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【掌編集】即興百合チャレンジ! 十月編 〜百合作家交流サーバー「はなびら」近況報告〜(11/3)

序文


 平素よりこのnoteを応援していただきありがとうございます。百合作家交流サーバーの「はなびら」を運営しているやみくろーみあ(やみくも)と申します。

 これまでの「はなびら」活動報告は、私が交流会と呼ばれる「はなびら」内でのボイスチャット交流会に参加し、そこで行われた会話を要約し、「今こんな活動をしています」と伝えるものでした。

 そんな試みが姿を変えたのは前回、九月度の記事からです。前回は「はなびら」メンバーの一員である湖柳小凪さんにお願いし、記事を書いていただきました。

 そして、9月の交流会では「一つテーマを指定し、そこから10分間で掌編を一つ書き上げる」という即興小説をレクリエーション的に行いました。
 
 長くなってしまいましたが、要するに今月も即興掌編が4編揃いました。
 
 今回のテーマは、ハロウィンから連想して、「怪物」。
 怪物×百合の掌編、一体どんなものに仕上がっているのでしょうか!
 
 それでは、皆さんを百合世界にご案内致します。

参加会員の作品

 今回は4名が参加し、4作品が執筆されました。そのうちはるはるさんろぺごろうさんの二名が時間内に書ききれなかったため、この記事では後日作成していただいた完成版を掲載します。
 また、即興で完成に漕ぎつけた私と小凪さんの作品も誤字脱字等の修正は行っています。
 それでは、各作品をご紹介します。


①やみくもの作品  
 

 心優しい怪物に、私はチョコを差し出した。彼女は細い手を伸ばして私の掌からチョコを持っていった。どうすればいいか分かっていないような顔をしているので、私は胸ポケットからもう一つチョコレートを取り出して、包装紙を開けてみせた。彼女がそれを見て包装紙を開け、チョコの匂いを嗅いで、口に放り込んだ。私も口に運ぶ。強烈な甘い香りに頭がくらくらする。
 彼女は、森の中に住んでいた。自分で作ったのか、草冠だけを頭に付けた裸の女の子である。彼女は私たちと何ら変わりないが、言葉を話さないし、習俗や文化も理解しないので、怪物と呼ばれている。
 けれど、私はその怪物のことが好きだった。昔、森の中に迷い込んで蔦に足を絡め取られ身動きが取れなくなっていたところを助けてくれたのだ。それ以来、村の人たちに後ろめたい視線を向けられながらも、私は怪物の少女と遊んでいる。

 ここ最近、忙しくて森に行けなかった。塾に入れられたせいだ。今日こそはと思い、私は塾を抜け出し、森へ走った。すると、怪物の女の子が胸から血を流して倒れていた。驚いて声をかけて、肩を揺らすと、胸の傷跡から黒い液体と共に銃の弾丸がこぼれ落ちてきた。そこで村の大人を呼べば良かったのだが、私は塾を抜け出したのを言い出すのが怖くて、それを言えず、家に帰った。

 大人になった今、その出来事を振り返る。怪物、怪物と呼ばれていたあの子は私を助けてくれた。けれど、私はあの子を助けなかった。

 本当の怪物は、きっと、私のことだ。

 チョコを食べると、頭がくらくらする。あの子のことを思い出すから。

②小凪さんの作品


 10月31日、俗にいうハロウィンの日。

 毎年この日になると、私達月ノ森高校の生徒会は高校の近くにある幼稚園に、ハロウィンイベントのボランティアに行くことが恒例になっていた。

 ボランティアの内容は生徒会役員全員が各々コスプレをし、園児にお菓子を配るというもの。そしてそのコスプレの内容は、生徒会役員同士でも当日まで明かされないことになっていた。そのコスプレイベントが、実は私はちょっぴり楽しみだった。なぜなら私が密かに思いを寄せている副会長——東双葉先輩の、普段見せない衣装姿が見られるから。

 副会長はいつも天真爛漫で、周囲の人を笑顔にさせてくれる太陽のような人だった。そんな先輩に憧れ、そんな先輩のようになりたいと生徒会の門戸を私は叩いた。そして先輩の隣にいるうちに、いつしかその憧れは恋慕に変わっていった。まあ先輩は恋愛とか、ましてや女の子同士で付き合うとか全く考えていないだろうから、怖くて告白なんてできないけど。

