質問070:大事な試合がある。ひたすらボールに集中すれば大丈夫?
回答
▶集中状態に「入るためのコツ」がある
おっしゃるとおり、ひたすらボールに集中すればよいのですけれども、慣れないうちは、これが簡単なようでいて、なかなか難しいのです。
なにしろ「ボールに集中しよう」と考えた時点で、それは「集中ではなくなる」からです。
ですから、集中についての理解を深めつつ、集中力の鍛え方、集中状態に入るためのコツをつかんでおくと、便利です。
「集中力の鍛え方なんてあるの?」「頑張って集中するしかないのではないか?」などと、いぶかる向きも、あるかもしれません。
だけど、頑張るのは逆効果。
こちらでご説明した「努力逆転の法則」が働いてしまいます。
本稿では、学校でも教えてもらえなかった「集中」について、エビデンス・ベイスト(効果実証済み)の知見を踏まえつつ、テニスにも応用できるようアレンジして、詳しくお伝えしていきます。
▶今すぐ、無料で、誰でもできる
集中のトレーニングとして、地味だけど「効く」のが、坐禅です。
「テニスの上達と何の関係があるの?」と思われるかもしれませんけれども、取りあえずこのまま読み進めてみてください。
近年、欧米では「マインドフルネス」として注目を集め、グーグル社など大手企業の研修でも取り入れられました(※注1)。
こちらでもご紹介したアップル創業者のスティーブ・ジョブズも、禅に傾倒し、実践していたことはよく知られています。
坐禅というと、仰々しく構えがちかもしれませんけれども、今すぐ、無料で、誰でもできる手軽さです。
そのスタートでありゴールは、「今・ここ・この瞬間に集中する」、ただそれだけ。
▶ただの呼吸が「悟り」の入り口!?
初歩的な手順をご案内すると、「今・ここ・この瞬間」に五感を総動員して、まさにリアルタイムで体の中を吹き抜ける「呼吸」を感じます。
リアルタイムの呼吸は、「今・ここ・この瞬間」だけ、感じられます。
「さっきの呼吸は浅かったなぁ。次の呼吸は深くしよう」などとは、「考える」ことはできても、実際に「感じる」ことができるのは、今だけなのです。
換言すると、感じているとき、考えられません。
考えないから、不安もないし、貪らないし、怒らないし、迷いもない。
ですから呼吸を感じているその瞬間、そこは「悟りの入り口」なのです。
▶「生きている充実感」が得られない理由
さらに言うと私たちが「感じる」ことができるのは、「今」だけです。
昨日の匂いを今、嗅げないし、2秒後の景色を今、見ることも、できません。
かけがえのない「今」は、「感じる」しかできないのですね。
一方、「考える」ことができるのは、必ず過去か未来について。
そして過去や未来を、私たちは生きられません。
そうである以上、考えている最中は事実上、「生きていない(死んでいる)」のも同然なのです。
ですから、リアルな味覚、色覚、聴覚がみなぎらず、味わえないし、見えないし、聞こえないから、日常生活がすっかりバーチャルな思考に乗っ取られて、抜け落ちる。
「生きている充実感」が得られないのは、そのせいなのです。
五感で感じるから、生きている実感が湧き、充実する。
▶雑念は「ダメ」ではなくて「チャンス」!
