リモートワークを先駆けていた企業に聞く、在宅勤務で大切なこと 2020/04/08 #テンカイズ
新型コロナウイルスの影響を受け、ビジネス界でもリモートワーク、時差通勤など各企業が取り組みを始めました。しかし、こうした動きに従来から力を入れていた企業とそうでない企業で差が出たのも現実。今夜はそんな新たな働き方を早くから実践してきた企業に注目します。
MCは宇賀なつみさん、プレゼンターはBusiness Insider Japan編集長の浜田敬子さん。(※収録は2020/3/11に行われました)
スタジオの様子は【番組公式YouTubeチャンネル】でご覧いただけます。
宇賀:今週のゲストは株式会社オトバンク代表取締役社長、久保田裕也さんです。よろしくお願いします。
そもそもオトバンクどういう企業なのかって教えてもらってもいいですか?
久保田:オトバンクは、主に本を朗読して、それを自社の「audiobook.jp」っていうオンラインサービスで配信するということをメインでやっています。その中で浜田さんのBusiness Insiderの記事とかも配信させて頂いているっていう感じですね。
浜田:今みんな忙しいから、何かをしながらもう1個のことをしたいわけですよ。通勤とか家事をしながら。本を読みたいけど読む時間がない人も耳だけ空いてる時ってありますよね。そういう時に本を音で聞いて理解するっていう。
久保田:ちょこちょこ作品を増やしてって、今では3万点ぐらいです。
浜田:3万点!しかもプロの声優さんとかが読んでらっしゃるから、小説とかはラジオドラマ聞いてるみたいな感じ。
久保田:自社にもスタジオはあって、社員が作ってるんで、社員が元声優とか結構いるんですよ。だからノウハウとかも社員で溜めながら最近ここ2年、お客さんがぶわぁーって増えてきて、今130万人ぐらい。
宇賀:私の友達も本当に子どもを産んでからとにかく目と手が空かないから、本読むの好きだったのに読めなくて、それで聞くようになったって言ってました。
浜田:今Alexaとかのスマートスピーカーをお家に置いていらっしゃる方も多いので、ラジオを聴くか本聴くかみたいなので、みんな耳を楽しみに空けてますよね。
久保田:アンケート取ってても、割と通勤通学での利用スタイルが多かったんですけど、最近は家事しながら家で聞いてますとかかなり増えてきましたね。
宇賀:そもそもどうしてこういうサービスを始めようと思ったんですか?
久保田:元々は、大学生の時に視覚障害者とかご高齢の方向けに対面朗読のNPOを作ろうっていう話で立ち上げたんです。でも全く朗読の許可が取れないし、なんでこんなに上手くいかないんだろうっていうので調べたら、当時2004年ごろにアメリカではにわかに立ち上がってきてて、日本では全然っていうところだったんです。だったら市場を作って大きくしてから、そういった方々に良い形で提供するのが理想的だよねっていうので株式会社化しました。
<リモートワークを以前から定着させていたのはなぜ?>
宇賀:そんなオトバンクさんですが、今回はテレワークの話を伺おうということなんですよね。
浜田:ビジネスも面白いんです、働き方もすごくユニークで。
今回のコロナの騒動でいろんな企業に在宅ワークが広がってますよね。その中で先進的な企業探していたら、オトバンクさんが数年前から在宅ワーク進めてらっしゃって。
どんどん大企業に在宅勤務が広まっているけど、実際どの程度うまく機能してるのかっていうのを取材してみると、実はあまりみんなうまくいってないと。家に持ち帰れるようなパソコンが全員分なかったり、仕組みもないし、ツールもないし、カルチャーもないという会社が実は多かったんです。
だったらうまくいってる会社を取材しようってことで、今回オトバンクさんを取材したんです。
久保田:めちゃくちゃわかります。もうこれまでずっと試行錯誤繰り返してきてるんで、もう今は何もストレスなく全員対応できてますけど、今のお話はすごくよく分かる。
宇賀:いつから始めてたんですか?そういうリモートワーク。
久保田:リモートは2016年からフルリモートというか、どの仕事しててもリモートでオッケーっていうのをやっていて、そこからいろんな仕組みを入れていったっていう感じになるんですけど。
浜田:その時点でフルリモートって早いと思うんですよ。2016年なんて。何でそのフルリモートでオッケーにしようと思ったんですか?
