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原点との再会
皆様、はじめまして。
群雄割拠!下剋上!なんでもありのお笑い界の片隅にてひっそりと慎ましく生きながらえております。てんこ盛り男と申します。
さて。
この度、私が訪れたのは日本の首都東京から西に約600km。
400年の歴史を持つ名城『福山城』が見下ろす薔薇と鉄鋼の街、広島県福山市。
何を隠そう私、てんこ盛り男の故郷でございます。
目的はこちら。
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私が訪れたのは2月末。
なぜオープン前の居酒屋に平然と押し入ることが出来たのか。
無論、オーナー兼店長であるこちらの村上タツノリ氏と旧知の仲だからである。
出逢ったのは18年前。彼は中高6年間の青春を共に謳歌し思春期を拗らせ二度と戻らない日々を駆け抜けた友であり、
何を隠そうてんこ盛り男人生初の相方である。
今日の私の苦悩と鳴かず飛ばずのバイト生活はこの男に原因の一端があると言っても過言では無い。
そんな彼がこの度、念願の居酒屋をオープンすることに。
店名は『串 むらかみ』。
店名も店内内装もシンプル。18年来の友である私からすると「なるべくしてこうなった」と思わずにはいられないほど随所に彼らしさを感じる店である。
今回は私とそして数人の同級生のためにプレオープンという形で料理を振る舞ってくれる。
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福山を代表する名産品クワイをサッと揚げ塩をふった一皿。
縁起物と言われる所以である角の部分はサクサクと。
実のほろ苦さと食感がたまらずついつい箸がすすむ。
村上氏が自身の居酒屋を持ちたいと思い立ったのは大学時代。
私と出逢った頃からすでにそうだったが当時の彼は根っからのバンドマンだった。
そこにいる全ての人が楽しめる空間であるライブハウス。
そんな空間が大好きであった彼はいつしか居酒屋という形で“皆が楽しめる空間”を作りたいと思うように。
その夢が今、形となり始まろうとしている。
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梅ときゅうりの相性は全日本人にとって周知の事実だが注目すべきはこのサラダ。
スライスされた玉ねぎ、細く切った大根、大葉をドレッシングで和えている。
玉ねぎの甘みをシャキシャキの大根が苦味で締め、大葉の爽やかな香りが口内を漂う。こんなの初めて。
前述したようにバンドマンであった村上氏がいかにしててんこ盛り男とコンビを組むに至ったのか。
きっかけは些細な、些細ではあるが燃えるような私の恋心である。
中学生だった私は隣のクラスのNさんに片想い。
接点も無く奥手だった私はなんとか気を引こうと文化祭や行事ごとではあの手この手で目立とうとするも芳しい結果は得られず月日が流れ、私は中学三年生に。
後にも先にもチャンスは年度末に予定された卒業祝賀パーティーのステージのみ。
そのステージを今までより鮮烈に!かつてなくセンセーショナルに!!
”そうだ、漫才をしよう”
そう決意した私は相方探しの旅に出たのだが例によって返答は「NO」。
大観衆の前に立ち、面白いことをしなければならない。ことと次第によっては思春期真っ只中の我々の自尊心は音も無く跡形も無く砕け散り、後の人生に暗い影を落とすこととなる。
行き先不明の泥舟に誰が乗りたいものか。
マッチ売りの少女の如く、誰からも相手にされず今にも心が折れそうな私がたどり着いたのが村上タツノリ氏の元であった。
驚くべきことに彼は二つ返事で私の相方になることを快諾した。理解が出来なかった。
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怒涛のメインラッシュ。仕入れからこだわった刺身、試行錯誤を繰り返した唐揚げ、修行で得たノウハウを元に改良を重ねた串焼きの数々。私の拙筆では何文字になろうと伝え切る自信が無いため、ぜひ実際に足を運び味わって頂けたら幸いである。三文字で表すなら“ウマい”。“美味い”でもなければ“旨い”でもなく“ウマい”が最も相応しいでしょう。
さて。
村上タツノリ氏と下心の傀儡となったてんこ盛り男のネタ作りの日々が始まる。
ツッコミてんこ盛り男、ボケ村上。
役割を決めたもののもちろんネタなど作ったことが無い。それどころか計画的に人を笑わせた経験すら無い私達には謎の暗黙の了解があった。
“オリジナルのものでなければならない”
なぜお笑い芸人を志しているわけでもない中学生2人がそのようなことにこだわったのか、それは今でも分からない。
しかしこのこだわりが我々コンビを、少なくとも私を未曾有の感動の境地に連れていくことになる。
シワの無いほぼ新品の脳二つで書き上げたネタはまさに当時私達が大好きだったトータルテンボスの漫才のインスパイア系。
それでも安直なパクリはけしてしていないと胸を張れる内容だった。
そして迎えた当日。
出番を待っている時、顔色を見たら外科も内科も泌尿器科でさえもドクターストップを出すレベルで緊張する私の横で平然と佇む相方。理解が出来なかった。
呼び込みと共にステージに上がる。
静寂の中、最初のセリフを絞り出す。相方が最初のボケを繰り出す。
極限の緊張を超えた私の耳には相方のセリフしか入って来ず、世界も色褪せて見えた。
九九より唱えたセリフが考えるより先に口から溢れたその瞬間、笑いが起こった。
それからはオチまでは一瞬だった。
爆発するかと思われた心臓は正常なリズムを取り戻し、80%OFFだった視界は360°に広がり視力は8.0になった。
会場内にいる誰もが私達が次に発する言葉を知らない。知ってるのは台本を書いた私達2人だけ。
それは数秒先の未来が見える特殊能力を手に入れたような感覚。
練習中に何度も想像した客の反応。想像した現象が目の前で起こることへの驚きと喜びが入り交じる感情。
脳汁というものが実際にあるなら海遊館2杯分は出たであろう。
結果、このステージ後も愛しのNさんに話しかけられることはなく目的は未達成に終わった。
しかしこの経験がまごう事なく、現在の私の原点である。
この経験さえ無ければ、あの時村上氏が私の誘いを断っていれば。
その偶然のどれか一つでも欠けていたならば今頃私は週休2日、マイホームを建て週末にはマイカーにマイファミリーを乗せて家族サービスに明け暮れていたに違いない。
彼のおかげでこのありさまである。
10年以上の時が経った今。改めて彼に聞いてみた。
「なぜあの時、何のメリットも無いのに一緒に漫才をやってくれたのか。」
彼は少し考えてからこう答えた。
「まあ、いつかやりたいとは思っとったからな。」
“本当かよ”と同時に“彼ならありえる”と考え直す。続けて彼はこう言った。
「あとお前とならなんとかなるやろ、とは思ってた。」
彼は非常に見どころのある男である。
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私の人生最初の相方は現在進行形ではあるが夢を形にした。
彼に負けないように私も近いうちに“夢を形に”とまではいかなくとも液体程度には形を持たせたい。