#29『インサイド・ヘッド2』ネタバレトーク(の進行台本)
各ポッドキャストに『インサイド・ヘッド2インサイド・ヘッド2』のレビューをアップしました。
Apple Podcast ←Appleユーザーの方はこちら
Spotify Podcast ←Appleユーザーでない方はこちら
前作から9年、感情たちの大冒険が帰ってくる。
感動を呼んだ『インサイドヘッド』の続編がついに公開。中学生になったライリー、新たな感情たち-思春期-とどう向き合うのか。
日本語吹き替え版キャストは、小清水亜美、大竹しのぶ、多部未華子、花澤香菜など
○Summary○
感情の発出を表現するうまさ
ビッグブラザーたる「シンパイ」
エリクソンの発達心理学の影響下にある作劇
進行台本
収録に使った台本を掲載します。自分用なので誤字脱字などはご愛敬。
もはや可愛げがない
天下御免の映画バナシ
改めましてご機嫌いかがですか
このポッドキャストは
私カシマが、毎週新作映画を取り上げ
ざっくばらんに、忖度なしにネタバレ全開で語るプログラムです。
番組のフォロー、お忘れなく。
ということで本日の映画は「インサイドヘッド2」です
2015年公開のピクサーアニメーションスタジオ製作のアニメ映画『インサイドヘッド』の
続編
中学生になったライリーの頭の中、新たな感情が芽生えたことで
大混乱の時代―思春期―を過ごすことになる。
監督は長編映画初監督のケルシー・マン。彼は近年のピクサー作品でシニアクリエイティブチームでクレジットされていましたが、今作でついに監督デビューです
日本語吹き替え版の出演が小清水亜美、大竹しのぶ、多部未華子、花澤香菜などなど
ということでございまして
素晴らしかったですね
1に引き続き2も、普遍性を持った物語になっていました。
なぜこれが普遍性を持った物語になっているかについては
自分なりに分析してみまして、
それは後半で詳しくお話しますのでいったん置いておくとして
付け入るスキがなく、もはや可愛げがないとすら思いました
そもそも僕は前作『インサイドヘッド』が大のお気に入りの作品でして
ピクサーの中でもベスト3に入るくらい大好きなんですよ
特にね、イマジナリーフレンドのビンボンがロケットに乗ってヨロコビを打ち上げるところ
あそこなんか涙なしでは見れませんね
子供の空想は、いつかは忘れてしまうけれど、大人になるためには必要なんだ
というね、空想を大切にするピクサーらしい場面でした
前作で素晴らしかったところは、
小学生の子供が、不安を抱えたときの精神状況を
ヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカの5つの感情のうち
ヨロコビとカナシミが無くなってしまった
ということで表現していることですね
で、カナシミという感情はなぜ必要なのか
という答えをピクサーなりに提示したわけですね
つまり、自分の気持ちをカナシミという形で出すことで、
救われる魂があるということですね。
感情の存在意義の言語化をやってのけたわけですね。
前作はそもそも、ライリーの視点に立てば大したことをしていないんですね
引っ越して、悲しくて、家出して、引き返す
これだけですからね
ライリーの肉体だけみると小さいですが、頭の中は大冒険
というところがうまいですね
もうもはやなんでも物語にしてしまうぞという怖さすら感じました
で、今作、2ですよ
前作のラストで「思春期アラート」がちらっと映ってましたが
あれは一応ネタ振りになってますし、ギャグにもなっているといういい塩梅のものでしたが
そこをちゃんとやってきましたね
ホッケーチームで活躍したライリーは、仲良しチームメイト2人と一緒に
高校のコーチに「サマーキャンプ」に来ないか
と誘われるところから始まりますね
で、その出発の朝から思春期が始まる
というのがうまいですね
前作の軸は「新しい環境での生活、親に気持ちを伝えられない」というものでしたが
今作は「友人との関係、新たな人間関係、自分はどうすべきか」が軸になっています
ですから、キャンプの朝に思春期スイッチが入るんですね
思春期の心、感情がちぐはぐになっている様子がまたいいですね
朝起きて親に変に当たってしまう。ここなんかとても笑えて楽しいですね
あるあるネタですからね
思春期あるあるは万国共通なんですね
それを受けた親もまた、「あっ、思春期だ!」ってアラートが鳴るんですね
