ばあちゃんからもらった四風原典(☆5)
「原神」というゲームをずっと、それはもうずっっとやっている。
僕は何事にも熱しにくく飽きにくい。
なんでも手を伸ばすタイプではないが、一度ハマるともうそれしかしなくなる。
それゆえに今まで「えっ!?まだそれやってたの!?」と言われてきたこともたくさんある。たまに恥ずかしくなるぐらい飽きにくい。
僕がまだ児童生徒であれば、未だにハンドスピナーで遊んでいると思う。
この原神というゲームもリリース開始と同時にプレイしているが、ずっと同じ熱量でプレイできている。しかし、次第にフレンドがログインしなくなり、新しいフレンドが加わり、またログインしなくなり…なんか不老不死の人生のような寂しさだね。
今でもずっと「うわー!すごーい!楽しいー!」ってプレイ初日みたいなこと言いながら毎日プレイしてる。2年も。
基本無料のゲームではあるけど、課金は嗜む程度に、コスパ良く楽しんでいます。
このゲームには本当にいろんな要素があるため、楽しみ方も人それぞれだが、僕の楽しみ方は「かわいい女の子を操作してクソ広いマップの景色を眺める」ということにある。
「かわいい女の子」を「高画質かわいい女の子」強化するためや、すごい広いマップを広く見渡すためにハードウエア課金を繰り返す。みんなと共にいろんな景色を見るためのお金。ああ、失礼。こりゃ課金じゃないな。旅費だ。
この原神を始めてすぐの頃、親から連絡があり
「ばーちゃんがもう長くない」と言われた。
90歳過ぎているし、まぁそろそろかって感じには思え、割と冷静だったと思う。
ばーちゃんに会いに行くといつもと全く同じように見えた。
僕が訪ねるとすぐ家を一人で出ていき、近くの自販機でファンタグレープを買って、ポンと僕の前に無言で置く。そして自分もグビグビとうまそうに飲む。
『今何思ってるの?』とは、いくら血のつながった祖母でも聞けなかった。
「うまかね」
「うん」
この「うまかね」が「うまいよね」の共感の意味だったのか、「うまいかい?」と聞いてきたのかは今でも分からない。でも共感だったらいいなと思うのでそう解釈している。
ばーちゃんはその数か月後にあっさり亡くなった。
「年を越せないと思うから」と親に言われていたが、余裕で年越しした。なんとも落ち着かない数か月を過ごしたが、その間も原神は毎日ログインしてデイリーミッションを取得し、着実に強くなっていった。亡くなった日も多分デイリーぐらいはやったと思う。それとこれとは話は別だ。
遠くに住むいとこたちが久しぶりに一堂に会して、ばーちゃんの面白エピソードなどを話した。僕も色濃く受け継いでいるが、この一家はどんな時でもTPOをわきまえず会話に笑いを入れようとしてくる。
葬式の際に叔父が水風船のようなものを持ってきた。よく見るとビニール袋に入ったファンタグレープとコーラだった。
「ばーさん好きだったからこれも(棺に)入れようや」
叔父から受け取って僕はばーちゃんの左ふともものあたりにファンタを置いた。あまりにシュールな光景すぎて笑ってしまって涙が出た。
火葬場の待合室の時間って案外長い。
自販機でコーラを買って飲みながら僕は暇つぶしに原神を開いた。
『待合室でガチャを引く行為はご遠慮ください』と注意書きもされていなかったことだし、なんとなくガチャを引いた。
おっ、星5だ。
それはこのゲームで最高レア度の星5の演出だった。入手したのは「四風原典」という武器だった。
なんとなくばーちゃんがくれた気がして、これからゲームのインフレが続いて、この武器が相対的に弱くなっても大切にしようと思った。
(先日2つ目の四風原典を入手した。このゲームでは同じ武器を合成することでさらに強くすることができるのだが、なんとなく「ばーちゃん四風原典」を当時のままにしておきたいので合成していない)
火葬が終わり、ばーちゃんの骨を拾う。
拾っているとどす黒く紫色になっている骨があった。
何か病気でもしたっけ?と話していたが、僕は先に気づいて一人で笑ってしまった。
その位置は左足側、色の正体はファンタグレープだった。
説明する係員を他所に、収骨室でTPOをわきまえない一家が爆笑した。
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