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【ネタバレ注意】『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影』の感想を綴るだけのお話

はじめに

 みなさんは『劇場版名探偵コナン 悠久の哀傷歌』という嘘予告動画をご存知でしょうか? 
哀ちゃんファンが製作したいわゆるMAD動画で、これがネット上に公開されたのはもう十年以上前だったと思います(記憶が定かではない)。
コナンファン、特に〝灰原哀〟のファンはこの時が来るのを待ち続け、ついに2023年、その時が訪れました。

 初めましての方は初めまして、お久しぶりの方はお久しぶりです、雨音恵です。
 皆さんは『劇場版名探偵コナン 黒鉄の魚影』は観られましたか? 観ましたよね? 観てないなんて言いませんよね?(圧)。
 さて、公開から時間が経ったのでそろそろ胸の中にグツグツと煮えたぎっているクソデカ感情を吐き出すべく、筆を執りました。では早速行きましょう!

今年のコナン映画は過去一知識が必要な件

 まず、初めに言っておきます。
 今作品は過去一前提知識が必要な作品になっています。
 その理由は他でもない、〝灰原哀〟と〝黒の組織〟が大きく関わっているからです。

 灰原哀。本名は宮野志保。黒の組織の元メンバーでコードネームは〝シェリー〟。組織を裏切り、粛清される直前に工藤新一が飲まされた【アポトキシン4869】を自ら飲んで幼児化し逃走。そして同じ薬を飲んで幼児化している工藤を尋ねて、阿笠博士に助けられて───と説明するまでもありませんね。

 黒の組織についても説明すると長くなるので割愛しますが、劇中では老若認証システム───過去の写真からAIを使って現在の顔を特定する技術───によって灰原哀=シェリーだと組織に気付かれてしまいます。
その事実に彼らは驚愕します。なぜならシェリーはベルツリー急行で爆殺したからです。しかもバーボン、ベルモットの目の前で。だからこそ彼らはシェリー生存を疑い、しかも現在は子供の姿になって生き延びていることに衝撃を受けます。そして真実を確かめるためべく、哀ちゃん誘拐を実行します。

 また、組織に潜入しているⅭIA捜査官のキールこと水無怜奈。彼女は過去に組織にスパイだとバレそうになったことがあり、その際に同じく潜入していた父(イーサン・本堂)の機転と犠牲(組織のスパイは自分だということにして殺せと言われる)によって〝キール〟というコードネームを得ます。つまり彼女は任務の為に実の父を手にかけているのです。

 さらに大事になるのが灰原哀と毛利蘭の関係です。
蘭姉ちゃんはとにかく哀ちゃんが心配で仕方がないのです。そして哀ちゃんもまた、蘭姉ちゃんに今は亡き実姉・宮野明美の姿を幻視しています。ちなみに宮野明美は哀ちゃんを組織から足抜けさせるために活動していましたが、ジンの手によって殺害されてしまいます。それが哀ちゃんの組織離反の理由です。

 話が逸れましたが、哀ちゃんは一度ベルモットに捕まりそうになったところを蘭姉ちゃんに助けられています。その時命がけで自分を守ろうとしてくれた蘭姉ちゃんを姉と重ねるのです。

 そして最も重要なコナンこと工藤新一との関係ですが、その変遷を知っておくとこの映画より一層楽しめます。
 特に初めて出会う回(アニメ129話~131話)。思春期男子の性癖を狂わせた宮野志保のツナギ姿が拝める『黒の組織との再会』(176話~178話)。コナンに「逃げるなよ、灰原。自分の運命から逃げるじゃねぇぞ」と言われる『謎めいた乗客』(230~231話)。この辺りは映画観賞前に最低限観ておくといいと思います。正直上げ始めたらキリがないです(笑)

 さて、前段が長くなってしまいましたがここから本題に入って行きます。
 今作『黒鉄の魚影』は個人的に過去最高に面白かったです! 全てが終わった後、思わずスタンディングオベーションをしたくなるほどでした。こんなことは映画を観ていて初めてのことです。

 何故そんなことになったのか。それは偏に灰原哀が登場し、劇場版が公開してから20年以上、長らく待ち望んでいた〝灰原哀メイン〟の映画が理想的な形で、想像以上の完成度で観ることが出来たからです。またこれまでコナンや哀ちゃんが築き上げてきた色々な人との関係性が丁寧に描かれていたのも胸にきました。
そして何よりラストの挿入歌「キミがいれば」。ここはもう最高でした!