ここらへんのコメディのつくりなんかうまいですね
で、キャンプに出掛けて友人たちから同じ高校にはいかない
と告げられてから様子がおかしくなります
こういうことってありますね
自分だけが取り残されるんじゃないかとか
見捨てられたとか、そういう気持ちですね
体験したことがない状況に陥って、どうしたらいいかわからない
そんなときに新たな感情たちが
コントロールセンターをぶち壊しながらやってきますね
ここもいいんですよね
礼儀正しく入ってこないですからね
思春期というのは
まさにぶち壊しながら無理やり入ってくるんですね
新しい感情はシンパイ、イイナー、ハズカシ、ダリィ、そしてナツカシですね
ナツカシはおそらく、次以降への布石だとは思うんですが
だからメインの4つですね
で新感情と旧感情が混在している中で、
キャンプに到着、ドレッシングルームから練習場へ行くまでの間
旧感情は失敗を続けるんですね
楽しく過ごそうとしたら、ふざけているように思われる
というところが印象的ですが
まあそんな感じでうまくいかないと
旧感情たちは追放されてしまうんですね
新感情がコントロールルームを占拠しまして
キャンプにのぞむと
ヨロコビや、カナシミ、イカリなどプリミティブな感情が喪失する
これが、思春期になると「素直じゃなくなる」の正体だったんですね
で、旧感情たちが脳内をかけめぐり
コントロールルーム奪還へ向けて冒険する
というお話です
これは前作と同じ話なんですが
追放される感情と操作する感情の種類を変えるだけで
ライリーの発達を描くのはうまいですね
全く同じってのは主たる感情が独善的ってのも同じですからね
前作のヨロコビも独善的でしたし、今作のシンパイも独善的でした
ヨロコビは今作では「元気いっぱいなのもつらいんじゃ」って告白しますけどね
今作のほうが独善的な感じはあがってますけどね
特に、シンパイを想定する部屋がありましたね
アニメーターの地獄みたいな空間で
心配が大きな画面で「もっと心配をよこせ」と叫び続けるところですね
ここなんかもろにリドリースコットのね伝説のCM
マッキントッシュのCM「1984」のパロディになってますね
アップルとピクサーってのもつながりが深いですからね
スティーブジョブズが初期のピクサーに出資していたのは有名ですね
シンパイってのはビッグブラザーなんですよ
でもこれは冗談じゃなくね、シンパイってのが頭をもたげると
その気持ちに支配されちゃいますからね
オーウェルの「1984」よろしく
「Big brother is watching you」なんですよね
で、話はクライマックスに飛びまして
なんとか旧感情たちがコントロールルームに戻ってきたとき
シンパイが暴走しちゃいますね
で、オーバーヒートしているわけです
これもほんとにありますね
シンパイと名の付く感情が行き過ぎて、頭が真っ白になってしまうことって
肉体が極度の緊張状態になってしまう
その脳内を可視化させたのはまた面白いですね
そしてそれを解決するのはやっぱりカナシミなんですね
カナシミってのは緊張をほぐすんですね
どんな形であれ、オーバーヒートした頭、つまり緊張をほぐさないと前には進めないんですよね
これは前作から連なるテーマでしたね
いつも明るくなくていい、いつも心配してなくていい
たまには悲しんだって言い
無駄な感情なんて1個もないんだ
という非常に前向きなテーマでした
ピクサーらしい、本当の意味で万人に受ける内容だったと思います
こんなことを見事にやってのけるので
可愛げがないなぁとも思うんですよ
日本のアニメーションだと、どうしても監督とか脚本家とか声優とか
個人の力がよく出ていますよね
特に巨匠と呼ばれる人は、その個人的なある種のフェティシズムみたいなものが
アニメーションの快楽につながっているような気がします
しかしピクサー作品って、あまり監督で語られることはないですね
ブラッド・バードくらいでしょうか
ジョン・ラセターなんか偉大なアニメ制作者ですが
監督ジョン・ラセターとして語られることは少ないんですよね
やはりピクサーとしてのものづくりが徹底されているんですね
だからこそ、変な場面がすくない
ほころびがすくない
きれいな丸を作っているような気するんですね
で、今作というかインサイドヘッドシリーズの作劇についてなんですけど
これはエリク・H・エリクソンという発達心理学者がおりまして
彼が提唱した8段階の心理社会的発達理論に基づいて作ってるんじゃないかと
