検査条件が厳しいければ良いという考えは間違い
自動車メーカーのトヨタさんに不正があったとのこと。会見では厳しい条件での試験を強調しているように感じました。ちょっと待って! 厳しければ良いんだ、という考えは間違っています。
試験の条件
試験はある製品や、人などがどの程度の性能や能力があるかを確認します。基準を設けて合否をつけるものもあります。
試験はどうやって試験をするかで結果が変わるものもあります。一定の距離を走ったときにかかる時間を計測するとき、50mと100mでは違う結果が出るでしょう。通常は50mだけどウチは100mの試験だから安心なんだ、と。そうなるのでしょうか?
判定基準
50mを走る時間が10秒以内であれば合格です。というところを100mで試験をしていました。そんな雰囲気のトヨタさんでした。100mで10秒以内なら、50mでも10秒以内です。判定しようとした時には問題無いです。しかし、これが10.2秒だった場合はどうでしょうか? 50mにして再試験をすれば良いでしょうか? 試験を行ったとき、不適合結果が出たからもう一回やります、今度は適合結果が出たから合格にします、とはいきません。
法律遵守の意識が低い
トヨタさんの会見で感じたことは、法律遵守の意識の低さです。自動車製造のことは分かりませんが、公的機関に申請するデータが決められた基準と違うのです。その申請データは決められた条件下で行った結果である、ということが前提になっています。それをより厳しい基準だ!と言ったところでどうにもなりません。それにその「厳しい基準」で行った結果と、「決められた基準」で行った結果に差があるのかどうかは検証されていません。仮に異なる基準で行った場合でも悪い結果にしかならない、ということが検証されたところで「異なる基準」の試験結果が認められることはありません。
結果の評価
さて、トヨタさんが「厳しい基準」なるもので試験を行った結果をどう評価すれば良いのでしょうか? 「厳しい基準」という話を鵜呑みにすれば良いのでしょうか? ある条件下での試験結果について適合か不適合かの評価基準はあります。その条件から外れた条件で行った試験結果についての評価基準はありません。新しく作らなければならないのです。しかも、試験条件が異なることは申請時に伝えてあったのでしょうか? 伝えてあれば、そう言って申請して許可が出ている、と言えば良いのです。試験条件が違います、といえば申請は通らない気がしますが。
試験条件と評価基準
試験条件は決められたものに合っているかどうかが重要です。厳しくするなら、評価基準かと思います。50以上を適合とする基準があるなら、80以上で評価しています、とすれば良いです。勝手に70で不適合として処理すれば良いです。でも条件が違うのは無理です。結果がどうなるかは分かりませんから。その条件が「厳しい」という実験データがあっても、条件が違えば評価は出来ません。
検査をデザインする
会見で、スケジュールについて語っていたようです。開発等は必ずしもスムーズにいかない。再デザインなどもあったり、上流へ戻ったりして、下流の試験が遅れてしまい、そのことから不正も起こるとか。「厳しい条件」の話は・・・。
製品について検査を行うとき、どうやって検査をするか、をデザインしておきます。検体はどうやって決めるか。試験の手順、試験条件、記録様式、評価方法。その時になって、ああしよう、こうしよう、というのはダメ。無計画な検査は、不適合が見つかっても試験方法が悪いといい、試験方法に問題があって不適合を発見できなくても放置します。試験結果が不適合だったらどうするか、も決めておかなければなりません。試験の不適合を想定していないスケジュールでは不正が起こりやすくなります。
トヨタさんの検査では、申請データをとるための試験条件は決まっているのに独自の、「自称厳しい条件」で行っていたとのこと。そんなことあるんですかね?ちょっと不思議に思えてきました。