ところが坐禅中も、「そういえば、メールの返信しなきゃ!」とか、「あのトラブルはどうなったっけ?」とか、さまざまな自動思考(雑念)が、絶えず湧いてきます。
あるいは「こんなことして、テニスが上達するのか?」「何の得があるのだろうか?」などという損得勘定も、始まるかもしれません。
煩悩だらけの自分に、嫌気が差します(笑)。
雑念がよぎり、意識は思考へ逸れます。
だけどここからが、坐禅あるいはマインドフルネスの真骨頂。
逸れたら「ダメ」なのではなくて、「チャンス」なのです。
なぜなら思考へ逸れた意識から、グイッと五感で感じる感覚へと引き戻す単純作業の繰り返しにより、集中力というのは、確実に鍛えられるからです。
▶「心の反復横跳び」で集中力がつく
具体的には、思考に逸れたら、呼吸に戻す。
また逸れるから、また戻します。
この「逸れては戻す」「逸れては戻す」「逸れては戻す」「逸れては戻す」の、あたかも反復横跳びのような単純作業の繰り返しにより、体の筋力が培われるのと同様、心の筋力であるところの集中力も、鍛えられるのです。
呼吸から思考へと意識はしょっちゅう逸れますが、このとき、「イカン、イカン!」「何でこんなこと、考えちゃったんだろう?」などと反省や分析などせずに、呼吸から思考へと意識が逸れたことに気づいたら、今すぐ再び意識を「現行犯逮捕」し、リアルタイムの呼吸を感じられる感覚のほうへ戻すのです。
1回、「逸れては戻す」のに成功したぶん、1回分の集中力が培われます。
気になる思考が、緊急だったり重要だったりと、強力であるほど、考えることにとらわれ続けがち。
そんなときにグイーーーーッと五感の感覚へと引き戻せたならば、筋トレで重たーーーーい負荷をクリアできたのと同じこと。
そして戻すクリアに成功したのち、しばらくは思考へ逸れずに、呼吸をずーーーーっと感じ続けられるならば、マラソンで長ーーーーく走り続けられたのと同じ心のトレーニングにもなっているのです。
すなわち集中力の強さと長さ、いわば瞬発力と持久力が、培われるのです。
▶細かく対象を絞り込む
テニスもまったく同じです。
インプレー中には、ボールに集中しようとしても「バックに来てほしくない!」「さっきミスしたのと同じ高さのボールだ!」などの自動思考が、次から次へとよぎります。
プレーとプレーの合間にも、「さっきのフォアの違和感が気になる」「今日はバックアウトが多いなあ」など、意識できないくらいの高速度で、思考が脳内をビュンビュンと駆け巡ります。
そこで集中のコツを知っておくと、便利。
できるだけ細かく対象を絞り込むのです。
呼吸であれば、単なる「スーハースーハー」ではなく、空気が鼻腔をこする感覚、気流の乱れ、喉を通って肺へ送り込まれる様子、出入りする空気の温感差などを、どれかひとつに絞って、微に入り細に入り感じるようにします。
すると大雑把に感じていた「スーハースーハー」にも、実に「さまざまなバリエーション」のある変化に気づきます。
テニスでは「この一球は、絶対無二の一球なり!」などといわれますけれども、そっくり流用できて、「このひと呼吸は、絶対無二のひと呼吸なり!」。
▶さらに「集中力が高まる世界」へ
こうなると俄然、バリエーションの観察がおもしろくなって、さらに集中力が高まる世界に入ります。
そのままテニスに置き換えると、ボールの細部に宿る回転やフェルトの毛羽にフォーカスすると、大雑把に見えていたボールの行き来にも、「さまざまなバリエーション」があると気づく。
遠近法則に従い、相手コート側にあるボールは小さな「点」なのに対し、自コート側へ近づくにつれ、大きな「球」に映るサイズの変化も見て取れるのです。
いかがでしたでしょうか?
「1本集中!」などと気合を入れる頑張りとは、まったく違う世界がある。
ぜひ、取り入れていただければと思います。
▶おまけ・※注1 マインドフルネスについて
せっかく根づき始めた感のあったマインドフルネスも2024年現在、日本では一過性のブームに終わりそうなトーンダウンを招いている現状は、残念ではあります。
なので、日本では私たちだけでも、ひっそりとでも(?)続けましょう。
せっかくのストレス低減、それに伴う体への健康作用上なども認められている、エビデンス・ベイスト(効果実証済み)の実践なのですから。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero