションが大事。
B:"The Relaxing Sound of Rain"/ Simon Community Northern Ireland /Ogilvy Singapore / Singapore
流行の映像モチーフを使うアイデア。流行りの雨音ASMRだと思ったら、ホームレスの啓蒙CMだったというオチで裏切るストーリー。「あなたを眠りに誘う雨音がホームレスを目覚めさせる」というタグラインでアイデアもわかりやすく力強くていい。
B:"Flute" Insist on Toyota Genuine Parts / Sectors Vehicles / Toyota Australia / BWM Dentsu Melbourne /Australia
競合をおとしめるCMアイデア。Toyota Australiaの純正パーツを使ってもらうため、「市販の代替パーツを注文すると、何をつかまされるかわからない」、というのをビジュアルのダジャレ的に描いたストーリー。直接的な競合企業じゃなく、広い概念で「競合」を規定すると広告として上手くいきやすい。ディレクターは、"The Boys"などで有名なオーストラリアのおもしろディレクターTony Rogers。企画は私。
B:"My Goal" / TMB Bank Public Company Limited / Ogilvy Group Thailand /Thailand
演出のワンアイデアがやたら面白いCM。欲しい高級品を描くストーリーの銀行のCM。CMのアイデア自体はどうってことないギャグCMなのだが、最初の天井を突き破るシーンが面白すぎて笑ってしまった。それ以外みるとこは特になし。
2:統合/その他プラットフォームアイデア
G:"LOSEV: DEAR BROTHER"/LOSEV/Rafineri/Turkey
既存コンテンツ(映画)の利用がうまいCM。白血病で幼い弟が死ぬ1973年のトルコ映画"My Dear Brother"のラストのシーンを死なないハッピーエンドに作り変えるフィルムアイデア。日本でも他のコンテンツの改題が流行って久しいからうまいモチーフが見つかればやりやすそう。
S:"Please Arrest Me"/RIT Foundation / Ogilvy Singapore / Singapore
ドキュメンタリー型フィルムで法律・文化のおかしさを問うアイデア。ここ数年「VS法律」のキャンペーンは流行っているが、この場合はレイプ。インドでは夫から妻へのレイプが顕在化しにくい。そこで、ジャーナリストが「自分の妻をレイプした」と一芝居打ち、警察に自首しに行くが全く取り合ってもらえず絶望する一部始終を描く。フィルムが迫力あって意外によかった。"Please Arrest Me"というタイトルもいい。
S:"Lotto - LO5T"/ Lotto New Zealand / DDB Group New Zealand/ New Zealand
インタラクティブフィルム。サイトの中でビデオを再生すると、数字探しが楽しめるという仕掛けだが、フィルム自体もよくできている。せっかく当てたロトのチケットが事故ってなくなっちゃって、という話をしていたら、固めたプラスターの中から出てきた、という、感動していいのかなんなのかよくわからないストーリーだけど。数字探しもできるサイトはここから。
S:"Play"/ Spark / Colenso BBDO / New Zealand
D&ADでも上位入賞していたプロダクト型統合キャンペーン。アイデアの中心は外で遊ぶとゲージがたまって、その時間、オンラインゲームができるスマートラグビーボール。CMはただのプロダクトの紹介ではなく、「ゲーム内キャラクターと会話して、外で遊ばなきゃならないことを申し訳なく伝える」内容。やっぱりこれだけ見て商材の意味が伝わるか疑問。
B:"DEAR GLENN"/ Yamaha Corporation / DENTSU INC. / Japan
テクノロジー(AI)×音楽。伝説的ピアニスト、グレン・グールドのタッチをAIで蘇らせる。"Sound of Honda"も"REVOICE"もそうだけど、感情や伝統、ストーリーなど極めて人間ぽいものを伴うと、テクノロジー系のフィルムは強くなる。
B:"Life Saving Recipe"/Kenchic / ISOBAR Kenya / Kenya
既存動画(レシピ動画)のうまい使い方。乳がんの触診のやり方を鶏のムネ肉を使って教える啓蒙動画をレシピの体裁で作る。乳がんの啓蒙ものはやや流行りをすぎた感があるが、レシピを利用するのはあまり見なかったので、使い方としてはちょっと新しく感じた。
3:要チェック
GP:"Next 100"/NFL/72andSunny Los Angeles/ United States
グランプリなので一応。NFL自身によるスーパーボウルのスポット。「子供がアメフトボールを持ちながら現在過去のスタープレイヤーがいる町中を走り抜け、スタジアムまで行く」というありきたりなストーリーを予算の力でスケールさせている。ビッグバジェット&ビッグブランドだがビッグイシューとは関係ない純粋エンタメムービー。プロダクションは名門The MillとPrettybird。ディレクターはMax Malkin。
B:"DESIGNING TOKYO" / Mori Building Co., Ltd. / DENTSU INC. / Japan
えげつないCGクオリティの森ビルブランディングムービー。ナレーションがいいなあ、と思ったら僕の敬愛するコピーライター藤本宗将。ディレクターは鎌谷聡次郎。
4:その他ブロンズ 以上全部
G:"Stripped of Security" /Samsung Electronics Germany / Cheil Germany GmbH / Germany
セキュリティの欠陥をズボンが脱げている人に置き換えた比喩CM。喩えの仕方が短絡的で、納得性も低く全然良くない。それは別として、最近はこういうオールディーズがゆったり流れる系のノンバーバルCMが流行りな気がする。ラコステもそうだった。