映画の中で描かれている各キャラクターの関係性について

 ここからは映画の中で描かれているキャラクター同士の関係性について、僕が感じたことを書いていきます。

 哀ちゃんが攫われそうになるところに颯爽と駆け付ける蘭姉ちゃん。危険を顧みず、ピンガに戦いを挑む姿は胸に来ました。
 近年の劇場版ではすっかりお馴染みとなった蘭姉ちゃんの空手バトル。ギャグだったり足を引っ張るだけだったりと散々なことが多いですが、今回に関しては思わず「頑張れ、蘭姉ちゃん!」と応援しました。
 それは他でもない、哀ちゃんのピンチだから。『黒の組織と真っ向勝負』と身を挺して庇ったように、今回も敵の正体はわからないけど哀ちゃんために戦う姿は本当にカッコイイ! 
 キャンティにライフルで狙撃されるも間一髪コナンに助けられ、
「俺が合図するまで動くんじゃねぇぞ!」
 とコナンに言われていつものように新一を幻視しますが、これはお約束ということで(笑)。その後、新一に電話をするシーンでは
「こっちに来れない? 知り合いの子が攫われちゃったの。助けて、新一」
 と弱音を吐きますがこれもまたいつもと違って『哀ちゃんを心配するが故の懇願』なので胸焼けすることもありませんでした。蘭の後ろで同じく不安そうな顔をしている園子の表情もよかったです(ホーエルウォッチングに誘ったのは園子だから。というか京極さん呼んだら解決するのでは?)。


 哀ちゃんが潜水艦で誘拐された後、事情を聴きに目暮警部と佐藤刑事がやって来るシーン。あそこで高木刑事ではなく佐藤刑事だったのかは諸説ありますが、有力なのは「高木刑事はコナン君を全肯定してしまう」からだと思います。
 これまで数々事件で一緒になったとはいえ、さすがに潜水艦を見たという証言は目暮警部も佐藤刑事もすぐに信じることが出来ず、
「怖い思いをして見間違えたんじゃ……?」
「違う! 本当に潜水艦を見たんだ!」
 疑われ、灰原を攫われた焦りもあってコナンも思わず声を荒げてしまう。そして(悔しそうに)ギュッと膝の上で拳を作る様子を見て、目暮警部と佐藤刑事は顔を見合わせて、
「どの辺りで見たのかな?」
 と地図を広げてコナンに尋ねます。その後「灯台のカメラを調べてみましょう」と操作に動きます───
一度は疑ったものの見たことないくらい焦り、必死の形相で声を荒げるコナン。もしも佐藤刑事たちと関係性が築けていなかったら子供の戯言としてスルーされて終わりだったはずですが、これまでの関りから「コナン君の言うことならきっと潜水艦を見たのだろう」と信じて捜査に動く。実にグッとくるシーンでした。


印象に残ったシーンに残ったシーン『前編』

 ここまでお付き合いいただきありがとうございます。ですがまだまだ続きます。今度は印象に残ったシーンを吐き出させてください(笑)
 
 まずは物語中盤。老若認証システムにより灰原の正体が組織に露見する可能性を察知したコナン達。八丈島から帰るように灰原に促しつつ、眼鏡を渡す場面。

「予備の眼鏡なら持って来ているけど?」
「こいつは博士が最初に作った、言わば一号機。御守りみたいなもんだ。言ったろ? こいつをかけていれば絶対に正体はバレないって」
「その割にはあっさりピスコにバレたけど?」※台詞はうる覚えで申し訳ありません。
「ま、まぁその後は助かったじゃねぇか! 御守りだよ!」

 哀ちゃんが言葉にしているように、このシーンは『黒の組織との再会』でのやり取りのオマージュですが、〝何があってもお前を守る〟というコナンの決意表明だと僕は思いました。
そんな思いをくみ取ったのか、一号機の眼鏡をどこか感慨深げに見つめる青山先生原画の哀ちゃんがとても可愛かったです!(語彙力どうした)。