 でも、合法的に先輩のコスプレ姿を見られる時くらい期待したっていいじゃん。そんなことを勝手に思っていた。

 ——先輩はどんな格好をしてくるのかな。魔女っ子? 大きな三角帽子が小柄な先輩に似合いそうだし、魔法でいたずらされたい。それともエッチなサキュバスのコスプレだったりして……。だとしたら、色々と冷静でいられる自信がないな。

 幽霊の衣装に袖を通しながら、妄想をはかどらせてると。

「がおー」

「え……」

 へんな鳴き声を出しながら生徒会室にやってきた緑色の塊にわたしは目を丸くする。

 それは、よく見ると怪獣の着ぐるみに身を包んだ先輩だった。それを見た瞬間、わたしの淡い期待が音を立てて崩れる音がした。

「先輩、その格好って……」

「怪獣のコスプレ。かわいいでしょ?」

③ろぺごろうさんの作品

「見て見て!ハロウィンということでドラキュラのコスプレをしてみたんだけどどうかな?」

「ハイハイ、似合ってる似合ってる」

「もうっあさひちゃん、せめてこっち見てから言ってよ」

「見てって言ってもどうせマント付けただけでしょ」

「そんなことないもん!ほら見てよ、ちゃんと牙だってあるんだからっ」

 風香が大きく口を開けると確かに犬歯が牙のように尖っている。

 試しに口内に指を差し込んで犬歯をなぞると風香は「ひゃ」っと小さな悲鳴を上げて飛びのいた。

「なっ、ななな!急に何するのあさひちゃん!?いきなり口の中に突っ込んできて!」

「いや、よくできてるから本物の牙だったりするのかなと思って」

「そんな訳ないじゃん!大体!もし牙が本物で私が怪物だったらどうするつもりなのさ!?」

「もし風香が怪物だったら?……うーん、そうねぇ」

風香の問いに少し思案をした後、あさひは徐にブレザーを脱ぎだした。

「えっ……あっ?」と風香の戸惑いをよそに、プチプチとシャツのボタンを外していく。

そして風香が何かを言う前にあさひの首筋から鎖骨までが露になった。

「ほら、私の血を吸っていいわよ?」

色白く細いラインに風香の喉が思わず鳴る。

「ふふっ、そんなに私が美味しそうだった?ねぇ、吸血鬼さん?」

④はるはるさんの作品

『怪物』

 息を切らしながら、私は海へと続く緩やかな坂道を下っていた。
 大陸でも北の果てに位置するこの村では年中雪が積もっている。王都ではまもなく夏を迎えて新緑が栄えていると聞いているのに、この地は相も変わらず真っ白な雪に覆われていた。月明かりを受けてキラキラと反射している。それは綺麗だと思うけど、いつも見ている私には少し退屈なものだった。
 砂浜を駆けて波打ち際へと向かう。
 夜の海は真っ暗な闇がどこまでも広がっていて、まるで怪物が潜んでいるようだった。そんなことを考えると昼間には何とも思わない波の音も怪物の呻き声のように思えてくる。
 不安を振り払うように頭を振って、私は彼女の名前を呟いた。
「……クラちゃん」
 小さく口にした言葉が闇に溶ける。
 数秒の沈黙。
 小さく息を吐く。
 頬を斬りつけるような冷たい潮風にさらわれて、白い息は瞬く間に消えていった。両手をこすり合わせたり、息を「はぁ」と吐いて温めたりしながら待つことしばし。かすかに地面から振動が伝わってくる。寄せてくる波が高くなり、その間隔も短くなる。どこか遠くで魚たちが騒がしく飛び跳ねた音も聞こえた。
 やがて大きな黒い影が海上にうっすら見える。暗い海の中でも視認できるさらに一つ黒い影。ザザンと波を切り裂く音と共に影はどんどん浮上して大きくなり、立ち上る煙のように私の目の前に一気に姿を現した。
 その身体は漁に行くおじさんたちの船よりも、私たち家族が住んでいる家よりもずっと大きい。神話の世界で聞いた巨人兵のような巨大な身体が私を見下ろしていた。
「――アリス」
「クラちゃん!」
 目の前に現れたのは私の友達だ。
