弱いまま強く続けていく
サブスクの配信事業などを行っているチューンコアジャパンさんのところに書いた「ニーネの魅力」をここに転載します。いつもと文体が違うんですが、サブスクでよく見かける文体を真似して書いてみたらこうなりました…自分ではなんかちょっとムズムズするんですが、しかしニーネの魅力がこれで少しでも広まれば嬉しいです。
「ニーネの魅力」
⓪バンドの24年間
1998年に大塚久生(vo/G)が中心となって結成されたバンド、ニーネ。
2000年に発売されたファーストアルバム「8月のレシーバー」で注目を浴びる。素朴で、激しく、荒々しく、あたたかいバンドサウンドが特徴。
これはファーストアルバム一曲目の歌詞の冒頭。
ボーカルの大塚久生はこういった本物の感情を真っすぐに、吐き出すように、時には泣きそうな声で歌い上げる。
ニーネは力強い歌が多いが、実際のところ、よわい。「よわい人間の決死の強がり」という感じだ。そして、あまり自分に自信がない。しかしだからこそ、よわくて自分に自信がない人間にしか作れない魅力的な歌をたくさん作ることができた。
これらの歌には「してあげられることなんてほとんどないけど、なんとかしてやさしくしたい。君と関わり続けていたい」という気持ちが強く表れている。ニーネはよわくて自信なさげだけど、いつだってやさしくて、情熱的で、人間のことが好きだ。そこが魅力のひとつだ。
だがニーネはただやさしいだけのバンドではない。
うつぎみで、日々の暮らしに疲弊している。気が狂いそうになっている。大塚はそういった自分のダークな面も正直に歌う。これが魅力のふたつめだ。ダークな演奏やダメダメな歌詞、閉じた心に救われる人もいる。そしてそれだけでは終わらない。
ニーネは暗いが、生きることを諦めていない。「うつぎみDXOK」は2001年、「まぼろし」は2020 年の曲だ。彼らはうつむきがちだけど、「それでも強く生きたいよ」と20年間ずっとずっとめげずに歌い続けてきた。
生活を続けていれば誰にでも起こりうる絶望や悲しみに何度も揉まれて、挫けて、死にかけて、でもまだ立っている。よわいくせにまだ立っている。負けないために、強く生きるために、やさしくなるために、とにかく歌を作り続けている。これがこのバンドのみっつめの魅力だ。
ニーネは2023年に結成25周年を迎える。現在メンバーは大塚とサダ(Dr)、サポートメンバーとしてろっきー田中(Ba )。現在もライブハウスを中心に精力的に活動中。
①「8月のレシーバー」
曽我部恵一に絶賛された1stフルアルバム。ラブソングが中心となっているが、当時流行し始めていた青春パンクとはまた少し違う独自のロックサウンドで注目を浴びた。荒っぽいが温かみのある演奏の中で、自分の本当の気持ちを正直に歌い上げている。
「茫洋」から漂ってくる狂気や「酔っぱらっている」「誰もいない」「かっこつけて行こう」の不安定さに魅了されファンになったという方は多いだろう。ボーナストラックの優しさと切実さが詰まった演奏は必聴。入門にはぴったりの一枚。
②「うつむきDXOK」
5曲入りのミニアルバム。theピーズからの影響を語られることもあるが音楽的バックボーンを見ると似て非なるものであり、「なんとなく似ているバンド」ではなく、theピーズの歌詞のようなニュアンスも残しつつオリジナルな音を鳴らしている。
「頼りなくても、うつむきながらでも、とにかくなんとかやってみよう」という弱さと強さの混じりあった演奏はリスナーに勇気と安心を与えてくれる。「恋しくて」は小沢健二のカバー。
③「アンチリアルロック」
Oooit Records制作陣のサポートのもと、万全のコンディションで録音された2ndフルアルバム。一見突き放しているようにも見える、厳しさと優しさの両方を併せ持った歌詞が魅力的。甘いだけではない恋愛、うまくいかない生活、そういったものを轟音のギターに乗っけて力の限り吐き出すように歌う姿勢はリスナーの胸を打つ。
