コロナに後押しされ変化する消費の価値観。シンプルライフの考え方を深掘り! #テンカイズ
※このnoteは、2021年6月23日にTBSラジオ「テンカイズ」で放送された内容を編集したものです。
新型コロナウイルスにより、働き方や自宅での過ごし方に大きな変化がもたらされた2021年。在宅時間の増加に伴い、掃除や断捨離に勤しむ人が増える一方、外に出る機会が減少し、衣服や化粧品の購入額は減少傾向に。
そんな中で注目されるキーワードは「シンプルライフ」。
劇的に変化を見せる人々の消費の価値を、NewsPicksの野村高文さんに解説してもらいます。
1. 「シンプルライフ」はなぜ広まってきている?
宇賀:今、人々の消費に対する価値観が変わってきているんですか?
野村:はい。以前、NewsPicksで「シンプルライフのつくり方」という特集を掲載しました。
私がデスクを担当して、具体的にそういうスタイルで過ごされている方や、マーケターの方の声を取り上げながら、今の世の中の雰囲気がどうなっているのかを探った特集でした。
まず起きている現象としては、在宅時間が圧倒的に増えたことによって「家を綺麗にしたくなる」こと。
宇賀:わかる、わかります。
野村:散らかっている部屋では仕事もしたくないし、そもそも居たくない。在宅時間で関心が高まったこと第1位が「掃除・断捨離」で、そもそもモノを捨てたいというマインドになっているということです。
同時に、外に出歩く機会が減ることで、洋服や化粧品の消費額が激減しました。
宇賀:これはみんな言っていますね。
外出時もマスクをしているから、メイクをしなくなったという人が周りに多いです。
野村:化粧品はもちろん、外出の頻度が減ると必要な服の数も減りますよね。そのような理由で、ここ5年で最低記録を叩き出しています。
もう一つのテーマとして「エシカル消費」というキーワードがあります。
最近、ESGやSDGsという言葉はよく聞きますよね。営利を目的とする企業であっても、そうした部分を無視できなくなりました。単なる社会貢献活動ではなく、経営戦略の最優先課題として取り上げなければいけない世の中になっています。
消費の動向も同様です。
「これって社会の役に立つモノなの?」、「持続的な環境に配慮しているの?」と気にする消費者が増えてきています。研究者によると、アメリカやインドの方が進んでいて、日本は先進国の中でもまだ広がっていない方だそうです。ただシリコンバレーのビジネスが数年遅れで日本に上陸するのと同じように、このようなムーブメントになったものは、数年後に日本にやってくるはず。
諸外国で広まったのが2010年代後半、現在日本にこのムーブメントが徐々に来ているという状態です。
2. ファッション界での「一生物2.0」
野村:ファッションのアナリストの方に話を伺って、ファッションのトレンドの中で変化しているのが、使い捨てのものが無くなってきているということ。「一生物2.0」のような動きです。
宇賀:2.0というのは?
野村:元々「一生物」という概念はありますよね。
もちろんハイブランドと大衆的なもので違いはありますが、最近ではファストファッションが流行していました。ワンシーズンで買い替えていくスタイルです。
ただここで揺り戻しが起きており、シーズンごとに新作を出してビジネスをするというよりも、定番品を出していくスタイルを取り始めているんです。
宇賀:定番物はずっとお店に置いておけるけど、新作って時期が過ぎたら引っ込めないといけないですよね。ブランドの価値を守るためには、それを安売りするわけにもいかない。それで最終的に廃棄されたりして、ものすごくもったいない……。
野村:特にファッション業界では、「まだ着られるんだけど、廃棄されてしまう」という状況が社会問題になっていますね。
今回、名和高司さんというESGの研究をされている経営学者の方にも取材をさせていただきました。名和さん曰く、やはり企業が地球から資源を掘ってきて、何かを新しく作るよりも、もうすでに地球上にあるものでビジネスをしていかなければならないと指摘されていました。ファッション業界は、まさにその代表例なのではないでしょうか。
3. とにかく、アートにマネーが流れている!