久保田:一番大きな理由は自分達がまず年老いていくよねっていうところと、それと同時に自分の親とかもライフステージが変わってくるわけですね。介護が発生する、結婚して子どもが生まれる。それでも当たり前のように働けるようにしたいっていうこと。
あとは会社に来ればパフォーマンスが最大化するのかっていった時に、そうじゃないんじゃないかと。やっぱり会社に毎日来てて鬱屈とすることもあるし、それは自然なことだよねと。だとしたらそれを許容できるようにしようよと。
とはいえ会社としてスムーズに業務ができなきゃいけないから、そうするためにはどうしたらいいんだろうっていうのを、制度上も、インフラと企業のカルチャー的なところとか、もうずーっとこうやってきたっていうところです。
<社内で満員電車禁止令!?>
浜田:うちで取材させてもらったときに、久保田さんがある日、満員電車に乗ったと。満員電車の風景がある時、これで社員を通勤させるのはものすごく自分としてもストレスを感じられたということも一つのきっかけだったんですよね。
久保田:そうですね。やっぱり一番大きかったです、満員電車禁止っていうのを出すのは。
浜田:満員電車禁止令ってすごくないですか?社員に。
宇賀:禁止なんですか?
浜田:満員電車に乗っちゃいけない、健康によくないから。
久保田:乗っちゃだめですっていう。
宇賀:素晴らしいですね。みんな乗りたくて乗ってないですからね。
久保田:なのでうちはコアタイムもないし、定時もないので何時に来てもいいんです。ただ朝のラッシュ時間は絶対電車乗らないでっていうのはもうずっと言ってて。何でかっていうと、単純に満員電車ってすごい重労働だと思ってるから。
浜田:私もかつて小一時間乗ってましたけど、ぐったりしますよね。
久保田:自分も乗ってた時期があるので、やっぱりめちゃくちゃ汗かくし、それだけで疲れちゃう。疲れて朝一でミーティングとかって本当に集中できるの?っていうところ。
あとはやっぱり自分に原因がない、全く自責のないトラブルに巻き込まれるっていうのは、会社としてすごい大きな損失になるんじゃないかと。いろんなリスクがあるって考えた時に、絶対だめだろって思ったんです。それで会社の他の役員とかに絶対乗せたくないって言ったら、いいんじゃないですかっていうので、今の制度になっていきました。
宇賀:でも久保田さんの会社の社員は、逆にどういう時に出社するんですか?
久保田:どうしても顔を突き合わせなきゃいけない、例えば初めて会うお客さんとかだとさすがにっていうこともあります。ただ究極的にあまりいないんですよね。
<新しい働き方を定着させるまでの道のり>
浜田:久保田さんさっきうちはいろいろやっぱり試行錯誤ありましたっておっしゃってたんですけど、定着するまでにどんなご苦労がありました?
久保田:そういう意味で言うと、一番多分大変なのって組織のカルチャー、文化、組織風土を完全に変えなきゃいけないこと。やっぱり会社のルールって、ある程度性悪説に基づいてたりする部分もあると思うんですよね。
例えばリモートとか働く時間を自由にすると、「なんできてないんだろう」とか「この時間に来てるはずだ」とか。でもそれは別に明文化されてなくて、ただ来てるからその予定で業務を組んでたりするわけですよ。そうなると言わないんだけど、ちょっとした不満が溜まってくる。そうすると何かあった時にバンってなったりするんですよね。
浜田:リモートするからには、やっぱり自分の情報開示も大事だなと思いました。要は「私は今日家で何やってる」っていう。そうしないとみんなが家で何やってるかわかんないから。
宇賀:「本当に仕事してるの?」みたいな。
浜田:基本的には性善説に基づかなきゃいけないんだけど、人間って本当やってんの?みたいに思いがち。だから自分から「今日私は1日午前中は家で原稿書いて、昼はちょっと取材に出るけどまた戻ってこういうことやります」みたいなことを投稿するSlackチャンネルを作りました。
久保田:本当にすごいいいことで、それって。やっぱり心理的安全性がすごい大事なんですよね。性善説に基づいてもやっぱ本当?って思っちゃうと、やっぱ微妙な空気になるんですよ。オンラインでも。オンラインだからこそ、Slack上でもなんかやり取りがぎこちないなみたいな、絶対なんか思ってるだろっていうのが出てきちゃうんで、もう完全に開示してく、徹底してくってのがすごい大事で。
浜田:時間はかかりました?