「笑いたいときに笑えない。眠りたいときに眠れない。自分は上手に生きられない」という方はぜひ聴いてみてほしい。「I lOVE YOU」は尾崎豊のカバー。
④「ハッピータイム ハッピーアワー」
2nd「アンチリアルロック」の約半年後に発売された3rdフルアルバム。既発表曲のアレンジ、デモ音源やライブ音源の収録、ドラム担当のサダがボーカルに挑戦したりなど、様々な試行と工夫が凝らされている。ニーネの中でも特に変則的なアルバムだが、「タイ料理」「川沿い」「しあわせのひびき」など、後に代表曲となる完成度の高い作品を多数収録。
初期レッド・ツェッペリンへのリスペクトを感じる「君と話せない」のブルースロックアレンジや「1、2、ファッキュー」で始まる「酔っぱらっている」「空を見ていると」は、ロックが持つ格好良さを再認識させてくれる。
⑤Live at 渋谷屋根裏2003/10/26 + スタジオDemo
度重なるメンバーチェンジ、生活上での深刻なトラブルの連続など、息が詰まる毎日の中で録音されたライブアルバム。暗く混沌とした攻撃的な楽曲が多く、「ブラック・ニーネ」と呼ばれていたどん底の時期の作品だ。
自身の代表曲である「酔っぱらっている」を全否定するかのような「I Don’t need Love song」、気が狂う寸前の精神状態で作られた「はまれ(平凡以下の生活)」「俺の敵」「朝から曇りのこんな日は」など、最悪な気分の時にぜひ聴いてみてほしい。
⑥SEARCH AND DESTROY
暗く沈んでいた時期をなんとか乗り越えて制作された4thフルアルバム。ニーネの中では最も力強い、覚悟の一作になった。ギリギリの日常を疾走する半ばヤケクソじみた歌詞、狂気を感じさせるボーカル、荒々しく鳴り止まない攻撃的なギター。だがそれでも「いつも見てる」や「パーティーデイズ」を聴けばわかる通り「大切な人と関わり続けたい」という基本姿勢は変わらない。
「夏休みは終わりだ」は人気の高い代表曲。ライブ音源として収録されている初期の隠れた名曲「かまとと」もオススメ。
⑦小さめシャツの女の子 公園でIT革命
前作の4年後に発表された5thフルアルバム。それまでのシリアスな雰囲気は薄まり、「マカロンの歌」「やさしい気持ち」など、愛情に溢れたキュートな歌が多く収録されている。演奏もどこか楽しそうだ。とはいえ「あいつら全員殺したい」と叫ぶ「あいつらが頭のおかしいことを言っているぜ」や生活の疲労と限界を歌った「endless_summer」など、尖がった精神は相変わらず。
これ以降、ニーネは「友情」をテーマにした楽曲が増えていく。歌詞の面では転換点と言えるアルバムだろう。
⑧ニーネ・ナイン
硬質で泥臭いロックサウンドがズシリと刺さる、通算9枚目となるフルアルバム。ドラムのサダが交通事故で重傷を負い、バンドとしての活動が非常に難しくなっていた中で作られた。
だがこれまでずっと苦労続きだったフロントマン、大塚久生の歌は力強い。「ディクショナリーマン」や「どこにいても死にそうな時もあったよ」からは「もう簡単には負けたりしないんだぜ」という意志が、「街とリズム」や「よろこび」からは「できるだけ楽しんで行こうぜ」という健気さが垣間見える。サダが途中で放り投げた曲を大塚が拾い上げ完成させた「Heart Full of Soul」は感動的。
⑨ニーニング・ナウ!
結成20年、通算10枚目となるキュートなフルアルバム。ギターボーカルは大塚久生、ベースはヒライタカト、そしてドラムにサダが復帰。初期メンバー3人での録音はまとまりのある演奏を生み出した。
「キミが 穏やかで 負けずに 泣かずにいられる歌を歌いたい」(レッツロック!)、「人間ていいな 人間ていいな 好き好き人間 好き好き人間 好き好き大好き 好き好き大好き」(人間扱いしようぜ!)など、「他者を愛していこう」という情熱は1stの頃から健在。20年間、自分の本当の気持ちを正直に歌い続けてきたバンドの集大成だ。
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