野村:もう一つは、アートで内面を満たす流れです。
宇賀:先日も、ニューヨークでアートのレンタルサブスクをビジネスでやっている方がゲストでした。
野村:自分の空間を豊かにしたいという人もいれば、世の中自体が「即物的なもの」から「心の充足」みたいなところに広がっていることもあると思います。ただ、とにかくアートにマネーが流れている。
日本最大級の「アートフェア東京」では、2020年はコロナで中止になりましたが、今年は30億8千万円と売上過去最高を記録したそうです。
アートオークションでも作品価格が高騰していると言われています。
宇賀:以前、野村さんが「投資ブーム」について解説していただいた回でも、取り上げられていましたよね。お金のある人たちが、アートをより買うようになっていると。
野村:ありましたね。
その「金余り」というところと、「心の充足」というところが二つ合わさって、アートの値段が上がっているという現象があります。
3. 出版業界でも、ロングライフな書籍が売れている
野村:そして、「使い捨てから、ロングライフ」という考え方の情報版が起きています。
2010年代のトレンドは、細かい情報がたくさん流れてくる「即時性」でした。2020年代では変わって、まとまったもの、決定版のようなものが支持を集めるようになってきています。
一つのキーワードが「鈍器本」。
分厚い本っていうのが、今、書店店頭で増えています。
私は出版業界にいたのでよく分かるのですが、そういった分厚い本って、元々の常識では売れないものです。しかも、作るのが大変。どの編集者も敬遠するもので、これまでの出版界では作りづらかった。
しかし今では500ページとか、これまでのビジネス書2〜3冊分ぐらいある本が、普通に店頭に並んでいるんです。価格も、これまでの本が1500円くらいだとしたら、3000円以上の高い値段になるんですが、それが割と売れていると。
宇賀:へえ、なんでだろう?
野村:よく言われているのが、みんなフローの情報はお腹いっぱいになってしまっているということ。「Easy Come, Easy Go」という言葉がありますが、簡単に来た情報については、すぐに忘れてしまうということが起きているんです。
宇賀:より早く、より新しく!みたいなものに、疲れてきているんですね。
野村:それよりも一つのテーマにどっぷり浸かるとか、手元に置いておきたい一冊とか、そういったニーズが出てきたということです。
また出版業界では、どんどん新刊本が売れなくなっていると言われています。
これまでの常識では、ベストセラーランキングには必ずその年に出版されたものが入っていました。ただ最近では、数年前に出版された書籍がランキングに入り続けるという傾向が続いているんです。
要は新しいものを出していくというよりも、以前からの名著を買って、何回でも咀嚼しようという動きが見られているということですね。
4. FIREムーブメントやミニマリストたちによるシンプルライフ
野村:最後は、FIREムーブメント。
この「FIRE」という単語の検索数が、今年に入って急増しています。
FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の略で、キャリアの早期から資産を蓄積し、適切に運用するとともに、生活費を極小まで切り詰めることで「経済的独立」を達成し、若年での退職を目指すという動きです(参照:『【直撃】30代で会社を卒業。「FIRE」という生き方』/ NewsPicks)。
特にコロナ後の株高によって、これが実現できるようになった人が増えています。ただFIREの定義としては投資の上がりの中で生活していくことになるので、贅沢はできません。基本的に生活をシンプルにせざるを得ないんです。シンプルライフを後押しする原因の一つになっているのかなと思います。
宇賀:ちょっと前に「ミニマリスト」も流行りましたよね。経済的には広い部屋に住めるのに、何もない部屋にあえて好んで住む人たち、みたいな。それも理由になっているんでしょうか?
野村:ミニマリストもリバイバルが起きていて、Netflixでも新しいドキュメンタリーが配信されていますね。
ミニマリストと聞いて頭に浮かぶのが、何もない部屋。
でも実はミニマリストの概念を掘り下げていくと、定義としては「自分に必要なものを分かっている人」のことなんです。
例えば、車が好きな人は車を買っていい。
しかし「周りからかっこよく見られたいから」、「これくらいの歳だったら良いブランドの車に乗っていなきゃ」といった感情は、他人の価値観、他人の物差しで消費をしていることになります。
そうではなく、自分は一体どこに心の充足を感じるのかを明確に分かっていて、それを選択できている人のことをミニマリストと呼びます。
数年前に比べ、最近のミニマリストの取り上げ方は、こちらの定義の方に目を向けられている傾向が増えています。背景には、「成長社会から成熟社会へ」と言われる考え方が、いろんなところに現象として表れていることがあると感じています。
成長社会には、無いもの、欠陥が世の中にたくさんあります。満たされていないニーズが数多くあり、それを満たしていくことで企業も業績を伸ばしていき、個人の給料も増えていく構造です。
しかし今は、無いものが無くなってしまったんです。
山を登った高原にいる我々は、これからどう生きるのか。自分に本当に必要なものを選んでいく作業が必要になるし、サステナブルで地球環境に配慮したものを選んでいかなければならなくなります。
宇賀:でもコロナが落ち着いたら、我慢した分「無駄遣いしたい!贅沢したい!」みたいなムーブメントが来たりするんですかね?
野村:可能性はあると思います。
短期的に消費がすごく盛り上がる時期が来ると、私は思いますね。
宇賀:今回は「変わる人々の消費の価値観」について解説していただきました。ありがとうございました。
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