久保田:そういうルールにするって言ってから、やっぱ1年とか1年半ぐらいはかかってますね。
浜田:例えばこういう行動はやってほしくないなみたいなことがあった場合は、どうしてたんですか?
久保田:うちの場合はその都度っていうよりも、いわゆるOne on Oneっていうのを定期的に社員と上長でやるんです。それも短い時は2週間にいっぺんとか。
加えて3ヶ月にいっぺん評価があるんですけど、その前に一緒に目標を立てて、それの進捗を追いながら後はもう雑談をするっていう。それも上司との信頼関係ができてないとできない。
浜田:その時は会うんですか?
久保田:オンラインですね。「今やってる仕事、実は全然面白くないと思ってて」とかいうのも全然言えるようにしたりとか、あとは例えば「プライベートでトラブルを抱えている」とかも何でも言っていい。その代わりそれは二人の間の話。
それはなんでかっていうと、その人のパフォーマンスを最大化するために何ができるかっていうのを上司は考えなきゃいけないっていうのを常にやるんです。そうするとみんなどんどん開示してくるので、結果的に会社としてはそういうカルチャーになっていく。
浸透させる中で大事だったのは、エバンジェリスト的な人。うちの会社は幸せなことに出てきてくれたんですけど、3人ぐらいが「こういう時はこういうふうにするといいよ」とかっていう、社内のWikipediaみたいなやつを作ってくれる。こういうことあった時にはこうするとすごくいい、うまく回るとかっていうのを全部残してくれて。
例えばミーティングがあったら、リモートだったりとか時間の感覚とかが不安な人をそのミーティングに一緒に参加させて、ほら全然うまく回ってるでしょっていうのを見せたりとかっていうことをやる。だったら僕たちもできるかもしれないっていうところでいろんな部署の人たちが動き出して、結果的に今のような会社になっていきました。。
宇賀:やっぱりリモートだからこそ信頼関係はもう絶対大事ですね。
<暮らしを大事にする若者たち、地方で働くという選択肢>
浜田:リモートはリモートでもオトバンクの場合、地方で働いている人もいらっしゃるしね。だから単に東京周辺に住んでて自宅でっていうんじゃなくて、地方でリモートっていう人もいる。
久保田:うちの開発の役員は釧路で子ども育てながら仕事してますし、あとは仙台にも山口にも。
浜田:それは東京で働いていた人が移住したのか、それとももともと地方の人を採用されたんですか?
久保田:両方ありますね。東京で働いてて地方に移住するっていう人と、あとは地方で働いてて地元に帰りたいっていうので地方から地方みたいな形。うちだったらそれできるよっていうので、うちに来てくれたり。
宇賀:やっぱり東京でこんなに高い家賃払って、こんなに高い家買ってまで住む必要があるのかって思い始めてる人も結構いて、遠くなると通うのに時間がかかるじゃないですか。通わなくていいじゃんそもそもっていうのにみんな気付き始めてるから。
浜田:やっぱ今の若い人って暮らしをすごい大事にするんだなと。ずっと一箇所、東京にいるって事にも疑問を感じていて、時々地方に行って働きたいと。休みがなかなか取れないっていうことがすごくストレスになってたら、休みっぽい環境で仕事するとか、午前中だけ集中して仕事して後は子どもと過ごすみたいな。そういう働き方に罪悪感がこれまであったんだけども、オトバンクさんの働き方を聞いてるとそもそもそれが本来の姿なのでは?と思う。
今うちも在宅やってるし、働き方を変えたいと思ってるけども、カルチャーを変えていくのってすごく大変だったと思います。
久保田:幹部とか管理職とか、そういった方々が積極的にやっていく。それで何かおかしいですか?っていう感じにしていくと、やっていいんだってなってきて、じゃあ僕もやってみようと。しかもそれで仕事の成果出てれば全然高く評価されるしってなると、全然これで大丈夫だよっていうのがわーっと広がっていく。
宇賀:この時間は株式会社オトバンク代表取締役社長、久保田裕也さんをゲストにお迎えしました。ありがとうございました。