シアン展つれづれ雑記
カドカワ武蔵野ミュージアムにて「稲葉浩志作品展 シアン」見てまいりました。
片道4時間の道のり(日帰り)。人生初埼玉は東所沢というなかなかニッチなところ・・・駅に降り立つとやさしい雨がお出迎えしてくれました。
駅からの道はわかりやすく、緑豊かな公園の中にところざわサクラタウンというおしゃれな複合施設があり、その一角にミュージアムがどっしりとモダンな威容を誇る。
展示の内容についてはメモも取らず、詳細に記録できる記憶力もないので・・・全体の雰囲気と特に印象に残ったことを覚え書き。
B’z、ソロとも想像した以上に作詞ノート(のコピー)がずらーっと展示してあった。メジャーな曲はもちろん、稲葉さんたぶんこの曲覚えてないよね?…というようなマイナー曲まで。
ひとつひとつ丁寧に文字を追うには時間が全然足りないので、それぞれのページに綴られた文字の雰囲気・紙面から伝わる推敲逡巡苦闘の姿を少しでも感じ取るつもりで眺めて回りました。
デビューして間もない頃はまだ文字がコロッとかわいらしく、少し丁寧に書こうとしてる感じが初々しい。
程なくして馴染みのある流れるような、でも会報なんかの字よりも粗く崩した文字に。心と頭が動くスピードに手が追い付かずもどかしい、というような。
最近はスマホに打ち込んで手書きノートはもうやってないのかと思っていたけど、BANTAMの手書きノートも展示されていた。手直しの跡はなさそうだったので、もしかして展示のために書かれたのか。それとも最終確認として今も手書きしてるんだろうか。
特大ノート型オブジェは時間をかけてしっかり見ました。
「いつかのメリークリスマス」で「12月に出会った」というような記述があって・・・ふと、もしかして「HOLY NIGHTにくちづけを」の2人が「いつかの~」に繋がってる!?と勝手に想像してしまった。そう思うと、あの能天気に明るいクリスマスソングまで少し切ないセピア色に見えてしまう。
実物ノートもガラスケースの中に展示。ほんとにボロボロ。
ソロエリアに展示されていたノート、裏表紙をのぞき込んだら値段シール貼ったままで、その上から補強のガムテープがべったり張られていた。
なんか稲葉さんらしい~と思わず笑ってしまった。
ソロエリアの映像はシアンインタビューや撮影風景に、MVとen3.5の映像が挟み込まれる。
ライブ映像にはグッとこみ上げるものがあり、隣で見ている方からも同じように息をのむ感じが伝わってきて、心の中でそっと握手。
インタビューで稲葉さんが「歩幅」と口にしたとき、一歩足を踏み出すしぐさをしてて(かわいい)。一生懸命言葉をちゃんと相手に伝えようという気持ちがこういうところにも見て取れる。
あーーこういうのはなかなか文字だけではなぁ、映像でもいただけないだろうか、と願ってしまう。
映像コーナー横のガラスケースにen3.5リハで稲葉さんが使用したバインダーとその中身(!)が展示されていた。
実物を見られるなんてものすごーく貴重だと思うんだけど、気づかず通り過ぎたり、ちょっと見ただけで立ち去る人が多かった。おかげで私はガラスケースに張り付いてじっくりねっとり見ることができましたけど。
セトリ表には事細かに赤字と青字でびっしりと書き込み。円形のステージでの立ち位置だったりMCだったり。
事前にこれだけいろいろ頭に入れて、さらにその日その場所の雰囲気やお客さんとのやり取りなどで膨らませつつ、全身全霊で1曲1曲歌うって・・・すごい。と今さらながら。
「念書」歌い上げた時点で頭真っ白になって倒れ込みそうなのに(見てる方は真っ白になってる)、次の瞬間にはもう別の曲の幕が上がっちゃうんだもん。
稲葉さんのプライベートスタジオ志庵を模したエリアは少し薄暗く、正面にはまだ歌詞になっていないコトバノカケラたち(手書き)が映し出される。
稲葉さん自身が撮影された写真や蔵書など、ここも興味深い展示多数ながら足を踏み入れた時はいつも他に比べ人が少なく、とても静かで居心地がよかった。
手前に小さな木のイスがあって数人座って映像を見ているけれど、なぜか後方にあるふっかふかの椅子は誰も座らず、私はそこに座ってのんびり贅沢な時間を過ごした。
映像を見たり、ソロエリアから漏れてくる音楽に耳を傾けたり、その場の空気感に浸って。飲み物とか飲めたらずーっといられる。
その時間をメモを取ったり歌詞ノートの中身を細かく見たりすることにも使えたけど、たぶんきっとそれは書籍に収録されるだろう(希望的推測)と思って。
「場の空気」を味わえるのはここだけの体験。楽しみ方は人それぞれですが個人的にはとても良い時間だった。
映像左側の稲葉さんの写真とても好き。
写真とえば、会場全体あちこちでこんな稲葉浩志の大群に取り囲まれるという経験もなかなかない。つい立ち尽くして絶景に見惚れる。
前から思っていたけど、造作が美しいだけじゃなくとても雰囲気のあるお顔立ちをしていらっしゃる。その表情の奥になにか劇的な物語を想像してしまうような。それでいてはじける笑顔は仔犬のように邪気がない。
脳科学者の人が「容姿の美しい人は実力を低く見られる」と言っていたのを思い出す。
あまりに顔が良すぎるからシンガーとしての実力を認められるのに時間がかかったのかも(ファンとしてはまだ全然足りないけど)。そしてシンガーとしての姿が鮮烈すぎるあまり作詞家としての才能が隠れがちになっていたような。
今回の出版・テレビ出演含め、作詞家稲葉浩志がもっと認知されるきっかけになったらいいな…と思う。
おそらく書籍序文・あとがきになるであろう入口と出口の文章。なんて素敵!
歌詞は短い言葉で印象を残さなきゃならないからパンチのある表現になりがちだけど、稲葉さんの散文はとてもまろやか。丁寧だけど堅苦しくなく読みやすい。
ナボコフがジェーン・オースティンの文体を評した言葉に「独特のえくぼ」という大好きな表現があって・・・
稲葉さんの文にも特有の「えくぼ」があると思う。穏やかな表情の中にふっと現れるとてもチャーミングなえくぼ。
一方で、怖いくらい自分の内側をよく観察している人だと思う。他者には寛容だけど己を見つめる目は厳しく鋭い。その目で日々のぞき込まれる稲葉さんは大変だなあ、と思う。
トータル3時間。正直もっともっと見たかったけど、あのすばらしい空間を体感できて本当に良かった。
会場を出る頃には雨がやんでいて、上のような美しい空に出会いました。
すてきな展示をプロデュースしてくださった方々、しっかり丁寧に会場運営されていたスタッフの方々、どうもありがとうございました!!
でも、この展示会もテレビ出演もイントロダクションにすぎないんですよね。
本当のはじまりはセレクション版~特装版が出版されてから。より濃密で豊かな稲葉浩志の世界との出会いが待っている。