S:"Cravings"/ McDonald's / DDB Sydney / Australia
孫の顔を見たい母が、自分の妊娠の時に「ピクルスを乗せたソフトクリームがすごい食べたくなった」という話をしたら娘がそれを妊娠の報告とともに持ってくるお涙頂戴ムービー。
S:"Liberated Drivers" / NZ Transport Agency / Clemenger BBDO Wellington / New Zealand
スマホ運転啓蒙CM。スマホ中毒の人々を若干怖い世界観で描き、そんな人も車乗るときはスマホやめよう、というストーリー。演出はミステリアスでいい。
S:"Dolly's Dream - Are your words doing damage?" / Dolly's Dream / OTTO / Australia
ネットいじめをポップコーンを投げてくる友達たちに見立てたシリアスムービー。15才(当時)の女性がディレクターをやってるとか(Charlotte McLaverty)。
S:"The Punishing Signal"/ Mumbai Police / FCB India Advertising LLP /India
アクティベーションのケースフィルム(フィルム関係ない。)音や信号待ちの時に、クラクションを鳴らしまくるインドのドライバーに対して、「クラクションのうるささが85デシベルを越えると信号待ちのカウントがリセットされる」という悪夢のような施策。
S: "Don't Die Till That Day" / Central Department Store.,Ltd. / Wolf Bangkok / Thailand
「死ぬほど恥ずかしいことがあっても、セールの日までは死んじゃダメだ」というデパートのギャグCM。日本でも地方で時々流れている昔ながらのおもしろCMという感じ。ネタはともかくアートディレクションがきれい。なぜかタイのCMなのに、西洋人ばっかり出演。
B:"There's Someone For Everything" / Trade Me / Colenso BBDO / New Zealand
どんなもの(家、車)にも欲しい人がいる、ことを売り手と買い手を異時同図で描いたCM。
B:"Losing Lena" / Code Like A Girl and Creatable / Facebook Singapore Pte. Ltd. / Singapore
Techの世界でテストイメージとして使われるヌードモデルLenaの画像。ヌードモデルを引退して数十年たつのだから、もうこの画像を使うのはやめようという運動を、テック産業での女性の活躍が足りてない?ということを結びつけたようで、ちょっとよくわからなかった。これ自体はフィルムの施策ではないが、ドキュメンタリフィルムもあった模様。
B:"Matesong" / Sectors Finance / Tourism Australia / M&C Saatchi Sydney / Australia
オーストラリア出身のカイリー・ミノーグ主演の「イギリス人向け」オーストラリアの観光誘致CM。「あなたの言語を借りています。(母音以外)」などあるあるがふんだんのど直球企画。
B:"Holiday Troubles"/Heineken/Publicis Singapore / Singapore
ハイネケンの「休暇にアクシデントはつきものだ」というムービー。タグラインも起きているストーリーも驚きがないけど、曲Patsy Ann Noble - Accidents Will Happenがとてもいい。
B:"Samsung Good Vibes"/Samsung India/ Cheil India Pvt Ltd / India
盲目で施設に送った娘と、Samsungの振動型点字機能で、会話ができるようになるお涙頂戴ムービー。なんと2億回再生もされている。盲目の少女を用いて商品に繋げるストーリーが度を越してドラマチックで、ムービーの左上にずっとロゴが出ているのもやや不快。
B:"Time will Tell" / Schroders Taiwan / Dentsu Taiwan / Taiwan
台湾の投資銀行。長期投資を促すために、「Time will Tell」という11分の感動ムービーを作った。よくわからなかった。
B:"Gunfight" / Thai Health Promotion / Foundation Factory01 Co.,Ltd. / Thailand
副流煙で人が死ぬことを、ガンファイトにたとえた、タイのおふざけCMみたいなおふざけCM。副流煙で即死はしないだろ、とか、吸ってる人はどうなんだよ。とか矛盾炸裂。
B:"Saferkidsph Toys" / Unicef / TBWA SANTIAGO MANGADA / Philippines
家族によって児童ポルノが売られていることをぬいぐるみで置き換えるムービー。シンプルな擬人化だけどテーマがテーマだけに怖かった。
B:"THE FACELESS STAR" /Suntory Beverage & Food Limited / Dentsu.inc / Japan
初代ゴジラの中の人、中島春雄氏を「顔の映らない主役」として男臭く讃えるムービー。ディレクター本郷伸明。
B:"Substitute Workers"/Institution Laive / Potro Lima / Peru
ケースフィルム。牛乳工場の人々は、ペルーW杯代表の試合をみられない。なので、W杯に行けなかった国の人々と、試合の時間交代する施策。
まとめ
フィルムはアイデアやチャレンジが際立つものもあるけど、ノンバーバルストーリー×いい感じのオールディーズでサクッと上位入賞するのが多すぎてちょっとがっかり。つい低く見ちゃいがちだけど、国際アワードである以上上位で入賞するのはやっぱり簡単じゃない。皆さんもタダだから応募しまくりましょう。
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