 哀ちゃんがピンガとウォッカに攫われ、コナンと阿笠博士で追跡するシーン。本編含めて初めて博士が組織と対峙するというだけでも珍しいのに、
「ぶつけてでも止めてやるわいっ!」
 と強気な発言をしたことに驚きました(予告の時点でわかってはいましたが)。それくらい阿笠博士の中で哀ちゃんの存在が大きい証拠ですね(博士より前に止めねぇと思わずコナンも心配するくらいなので相当殺気立っていたのでしょう)。
 けれど奮闘虚しく哀ちゃんは敵の手に墜ち、海からポタポタと水滴を垂らしながら一人海から上がって来るコナンを見て
「そんな……哀君……」
と泣き崩れる博士。もしかしたら博士は『海に車ごと落ちたけど、新一なら哀君を連れて戻ってきてくれる』と心のどこかで信じていたのではないでしょうか。それが叶わなかったからこそ、膝から崩れ落ちて涙を流したのだと思います。
「博士……灰原は俺がぜってー連れ戻す!」
 だからこそコナンのこの台詞が心に響きます(とはいえコナンも相当焦ってはいるのですが)。


 灰原が連れ去れたことを知った蘭は新一に電話をする。
「こっちに来られない? 知り合いの子が触れちゃったの……助けて、新一」
「───いざという時はそっちに行くから」
 蘭からの頼みに新一がそう答えるとわずかに驚きの表情を浮かべる蘭。いつもなら「事件で忙しい」や「行けそうにない」と言われる場面のはず。だからこそ蘭は驚き、同時に安心したのだと思います。
 対するコナンもまた、ケースのふたを開けて灰原が作ってくれた解毒薬を確認し、夜空に浮かぶ〝月〟を見ながら『いざという時』の覚悟を決めるのだった。まさか灰原を助けるために薬を使って新一になるのか!? と思ったシーンです。そして自らの危険を冒してまで灰原を助ける決意をしているコナンがすごくカッコよかったです!



 コナン達の奮闘も虚しく潜水艦に拉致された灰原。
彼女が目を覚ますと、とそこには同じく拉致されていたパシフィック・ブイのスタッフ、直美・アルジェンタ。彼女こそ老若認証システムを作った張本人であり、組織のメインターゲットです。
 組織に協力するよう直美に迫るウォッカ。頑なに拒否するのでウォッカは父親を殺すと強迫。その様子をリアルタイムで直美に見せます。それでも拒む直美。
 そんな二人のやり取りを後ろからジッと眺めるキールこと水無怜奈。彼女は四年前、自らの失態でスパイだと組織にバレそうになったことを同じくスパイであり実の父に助けられます。ですがそれは自らの手で父を殺すというものでした。
 何も出来ず、父を手にかけるしかなかった無力な自分。過去を回想しつつ直美を重ねるもやはり何もできない苛立ちと悔しさからギュッと拳を握るキール。
結局直美の父はコルンの手により狙撃され、泣き叫ぶ直美。監禁部屋に戻され、自分の無力さを呪詛のように吐き出す直美。それを扉越しに聞く水無怜奈の表情がとても痛々しかったです。



 ジンが潜水艦に来る。その瞬間こそ脱出のチャンス。安室から聞いた情報をもとに決死の救出作戦に乗り出すコナンと灰原。だが父を死なせてしなせてしまった自責の念から立ち上がれない直美。そんな彼女に灰原が言葉をぶつける。
「私は変われた。だから信じて、直美!」
 人種も世代間の差別をなくしたい。そのために老若認証システムを作った直美。そのきっかけとなったのは他でもない宮野志保との出会いと彼女への後悔の念。出会った頃の志保にそっくりな哀ちゃんに言われて再び立ち上がるシーンは名場面の一つだと思います。

 同じ場面より。どうやって逃げるのかをコナンと哀ちゃんが探偵バッチでやり取りしているのを外で聴いていたキールが手助けするのもよかったです。すっとぼけながらウォッカに尋ね、呆れながら懇切丁寧に説明してくれるウォッカが良い奴過ぎました。こう言うところが愛されキャラですよね(違う)。