 月明かりに照らされてキラキラと光り輝く綺麗な水色の透き通った髪は雪の結晶を反射しているみたいでこの世界の物とは思えない煌めきをしていた。いや、その通りでクラちゃんはこの世のものではないのだろう。何となく私はそれを理解していた。
 けれど、私はクラちゃんのことが大好きだった。
「……アリス。ほっぺた赤い」
「ちょっと寒かったからかな」
「ごめんね。もっと早く来られたらいいんだけど」
 少し、しゅんとした口調で言ったクラちゃんに私は大きく首を横に振る。
 この時間に一緒に遊ぶのは二人で決めたことだ。だからクラちゃんが謝る必要なんてこれっぽっちもない。
「大丈夫だよ。今はクラちゃんに会えてポカポカだもん」
「……そっか」
「うん!」
 クラちゃんにちゃんと伝わるように私は大袈裟なくらいに身体全体を使って頷いて見せる。少し照れ臭そうにはにかんだクラちゃんがとても可愛らしい。クラちゃんは村に住んでいる誰よりも可愛くて、たまに街からやって来る人たちよりも綺麗で、彼女の笑顔を見るとどうしてか私の胸はドキドキと高鳴るのだった。
「ね、クラちゃん。今日もいい? 行こうよ」
「うん」
 頷いて、クラちゃんが背中から生えている大きな触手を二本伸ばして私を優しく包み込む。
 髪の毛と同じ透き通った水色の触手。
 柔らかいようで柔らかくない。でも、硬いわけでもない。不思議な感覚。
 彼女の触手に包まれた私の身体はふわりと浮いて、気が付くとゆっくりと彼女の頭の上に乗っていた。
「じゃあ、行くね?」
「うん!」
 静かにクラちゃんが沖の方へと進み始める。
 浮いているのか、泳いでいるのか、はたまた歩いているのか。
 彼女の頭の上でちょこんと座っている私には分からない。分からないと言えば、彼女の髪の毛の感触も触手と同じで不思議なものだった。
 よしよし、と撫でてみる。
 撫でた手のひらにキラキラとした粒子がくっついてきて、ふわりと儚げに消えていった。
 ……不思議だ。
 私には分からないことばかりだった。
 分かることと言えば、と思いながら夜空を見上げる。
「そういえばクラちゃん」
「ん?」
「月が綺麗ですね?」
「うん、そうだね」
「ちーがーう」
「え?」
「あのね、あのね? 教えてもらったんだけど、『月が綺麗ですね』っていうのは『あなたのことが好きです』って意味なんだって!」
「そうなの?」
「うん。だから、『月が綺麗ですね』!」
「わ、私も。つ、月が綺麗ですね、アリス」
「えへへ」
 私に分かること。
 クラちゃんは可愛いこと。クラちゃんは優しいこと。私はそんなクラちゃんのことが大好きだってこと。
 そして、二人で見る満月はいつもよりも綺麗で輝いて見えるってこと。
 私に分かるのはそのくらいだった。

おしまい

結語に代えて

 みなさんは、この短い物語を読んで、どんな感想を抱いたでしょうか。元々が10分チャレンジとそこから発展したものなので、作品の密度としては薄いと思われるかもしれませんが、読者の方の心を揺らす作品があったのではないでしょうか?

 今回も傑作が集まり、記事をまとめる身としては非常にありがたいです。
 
 ありがたいことにこの即興企画はご好評をいただいており、メンバーも積極的であることから、次回以降も掌編を読むことができると思います。
 私が交流会の話題を適当に引っ張ってきて加入者の人数を書いていた頃のnoteからは、ずいぶん記事としてのクオリティが向上したのではないでしょうか。

 今後とも、「はなびら」をよろしくお願いします。

 ちなみに、噂ですが小凪さんの完成版もどこかにあるとか……?

 ぜひとも探してみてください。
 
 

 ここまでお読みいただきありがとうございます!


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