【掌編集】即興百合チャレンジ! 九月編 ~百合作家交流サーバー「はなびら」近況報告(10/2)~
書いた人:湖柳小凪
本文に入る前に
平素よりこのnoteを応援していただきありがとうございます。やみくろーみあ(やみくも)です。今回も私が運営をさせていただいている百合作家交流サーバー「はなびら」の活動の記録をお届けします。
今回は私が風邪で通話交流会に参加できなかったため、メンバーの一人である湖柳小凪さんに書いていただいた記事をアップロードします(noteの中の人が変わるわけではありません)。
今回はいつもの近況報告とは一味違う、かなり面白い記事になっているのでぜひともご覧ください。
また、今後の「はなびら」活動報告は私の個人noteではなく「はなびら」としてのnoteまたはブログでアップロードすることを検討しています。その際はここに追加もしますし、誘導用の記事も出すと思うのでよろしくお願いします。
さて、長くなってしまいましたが、以下から本文です。
本文
はじめましての方ははじめまして、どこかでお会いしたことのある方はご無沙汰しております。湖柳小凪です。
今回はサークル代表のやみくもさんに代わって、9月に百合創作者交流サーバー「花びら」で開催した「即興百合チャレンジ」企画の概要についてお話します。
前提:「即興百合チャレンジ」 とは?
この企画はその場で発表されたお題に沿ってその場で10分間時間を計って即興で百合SSを書けるところまで書き、発表し合うという企画です。
今回のお題は9月と言えばお月見、ということで、「月が綺麗ですね」という台詞を作中のどこかに入れるというお題でやりました。この企画の初心者が殆どではありましたが、その企画内で生まれた珠玉の掌編をご紹介します。
参加会員の作品
ここからは早速、参加会員の作品を紹介します。
①リクト—さんの作品
月が綺麗ですね、と蛍子が言った。
目の前にはカップ麺の蕎麦にたまごを落としただけの料理とも呼べない食べ物が置かれている。
そうだね、と私は相槌を打った。いただきますを言って自分の蕎麦をすする。
私ははじめはたまごを絡ませずに食べ、途中から黄身を割って蕎麦と一緒に食べることにしていた。こんなものでも、お腹が空いてるのでとてもおいしく感じられた。
私は食べ終えると床に倒れ込んだ。
何もかもどうでもいいと思う。明日になれば私の給料が振り込まれる。
我々はやりきったのだ。貧乏飯で日々を乗り切った。明日はすこし奮発していいものを食べてもいいかもしれない。
私と蛍子は同じ部屋で暮らしている。それぞれが職を持ち、働いて給料をかせぎ、部屋代などの生活費を折半している。
ねえ、と蛍子が呼びかけてきた。どっちが先に風呂に入るかと聞いてくる。どっちでもいいわよと私は返す。今日はめずらしく立ち仕事だった。会社の製品の展示会で都内に出張し、一般客を相手に愛想笑いをして説明をした。疲れている。風呂に入る気力もない。
意識が闇に落ちる。薄れゆく意識の中でなにかが見えた。蛍子が顔を覗き込んできた。その目のなかにまるい瞳孔がある。私は、月だ、と思う。
②小凪の作品
「月が綺麗ですね」
人生で眼鏡を初めて書けた恵のその言葉に、私ははっとしてしまう。
恵がこの港町の医院にやってきたのは半年前のことだった。彼女は生まれつき目が悪く、日常生活にも支障をきたしていた。そんな彼女が最後の希望として期待を寄せていたのが最近海外から入ってきたばかりの「眼鏡」だった。そして9月の十五夜の今日。彼女の眼鏡がようやく完成した。
彼女のその科白は齢十五歳にして初めてこれまで見えていなかった世界を見ることができた感動から来たものなのだろう。そんなことは頭ではわかっていた。けれど、その言葉に他の意味を期待してしまうほど、この半年間で私は彼女に魅せられてしまっていた。
この医院にやってきた時から、彼女は「視力が回復したら見に行きたいもの」の話を楽しそうに語っていた。そんな患者は私に取って新鮮だった。この医院にはすでに視力を諦めた人間や、西洋から入ってきたばかりの視力補助器具に不信感をあらわにする人ばかりだったから。そんな中で希望に満ち溢れた彼女が私には医院に咲く月見草のように眩く見え、そんな前向きな彼女にいつの間にか惹かれていた。
——彼女は満月のことを言ってる。勘違いするな。何より、彼女と私は患者と担当医同士……。
必死にそう言い聞かせてると。