 あとジンの兄貴がヘリコプターから潜水艦に降り立つシーン。無駄に綺麗な夕陽と、それに照らされてキラキラと光る水しぶき。無駄にイケメンに描くのやめてもらっていいですか?(誉め言葉) 
そもそも組織が老若認証システムを欲しがるが監視カメラに写っている自分達の痕跡を消すためとベルモットが説明しているのですが、その映像が電車に乗ろうとしているジンとウォッカ、街中を歩くジンとウォッカなのはギャグですか? 年中真っ黒くろすけな二人が平然と電車に乗っている姿は想像しただけでも面白すぎますぜ。まぁ取引前の下見の為にジェットコースターに乗っちゃうからな、あの二人(笑)



 無事潜水艦から脱出した灰原達。直美はコナンに定番の質問をします。
「あなた、一体何者なの?」
「江戸川コナン───」
「───探偵よ!」
 言わせないわよ、とばかりにドヤ顔でコナンの台詞を奪う哀ちゃん。まさに正妻ムーブ! 招待を知っているからこそ、蘭姉ちゃんにはできない台詞奪取はお茶目で本当に可愛い!
 この後、蘭姉ちゃんたちが乗っている漁船に引き上げられて無事助かるわけですが、蘭姉ちゃんが哀ちゃんに毛布を着せて上げながらギュッと抱きしめて、
「もう大丈夫だからね」
 と涙混じりの上擦った声で言うのですが、そこに姉の姿を見て思わず抱きしめ返しながら
「……お姉ちゃん」
 と呟く哀ちゃんに涙が零れました。



 パシフィック・ブイに保護された灰原達。ピンガが誰なのか推理しながら温かいコーヒーを飲んでいた時。直美のある仕草を見てコナンが閃き、ピンガの正体に気が付きます。
「灰原、ここで待ってろ! 俺がぜってぇ何とかしてやっからよ!」

(待たせるのが好きよね、新一君は)

 江戸川君、工藤君、としか呼ばない哀ちゃんが新一君ですって! 蘭姉ちゃんを待たせているのに私まで待たせるなんて罪な男ね、って言葉が聞こえてきそうです! え、聞こえてきませんでしたか?(圧)



 ピンガの正体を突き止めて追い詰めるコナン。だが逆に老若認証システムによってピンガに工藤新一だとバレてしまう。それでもあえて強気な態度でピンガを挑発するコナン。逆行して暴行を受けて連れ去れる直前に佐藤刑事たちが駆け付けて事なきを得ます。
 怪我をしているコナンを見て心配する佐藤刑事。医務室へ行くように言われますが断りつつ、コナンは佐藤刑事に謝ります。
「あの時は怒鳴ってごめんなさい」
「───ッツ。いいのよ。むしろごめんね。すぐに信じてあげられなくて」
 何気ないやり取りですが、個人的には佐藤刑事の人柄の良さとコナンのことを信頼しているのが伺えるいいシーンでした。



 一方、灰原達に逃げられた潜水艦一向に衝撃の事実が告げられる。ベルモットから送られてきたデータによると老若認証システムは少し顔が似通っている人にも反応してしまう欠陥システムだったと。

「何が老若認証だ! とんだクソシステムじゃねぇか!」
 激昂するジン。わざわざ潜水艦に乗り込んできたのに小さくなったシェリーは確認することはおろか直美ともども逃げられ、さらに組織が狙っていたシステムはポンコツとくれば怒り狂うのも当然。ただ全部身から出た錆なんですけどね(笑)
ジンが大好きなウォッカがお出迎えに行かなければ、二人は魚雷発射管に入ることも出来なかったですし。そういうところだぞ、ジン!
 ボスからシステムの破壊を命じられてパシフィック・ブイに向かうことになる。
 そのことをバーボンこと安室と話すラム。
「老若認証システム……突き止めるのに使えると思ったんですがね。最近姿を見せないあの方の所在を……」(台詞うる覚え)
 さらっと口にされましたが、あの方こそボスはラムたちの前に姿を見せておらず、行方不明であることが示唆されました。その一方でベルモットはメールでやり取りしており、
『老若認証システム、素晴らしい技術だと思われます。ですがその一方、開けてはならない危険な物(玉手箱)の可能性があります』(文面うる覚え)。
 ベルモットが作中で老若認証システムのことを指して【開けてはならない玉手箱】と称しています。
 玉手箱とはご存知の通り『浦島太郎』に登場する箱で、決して開けてはならないと念押しされて渡され、ふたを開けたら年老いてしまうものです。
 これはつまり時を操ることを指しており、コナンにおいてこれは重要な意味を持ちます。哀ちゃんもある事件でこんなことを言っています。