思うんですね
彼はどういう人かというとドイツに生まれたユダヤ系で、
ナチスが政権をとったことでアメリカに亡命した学者の一人で
「アイデンティティ」という概念の提唱した人物なんですね
アメリカだけでなく世界の発達心理学、20世紀の心理学に大きな影響を与えたおっさんなんですよ
それで、エリクソンの8段階の心理社会的発達理論の
4段階目が前作「インサイドヘッド」
5段階目が今作「インサイドヘッド2」なのではないかと思うんですね
前作「インサイドヘッド」の軸は「新しい環境での生活、親に気持ちを伝えられない」
でしたが
これは4段階目、学童期と分類された段階の課題、導き、精神状況とあってるんですね
エリクソンの指摘では、学童期の心理的課題は「勤勉性対劣等感」、自身を導くもの、また課題克服によって得られるものは「有能感」なんですね
学校に通い始め、家族以外の人間と触れ合うことで、自分が劣っているとか、遅れているとか、逆に優れているとか、そういうことを感じる時期なんですね
親や周りの大人は、できないことや問題があったときに、ただ𠮟ったり注意するのではなく、うまくフォローしたり、適切なサポートをしないと、子供が劣等感を抱き続けてしまうんですね。
成功体験を積む、自信をつけるというのが大事な時期なんですね
で、前置きが長くなってしまいましたが、
インサイドヘッドではライリーはそもそも新しい学校でなじめない、自己紹介もうまくいかない、ランチも一緒に食べる人がいない
どんどん劣等感に苛まれてしまうんですね
しかも両親はちゃんと話を聞いてくれずに怒ってくる
ライリーは家出をしてしまうんですね
で、彼女が家に帰ったとき、両親はやさしく話を聞いて抱きしめるんですね
ライリーは悲しみを表現するだけではだめで、大人から手を差し伸べてもらうことで
初めて前に進むことができるんですね
これがエリクソンの学童期、子供の心理的課題と、大人に求められる動き、とあってるんですね
で、今作「インサイドヘッド2」の軸は「友人との関係、新たな人間関係、自分はどうすべきか」
これは5段階目、青年期または思春期、まんまなんですね
思春期の心理的課題は「同一性vs同一性の拡散」
同一性、でてきましたね、アイデンティティですよ
同一性というのはめちゃくちゃ簡単に言うと「自分は何者であるか」
同一性の拡散というのは「自分が何者であるかわからなくなっちゃった」
「自分とはなにか」「自分は何がやりたいのか」それに悩む時代なんですね
で、エリクソンは思春期に同一性の拡散が起きると、
どういったことが表れるのかいくつか挙げてまして
まずは対人関係の不調、これは劇中にもありましたね
友人との関係に不安が生じる、ギクシャクしちゃう
次に、否定的同一性の選択、小難しいこと言ってますが
簡単に言うとグレちゃうってことです
規範から外れた行動をとると
これは劇中ではコーチのノートを盗み読みすることで表れていますね
そして選択の会費と麻痺、アパシーといいますが
これは簡単に言うと感情がなくなっちゃうってことなんですね
これは物語のクライマックス、シンパイが暴走してフリーズしてしまう
ってところですね
で、この思春期の心理的課題「同一性vs同一性の拡散」を乗り越えると何を得るのか
ライリーは「友達か、ホッケーか」の二元論で悩んでいましたが、「友達も、ホッケーも」でいいじゃんって気づくんですね
そしてその気づきを大切にして、「友達も、ホッケーも大事にする」という自身のあるべき姿、自身の価値観を信じて行動するようになります
これをエリクソンの表現を用いると「忠誠心」と言います
自身の価値観に対する忠誠心です
これからわかるように
エリクソンの心理社会的発達理論をもとに作劇しているんだろうなと
推察しました
エリクソンはアメリカでもっとも影響力のある発達心理学者と言っていいですからね
当然、子供向け映画を製作しているピクサーのスタッフはエリクソンを読んでいるでしょう
だからね、みんなに当てはまる、普遍性がある物語なのは当然なんですよ
だって、いまの発達心理学のベースになっている考え方を使ってます
あらゆる子供が歩むであろう道のりですから
そりゃ「1」のキャッチコピー通りの「これはあなたの物語」になる
ということになってるんじゃないかと思いました
はい、それでは今週はこの辺で
面白いと思ったら高評価、コメントよろしくね
ということで、それではみなさん、また来週