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変形性膝関節症 完全攻略BOOK


Question1. 重度の膝OAでも無症候性患者がいるのはなぜ?

レントゲンにて重度の変形が読み取れた場合にも「私全然痛くないよ!」という声は多く聞きます。

実際に僕のおばあちゃんも明らかなOAなのに、一度も症状を訴えたことはありません。

これはなぜでしょうか?

そもそも疼痛発生のプロセスはこのような流れを辿ります。

つまり痛みが生じる事の発端は関節の不安定性です。

膝関節の屈曲拘縮で側副靭帯(MCL、LCL)が緩んでいる…
明らかにACLで前方への引き出しを制動できていない…

こういった場合に、痛みを発する可能性が高いです。

「関節不安定性=疼痛」この方程式は正しいです。

では、ここに変形の程度が絡むとどうなるのでしょうか?

「変形の程度=関節不安定性=疼痛」?

ちなみに変形の程度は「Kellgren-Lawrence分類」で表現されます。

Grade 0:正常
Grade 1:関節裂隙の狭小化、または骨棘、骨軟骨硬化の疑い
Grade 2:関節裂隙の狭小化(25%以下)
Grade 3:中等度関節裂隙の狭小化(50〜70%)
Grade 4:高度関節裂隙の狭小化(75%以上)と著しい骨変形

理学療法ガイドライン公益社団法人 理学療法士協会(監修) 一般社団法人 日本理学療法学会連合(編集) . 理学療法ガイドライン第2版, 医学書院, p427, 2021.

一見すると、この方程式も正しいように見えますが、実は誤っています。

こちらをご覧ください↓

これは変形の程度ごとの前後動揺性を表したものです。

まさかの重度になるにつれて、前後動揺性は健常者と同じレベルに近づいています。

続いてこちらは内外反動揺性を表したものです↓

こちらは若干ではありますが、変形が重度であるほうが動揺性を認めています。

ただそこまで大きな差があるとは言えず、この時点で「変形の程度=関節不安定性=疼痛」が成り立たないことが分かります。

そして注目すべきはやはり前後動揺性の解釈です。

なぜ重度になればなるほど動揺性が軽減するのでしょうか?

GradeⅢとⅣの患者のステップ動作時の膝関節前後動揺はACLの有無で差は無かった。

Hamai S, et al. In Vivo Kinematics of Healthy and Osteoarthritic Knees During Stepping Using Density-Based Image-Matching Techniques. J Appl Biomech. 2016 Dec;32(6):586-592.

この報告はかなりその答えの核心をついています。

本来前後動揺性と聞くと、ACLの状態が関与していると予想されますが、ここではあまり関与していなかったとされています。

つまりACLが変性・消失していても、他の要素で制動が可能となっていることがうかがえます。

ここが膝OAの特徴で、個人的にこの原因は骨棘や靭帯のstiffnessではないかと睨んでいます。

変形が重度になる前に、必ず前後動揺性が増大するフェーズが存在しますが、その段階でその前後動揺性をなんとか抑制しようとすべく、骨棘や靭帯のstiffnessが増大し、その結果、偽物の安定性を獲得できているのではないかと考えています。

結論、個人的な見解としては、重度のOAでも無症候性患者がいるのは、骨棘や靭帯のstiffnessによって偽物の安定性が出現しているため、症状を発していないということになります。

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少しでも臨床のヒントになっていれば幸いです!!!