『焦っちゃだめ。時の流れに人は逆らえないもの。それを無理やり捻じ曲げようとしたら人は罰を受ける……』

 老若認証システムを使われて困るのは灰原やコナン(あとメアリー)だけでなく、ベルモットやあの方も含まれるのでしょう。だからこそベルモットはあらゆる場所でシェリーやシェリーに似た人物に変装して顔認証させて誤作動を引き起こさせ、『欠陥システム』であると知らせたのでしょう。
 ただここでひとつ疑問なのが、もし仮にベルモットの変装でシステムを誤魔化すことが出来たのなら彼女の変装は最早〝変装〟ではなく〝変身〟の領域です。顔の骨格からAIが未来の姿を予想することも出来るのに、ただの変装で骨格まで誤魔化せるのでしょうか? もしかしてボスと結託してシステムを壊すためのディープフェイクをジン達に送り付けたのではないか、というのは考えすぎでしょうか?

箸休め:脚本家『櫻井武晴』先生について

 なんちゃってなガバガバ考察もひと段落したところでクライマックスへ、と言いたいところですがここでいったん箸休め(石投げないで)。
本作『黒鉄の魚影』の脚本を書かれた『櫻井武晴』先生について少し触れておこうと思います。

 櫻井先生が劇場版コナンの脚本を担当されるのはこれで六作品目。『絶海の探偵』『業火の向日葵』『純黒の悪夢』『ゼロの執行人』『緋色の弾丸』を過去に担当されていますが、それ以前よりテレビ朝日系のドラマ『相棒』の長きに渡り担当されていました。
実はこの『相棒』の中でパシフィック・ブイのような設定は登場していました(さすがに規模は日本国内限定で規模は小さいですが)。それが『相棒 シーズン8』の最終話『神の憂鬱』という回です(放送は2010年)
ここで起きる事件の裏には「防犯カメラによる顔認証システム」が関わっており、これが完成したら全国に設置されている防犯カメラから特定の人物を探し出すことが可能となり、事件捜査が格段に進化する……というものです。

 まさにパシフィック・ブイでやろうとしていたことの国内版です。その設定を十三年前に作っているのですから凄いですよね!
さらに『相棒』繋がりと言えば、『黒鉄の魚影』の終盤、ピンガの使ったトリックで登場した『ディープフェイク』による監視カメラ映像の書き換え。
実はこれもすでに『相棒』で何度も登場しているトリックです。『相棒』の中でディープフェイクがトリックとして使われるようになったのは2~3年ほど前からだったと思います(うる覚えで申し訳ありません)。
映画を観ていてもしかしたらありえない、突拍子のないトリックだと思った方もいると思いますが決してそうではないのです。

 それにしても、まさか時を経て相棒とコナンが繋がる日が来るとは……単行本に掲載されている『青山剛昌の名探偵図鑑』に杉下右京が紹介されたことも考えると感慨深いものがあります。
まとめると、長きに渡り相棒の脚本を書かれてきた櫻井武晴先生が劇場版名探偵コナンの脚本を担当すると間違いなく面白いということです! 何故なら『純黒の悪夢』以降、コナン映画の興行収入は右肩爆上がりですからね! 二~三年に一度の間隔で担当されているので次回作が今からとても楽しみです!