ふとまっすぐわたしのことを恵が見ていることに気づいた。
「月って、先生のことのつもりだったんですけどね」
いたずらっぽく笑いながら言う恵の言葉に私の心の中にぱっと花が開いたような気がした。
黒縁の眼鏡は、好奇心旺盛な彼女によく似合っていた。
※本作は日本における眼鏡輸入にまつわる史実とは異なります。あくまで別時空の日本におけるフィクションとしてお楽しみいただけますと幸いです。
③旅籠文楽さんの作品
秋の日は釣瓶落としと言うけれど、本当に日が落ちるのが早くなったな――と。
自室の窓から軽く外を眺めながら、そんなことをリコは思う。
学校が終わってからハルと一緒に時間を過ごすのはいつものこと。
とはいえ、普段の放課後の時間というのは、もっと長かったように思うのだけれど――。
そろそろ暦が10月に入ろうかという今日だと、気づけばもう太陽は完全に落ちきっていた。 冷房が完全にいらなくなった涼し気な気温とは裏腹に、ただハルと一緒に同じ部屋の中で過ごしているというだけで、身体は少し温かく感じられるぐらいだけれど。
とはいえ、こうも辺りが暗くなってしまうと、なんだか変な焦燥を覚えてしまうのも事実だった。
「送ってく」
「ん、ありがと」
リコの言葉に、頷きながらハルがそう答えた。 これが夏場なら、時刻的にはまだハルが帰るような時間じゃないんだけれど。
暗くなってもまだ自室の中に彼女を留め置いていては。正直、何もせずにいられる自信というものが、リコにはなかった。
ハルのことを愛している。そう思えばこそ、求めたくなる感情があるからだ。
「月が綺麗ね」
自宅を出てからハルが告げた言葉に、一瞬だけどきりとする。
告白されたのかと、そんな風に思ったからだ。
「なかなか情熱的な言葉をありがとう」
「やだ、そんな意味じゃないわよ」
ツッコミを入れると、くすくすと楽しげにハルが笑ってみせた。
「そういう意味じゃないんだ?」
「別に、そういう意味にしてもいいけどね」
「じゃあそうして」
「ん、じゃあそうします」
もう一度、くすくすと笑いながら、ハルが私の手を握る。
夏の夜空に比べて、空は随分低くなった。
月明かりが
(※時間終了)
④はるはるさんの作品
「……月が綺麗ですね」
部活終わりの放課後。
ハンバーガーショップで一緒にハンバーガーを食べていた後輩の女の子がそんなことをつぶやいたので、私もつられて窓の外に目を遣った。ここに来るまでは駅近くの煌びやかな電飾で気づかなかったけど、こうして見上げると真ん丸な大きな月が輝いていた。
「わ、ほんとだね」
ここ数日は台風の影響もあってか不安定な空模様で曇り空ばかりの日が続いていた。だからこんなに綺麗な月を見たのは久しぶりかもしれない。
綺麗だなぁ、教えてもらって良かったなぁ、と思いながら私はバーガーに意識を戻す。
「あ、この芳醇月見、めっちゃ美味しい!」
「先輩……」
「?」
⑤ぺちかさんの作品
つながった雲の隙間から月明かりが滲むのを見ていた。
きみも同じ夜空を見ているのかな? それとも病室の窓際
がベッドからは遠くて、もうきみは眠ってしまったかな。
きみが入院する前にわたしに言ってくれた言葉、あれが別
れの言葉だったなんて信じたくない! 今だって「もうい
いから」なんてわたしの手を振り払ったきみの瞳がうるん
でいたのを夢に見てしまう。思えばあの夜もこうして月が
すき通った光を発していた。言いたくても言えないんだよ
ね、こんな気持ち。でも見つけた、ねぇ、見上げてみて。
結語に代えて
いかかでしたか。同じテーマ・10分と言う短い創作時間の中でも社会人百合から学生百合まで、舞台も病院からハンバーガーショップまで、多様な作品が登場したことが面白いな、と思いました。
10分間で創作したものをほぼそのまま載せているので、粗いところはもちろんありますが、もし皆さんの心に刺さる掌編もあったとしたら幸いです。もしかしたら校正したものが参加者それぞれの各web小説サイトのアカウントから公開されてるかも……? 興味があればそちらも検索してみてください。
小凪的には10月もハロウィンに因んだ何かしらのお題でまた即興百合チャレンジ企画をやりたいな~、なんて考えています。
以上、百合創作者交流サーバー「花びら」2024年9月度の月例報告でした!
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