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小休止ーそそっかしい?ー

 「あなたはそそっかしいですか?」と聞かれたら、私は少し迷いながら「はい」と答えるだろう。なにしろ勘違いやうっかりが多く、失敗が多いのだ。ドラッグストアに会計済みの商品をカゴごと忘れてきたことが3,4回ある。重いものを買った時などに、レジ対応をしてくれた店員さんが「お荷物運びますねー」と会計前にカゴを袋詰めをする台まで運んでくれることがある。そうするともうだめだ。目の前からなくなったことで記憶からも消えてしまうのだ。無事にお会計を済ませた達成感に包まれて車に乗り込み、商品を忘れて帰ってしまう。そんな失敗を繰り返しているくせに、なぜ「迷いながら」なのか。

 「そそっかしい」をGoogle検索してみると「態度や行動に落ち着きがない、あわて者である。不注意で、とかく失敗をしがちである。軽はずみである。」と出てくる(goo辞書より)。落ち着きがなくあわて者。「そそっかしい」にはなんとなくスピード感がある。私にはこのスピード感がないのだ。

 常に頭の中で何かを考えていて、目の前にあるもののことがおろそかになっている。なにを考えているのか、自分でもよくわからない。考えている、というより、なにかの拍子に一瞬よぎった感覚を頭の中で追い続けている、と言ったほうがいいかもしれない。「この感じ、なんだっけ?」「あの本を読んだ時の感覚に似ている」「昔好きだったあの曲のギターソロみたい」「言葉にしてとっておけないかしら」考えているうちになんだか頭がぼーっとしてきて「あの感覚」に囚われたまま、日常生活をなんとか、なんとなく、こなしている。ぼーっとして現実感のないまま現実を生きて、不注意と失敗を繰り返している。「そそっかしい」からスピード感を引いた言葉ってなんだろう?考え続けているけれど、しっくりくる言葉がみつからない。

 ドラッグストアに商品を忘れてくるほかにも、失敗はある。たまにおこるのは服の裏返し、後ろ前だ。冬になるとヒートテックやらなにやらたくさん着込むので、おきる頻度が高くなる。
 ある時、職場のトイレで愕然としたことがある。パンツが裏返しだったのだ(パンツって最近ズボンのことをパンツと言うようになったけれどそうではなく、純然たる意味のパンツのことです)。裏返しだったのだから、表に履き替えれば済む話なのだが、心配性の私はこんなことを考えてしまう。
「事故にあわなくてよかった・・・」

 例えば交通事故にあって救急車で運ばれる。病院についてベッドに運ばれた私は、治療のために服を脱がされるだろう。ドラマなどで服をはさみで切っているシーンを見かけるので、切られるのかもしれない。下着姿になった私を見て、お医者さんが気づく。「見て!このひとパンツが裏返しだ!」「本当だ!パンツが裏返し!」「あはははは」「あはははは」・・・は、早く治療を、治療をお願いします・・・。

緊迫した医療現場に笑いを届けられるならそれはそれでいいのだけれど、やはり治療は早く受けたい。もちろん、命と向き合っている医療従事者がパンツ裏返しごときで治療の手を止めたりしないのはわかっているけれど、心配性ゆえ想像が飛躍してしまう。「いや、まさかな」と首をかしげながら、もそもそと正しくパンツを装着しなおす。

 スピード感を欠いた「そそっかしい」にぴったりくる言葉はなんだろう。今日はパンツは裏返しじゃないかしら。そういえば、最近読んだあの小説の湿度感ってあの曲を聴いた時の湿度感に似てる。頭の中でぼーっと考えながら、私は今日もタートルネックセーターを後ろ前に着て出かけていくのだ。

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