印象に残ったシーン『後編』

 さて、そろそろ休憩も終わりにしてクライマックスへと向かいましょう。
 潜水艦による襲撃を受けたパシフィック・ブイ。デコイを使って魚雷をやり過ごしますが、ピンガが仕掛けたバックドアでベルモットがシステムを遠隔操作して迎撃システムを無力化されてしまいます。

 この時のベルモットの色気がね……ホントね、すごいです。しっとりと濡れた肌の上にバスローブを身体に巻いている姿はヤバイです。特に上乳が凄い。最高、素晴らしい、ブラボー!!(語彙力戻って来い)。


 みんなが脱出する中、コナンは赤井に連絡を取って潜水艦を撃退する方法を探ります。同時並行で安室とも連絡を取っており、久しぶりにシャアとアムロ、ではなく赤井と降谷の槍とが入ります。
「組織随一のスナイパー……海自が来る前に済ませろよ、ライ!」
「もちろんそのつもりだよ、バーボン」
 何このやり取りカッコよすぎか!? 日本でアメリカの武器を使うことに憤る降谷に対して日本の危機に対応するのも米軍の仕事だと応対する赤井。結局折れるのが降谷というのがパワーバランスを象徴していますよね(笑)



 潜水艦を撃沈させる武器を赤井が拵えたとはいえ、肝心の潜水艦の位置がわからないという問題が残っています。
 そこでコナンは三度潜水し、赤井に位置を伝えますが黒鉄色の海では正確な位置と魚影を捉えることが出来ません。
それならばとコナンは花火ボールを使って海を照らすことを思いつき、決行に移ります。ただそのためには潜水艦をギリギリまで引き付ける必要があり、文字通りの失敗は許されない命がけの作戦です。
 同時刻。クルーザーに避難していた哀ちゃんはコナンの姿がないことに気が付き、看板に置いてあった海中ヘッドセットを装着します。そこから赤井とコナンのやり取りが聞こえてきて、二人が潜水艦を狙撃しようとしていることを知る。

『何してんのよ、あの馬鹿……!』

 哀ちゃんはバッテリーが切れかかっている水中スクーターを手に海へ飛び込みます。
 場面は海中のコナンへ。激しい水流に晒されながらも岩礁にボール射出ベルトを巻いてタイミングを計るコナン。手が痺れ、呼吸もままならない中ギリギリまで引き付けてボタンを押す。
 花火ボールが潜水艦の真下に飛び出して爆発。黒鉄の海中に潜む潜水艦を色とりどりの鮮やかな光が眩く照らします。
「補足した───沈め」
 ヘリの上から潜水艦の機影を確認した赤井はためらうことなくロケットランチャーの引き金を引いて───
「ボウヤ、よくやった」
 一仕事を終えた赤井さんがカッコよすぎる! 
でも赤井さん、コナン君がどうなっているか少し心配してあげて! あなた『純黒の悪夢』の時に『キュラソー』がクレーン車で身を挺して観覧車を止めた時も同じように「ボウヤ、よくやった」って言ってましたよね!? キュラソー奪還阻止に動いていたことを忘れたんですか!?



 荒れ狂う海流に攫われたコナン。
闇のように暗い海中。スクーターの光だけを頼りにコナンを探す哀ちゃん。眼鏡を見つけ、周囲を見渡すと意識を失い力なく漂うコナンの姿が。
急いで彼の下へ向かうもスクーターのバッテリーが切れてしまう。スクーターを手放し、泳いで急ぐ。

(ウソ……ウソ……!)

 自分が使っていた小型のエアタンクの空気を目いっぱいに吸い込んでコナンの口から息を吹き込む。

(ダメ……ダメ……!)

 涙を堪えながら二度、三度。必死の思いで人工呼吸を試みる哀ちゃん。するとコナンがゴホッと息を吐き出し、意識が覚醒する。
 そして二人は減圧症にならないようゆっくり海上へと浮上していく───

 あまりに自然に哀ちゃんが人工呼吸を行ったので、最初は何が起きたのか、何をしたのかすぐに理解できませんでした(笑) 理解した瞬間、心の中で『キャァアアアアアアア!! 哀ちゃぁあああああああああああん!!!!!!!』と叫んだのは言うまでもないでしょう(真顔)。



 溺れて意識を失ったコナンをヒロインが人工呼吸で覚醒させる。これって前にありましたよね? 
そうです、『劇場版名探偵コナン 14番目の標的』の終盤。コナン達が訪れていた海洋娯楽施設「アクアクリスタル」が爆破された際にコナンが溺れかけた時に蘭姉ちゃんが人工呼吸をして助けてくれたシーンです。
今作の哀ちゃんがコナンへの人工呼吸はその対比とも言えるでしょう。ただ決定的に違うのは、コナンが哀ちゃんに人工呼吸をしてもらったことを覚えていないこと……これがのちの台詞へと繋がります。

 さて、ここまで長々と感想という名の妄想を書き連ねてきましたがようやく本作品の最高潮のシーンです! 全26作品の劇場作品の中でも他の追随を許さない最高の名シーンです!

