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大雨と猛暑の共存とは

1 はじめに

今年の夏は梅雨明けして猛暑になったと思ったら、その後大雨が降ったりで、大雨と猛暑が共存する夏となっています。今週(8月8日現在)は、日本列島の中で、北日本では大雨、東、西日本では猛暑がしばらく続く予報です。猛暑と大雨との共存は、2018年の西日本豪雨時にもありましたし、2004年には、新潟・福島豪雨や福井豪雨といった日本海側の豪雨と同時現象で、関東などの猛暑がありました。
猛暑をもたらす気団に冷たい気団がぶつかることで、前線活動が活発になり大雨をもたらす、あるいは、猛暑で海面水温が平年より高い状態で、前線等が影響して雨が降ると、水蒸気が多くて大雨になりやすい、などいくつかの背景要因は考えられます。今回は、前回のモンスーントラフの話題に続き、いま起きている猛暑と大雨の共存の背景を示しつつ、夏の天候への理解を深めていくことにします。

2 衛星画像と高層天気図

まず、ひまわりの雲頂強調画像を示します。雲頂強調画像とは、日中の領域は可視画像、夜間の領域は赤外画像を用いて、さらに雲頂温度の低い(雲頂の高い)領域を色付けした画像です。この画像では積乱雲が発達している領域がどこにあり、どんな形状をしているかがわかります。

図1 2022年8月8日09時(日本時間)のひまわり雲頂強調画像 気象庁HPより

図1の橙色の楕円内に発達した積乱雲が組織化していることがわかります。これらの発達した雲は東西に長く伸びる雲の帯の一部であることもわかります。梅雨期に中国大陸から九州の西方海上にこのような組織化された積乱雲の塊があると、西日本で大雨への警戒を高めることになります。これととてもよく似た状況がいま、黄海から朝鮮半島付近の緯度にあります。
一方、日本のはるか南東海上に青い楕円で囲ったところに、発達した積乱雲が散在する領域があります。これは熱帯低気圧ではありません。
同じ時刻の高層天気図を見てみましょう。

図2 2022年8月8日09時(日本時間)の250hPa高層天気図 気象庁HPより

左上の赤い矢印は、亜熱帯ジェット気流で最大120knotとかなり強い風が吹いています。その南の橙の楕円がチベット高気圧で、その北縁が前線帯で、図1の東西に伸びる雲域にも対応しています。一方、日本のはるか南東には大きな低気圧性の渦(青円内)があります。この渦は対流圏の上層のみに存在するもので、熱帯低気圧の渦とは構造が大きく異なります。天気図に青い線を引きましたが、右上端近くの低気圧から南西に伸びる大きな気圧の谷があります。これをミッドパシフィックトラフ(MPT)と呼んで、夏の上層天気図では、チベット高気圧とともに主役となります。青円の大きな渦は、このMPTから切り離された渦で、この天気図でも分かる通り、対流圏上層では比較的低温です。
このMPTから切り離された上空の寒冷渦は、上空の流れにより日本付近にも近づき、それで激しい雷雨などをもたらす夏の天候のアクセントにもなっています。ただ、今回は、この寒冷渦の北側でチベット高気圧の張り出しを東に強める役割を果たしているようで、東日本以西の猛暑の背景として捉えることもできるかと思います。

3 地上天気図と今後の見通し


地上天気図も見てみましょう。

図3 2022年8月8日09時(日本時間)の地上天気図 気象庁HPより

先ほどのチベット高気圧の北縁で特に亜熱帯ジェット気流の強いところの南側に地上の停滞前線があります。梅雨前線に近い性質をもつ前線と考えてよいでしょう。この前線の南には、太平洋高気圧のへりを回って南西風が日本海に入っています。これは暖かく湿った空気で、またこの時期は日本海の海水温も高いので、梅雨末期の九州のような状況と考えてよいでしょう。
また、ミッドパシフィックトラフは上層のトラフで地上では大きな太平洋高気圧があることがわかります。この高気圧の西への張り出し、チベット高気圧の東への張り出し、そして強い亜熱帯ジェット、というパターンはしばらく続きそうで、それが北日本の大雨、東・西日本の猛暑が継続する背景と考えられます。図4として、8月9日21時(日本時間)の予想天気図を掲げます。

図4 2022年8月9日21時(日本時間)を対象とする48時間予想天気図 気象庁HPより

中国大陸から朝鮮半島、日本海を経て北海道の東海上に連なる停滞前線は、梅雨末期の梅雨前線と同じ性質のものと考えて、今後しばらく北日本では大雨に警戒となります。相当長期間の大雨となる可能性もあり、特に大雨に脆弱な北海道では要警戒です。また、東日本以西では、基本的には猛暑への備えとなりますが、前線の位置が少し南にずれることがあれば、東日本以西でも大雨となる可能性もありますので、こちらの油断は禁物です。
梅雨時に同じような天気図が続いて西日本で大雨が降る際には、500hPaで朝鮮半島付近が谷となってそれが継続する傾向にあります。本日09時初期値の気象庁の全球モデルの500hPa面の予想天気図を明日9時と11日9時を対象とするものを掲載します。

図5 気象庁GSM24時間予報図 500hPa面 初期値8日午前9時(日本時間) 気象庁HPより
図6 気象庁GSM72時間予報図 500hPa面 初期値8日午前9時(日本時間) 気象庁HPより

このとおり、この季節にしてはしっかりした上空の谷が継続して、北日本から見ると西側に谷がある形になっていて、南西からの暖かい湿った気流が継続して流れ込む予想となっています。図6の日本の南海上のLはさきほどの上層の寒冷渦です。これがさらに北上してくると、東日本以西の地方も大雨の可能性が高くなってきます。

4 最後に

まずは、北日本では、長期間となりますが、大雨への警戒をよろしくお願いします。昭和56年の石狩川洪水など、8月には北日本での大雨災害がしばしば発生します。過去の事例では、台風絡み、ということが多いのですが、温暖化に伴うベースの変化で海面水温が高くなっている、気温も高緯度で高くなっている、という背景もあり、台風の力を借りずとも豪雨が発生する可能性があります。お盆休みに合わせて涼しい北日本へ旅行・帰省等を計画されている方も含め、よろしくお願いします。

もう一つの投稿のねらいは、大雨と猛暑との共存というようなニュースで見聞きする話題を通じて、夏の天候がどんなダイナミクスでどう動いているのか、その予測は何ができて何ができないのか、それを少しでもお伝えできればというのがあります。上層の天気図を今回は多く使いましたが、上層の天気図の大きな構造は数日先までの範囲ではかなり正確に予想できます。でも、1週間先以上のブロッキング現象(偏西風の強い蛇行により高気圧、低気圧の動きが止まってしまう現象)などは、予測が難しいことがあり、今年の夏の予報が難しい一つの背景になっています。


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