烏口上腕靭帯 ー機能解剖から可動域との関わりを考えるー
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烏口上腕靭帯は【下垂位外旋・伸展・内転】の制限因子となりやすいです。
ただ実際には、それだけではなく全運動方向の制限に関与している可能性があります。
そしてそもそも「烏口上腕靭帯は靭帯なのに伸びるのか?」
このあたりを機能解剖・組織学から深掘ってみます↓
烏口上腕靭帯 × 機能解剖
これが烏口上腕靭帯(coracohumeral ligament:CHL)です。
烏口突起背側基部から上腕骨の大結節、小結節へと扇状に広がっていくような靭帯となります。
そんなCHLの役割は以下の通りです↓
上腕骨頭の下方偏位・前方偏位を制御したり、外旋運動を制御したりしています。
このあたりはCHLを前額面からみると、容易にイメージがつくかと思います。
また外旋の制御について、特に下垂位での外旋、もっというと内転+伸展位での外旋を制御しています。
ですので、烏口上腕靭帯の伸張性低下や周囲組織との癒着などがあると、このあたりの制限因子となりやすいです。
またなかなかイメージがつきづらいですが、わずかに上方偏位を制御しているとの報告もありますので、補足程度に頭に入れておいていただければと思います。
烏口上腕靭帯 × 可動域制限
・矢状面からのイメージを持とう!
上述したようにCHLは外旋運動の制限因子となりやすいです。
ただこれはあくまで前額面からCHLをみたときのイメージにすぎません。
こちらはCHLを矢状面から見ています。
このイラストでは、まだまだ解像度が低く、CHLそのものが記載されているわけではありませんが、ここでは腱板疎部を覆っているようにこの矢印の位置にあるということだけご理解いただければと思います。
そして今回もっともお伝えしたいのがこちらです↓
先程よりもCHLの解像度が上がり、矢状面からのイメージがつきやすいかと思います。
見ての通り、このグレーの部分が全てCHLです。
パッとみて、皆さんどう思いますか?
「がっつり腱板を覆ってるやん!」
これが初めてこのイメージをみたときの僕の感情です。
実際に、CHLが棘上筋や棘下筋、肩甲下筋の腹側、背側、それから上腕二頭筋長頭腱の腹側と一部背側を覆っていることがお分かりいただけるかと思います。
この時点で勘の良い方は、なんとなくCHLと可動域制限の関係性が見えてきているかと思います。
実際にこういった報告もあり、やはりCHLが棘上筋、棘下筋を覆っていることが記されています。
・腱板を覆っているということは?
この走行の大きなメリットは、腱板の緊張を確保していることです。
腱板の安定性を保つという大きな役割をCHLが担っています。
一方でデメリットとしては、何らかの原因でCHLが弛緩してしまうと、腱板の安定性はなくなり、CHLが過緊張状態に陥ってしまうと、腱板の自由度が なくなり、ともに腱板の機能不全を起こしてしまうことが考えられます。
腱板の安定性がなくなると、腱板自体が過緊張状態となり、自由度がなくなると、拘縮や周囲組織との癒着の原因となります。
こうして結果的に可動域制限を生んでしまう可能性があります。
・可動域制限との大事な関係性
そしてここでもっとも押さえておくべきはCHL自体の可動域制限との関わりです。
こういったことが言われています。
それこそ凍結肩をみている方であれば、このあたりは腑に落ちるんじゃないかなと思います。
凍結肩の病態については、まだまだ明確なことはわかっておりませんが、多くの方がCHLとの関係を疑問視している印象にあります。
ここをハイドロリリースすると、大きく可動域が改善する例も非常に多いです。
そして極めつけに、まさかの全ての運動方向への関与が示唆されています。
実際に前額面からのイメージだけだと、下垂位外旋の制限因子になりうるという考えに留まってしまうのですが、矢状面にて腱板を覆っているということを知ると、少し考えが変わります。
例えば、烏口上腕靭帯と棘上筋が一定期間の不動によって癒着してしまった場合。
烏口上腕靭帯の滑走性が制限されることで、棘上筋の動きも制限されることが考えられます。
これは棘下筋や肩甲下筋においても同じことが言えます。
このような形で、烏口上腕靭帯は全運動方向の制限と絡めて考える必要があるのです。
基本的には下垂位外旋の制限が主となるかと思いますが、下垂位外旋の制限がないから一安心というのは、少し安直かもしれないということです。
烏口上腕靭帯 × 組織学
・烏口上腕靭帯って伸びるの?
最後に組織学についても考えていきます。
CHLというのは"靭帯"です。
そもそも靭帯というのは基本的に密性結合組織であり、伸張性に乏しい組織です。
にもかかわらず、CHLは頻繁に伸張性という言葉と合わせて用いられています。
自分も新人の頃に、ある書籍を読んでいて、CHLのストレッチ方法という文言があって疑問に思ったのを覚えています。
え?伸びんの?素直にそう感じました。
それをきっかけに色々と調べてみました。
・一般的な靭帯構造ではない
まずこういった報告に出会いました↓
これを見た時点で伸張性とかストレッチ方法とかそういった言葉が合わせて用いられる理由は分かりました。
さらにはこういったことも言われています。
追い打ちをかけるようなこの報告から伸びる組織だという確信を持ちました。
ただなぜ柔軟性をもつのか?というところまで突っ込んどいたほうがいいので、そのあたりもリサーチしてみました。
・柔軟性をもつ理由
すると、こういったものを見つけました。
なるほど。含まれているコラーゲンの問題なんだということが分かりました。
本来、関節包靱帯はⅠ型コラーゲンが豊富で柔軟性というよりは弾力性をもつ組織です。
一方でⅢ型コラーゲンは、Ⅰ型コラーゲンに比べて細い線維であり、柔軟性をもちます。
なので、シンプルに伸びます(健常者であれば)。
そのため、我々としては、このCHLの可動域制限との関わりを理解した上で、CHLをターゲットに適切な介入を施していく必要があるわけです。
このように組織を一次元でのみ捉えてしまうと、可動域制限との関わりが浅い理解に留まってしまいますし、組織学的な観点をもっておかないと、靭帯が伸びるという違和感にすら気づきません。
本記事が一つの組織をより多角的に見るというきっかけになっていれば嬉しいです。
本記事内容は個人的な見解も含みます。全てを鵜呑みにせず、あくまで臨床のヒントと捉えて頂ければ幸いです。
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以上。たくみロドリゲスでした!!!
少しでも臨床のヒントになっていれば幸いです!!!