 黒鉄色の海。手を繋ぎ、交互にエアタンクを使いながらゆっくりと浮上する二人。

(───私にはもう帰る場所はどこにもないの……)

 組織にシェリーだとバレた以上、帰ればみんなを巻き込むことになる。この思考は彼女の中に常にあったもの。

 この台詞辺りからバラード調で『キミがいれば』が流れるのですが、これがもう完璧なんです! 未だかつてここまで理想的な使われ方をした『キミがいれば』。があっただろうか? いや、ない! と思わず反語で言いたくなるくらい完璧です!
 しかも使われている歌詞が二番の歌詞なんです! サントラに収録されているものは冒頭こそ同じバラード調で

───うつむく、その背中に。痛い雨が突き刺さる。祈る思いで見ていた───

 なのですが、劇中では

───必ず朝は来るさ。終わらない雨もないね。だから自分を信じて───

 この歌詞はまさに哀ちゃんの心情を現しています! ですが感動はこの次です!

 コナンがエアタンクを渡して来るが受け取らない哀ちゃん。

(だから、あなたといられるのはこれが最後。バイバイだね、江戸川コナン君……)
 エアタンクを受け取らず、このまま死のうとする哀ちゃんの手を引っ張り、無理やりエアタンクを口に加えさせるコナン。そしてニカッと笑いながら、

『言ったろう? 俺がぜってーなんとかしてやるって!』
 その顔を見て灰原の頬が朱色に染まります。
 再び手を繋いで泳ぐ哀ちゃんの脳裏にコナンに言われた言葉と顔を思い出します。

(どうして、どうしてあなたはいつも、いつも……そんな顔が出来るのよ)

 この時流れている歌詞は、

───月と太陽なら私は月。キミがいれば輝けるよ───

 月は哀ちゃん。太陽はコナン君を指しているのは明確かと思います。
 哀ちゃんにとってコナン君は心の支え、まさに太陽のような存在。でも彼女自身は決して前には出ることはしない。なぜならコナン……工藤新一の隣に立つのは自分ではなく毛利蘭だとわかっているから。

(工藤君、あなたは知らないでしょうけど、私達さっき……キス、しちゃったのよ?)

 キャァァアァァァァァァァァァァッァァァ!!! 哀ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!! 

 失礼、取り乱しました。今作最大の萌えポイントにして過去最大級の破壊力を有している台詞です。哀ちゃんの口から〝キス、しちゃったのよ〟なんて聞ける日がまさか来ようとは……死んでもいい。

 夜空に浮かぶ星々が虹のように海面を照らしている。幻想的な景色の中を泳ぐ二人。その背後からはこんな歌が流れている。

───もうすぐその心に、綺麗な虹がかかるから───

 おわかりいただけましたでしょうか? これ以上ないくらい映像と歌がマッチしていますよね?
 そもそも『キミがいれば』の歌詞は新一(コナン)と蘭の関係をイメージして創られています(月と太陽がどちらを指しているのかは諸説あります)。それを26作目にして初めてコナンと哀ちゃんの関係性に当てはめて、ただ使うのではなく2番の歌詞を使用したのは天才としか言いようがありません。



 そして本編ラストはお約束の「いけぇえええええ!!」で締め。かと思いきや最後にもう一波乱ありました。
 無事「いけぇえええええ!」が済んだ後、哀ちゃんが意識を失って倒れていることに気が付くコナン。
「減圧症か!?」
 慌てて駆け寄り、人工呼吸を試みようとしたところで哀ちゃんに止められます。わけがわからず戸惑っているところにクルーザーにいた蘭達がやって来てきます。
「大変!? どうしよう!?」
 蘭もまた気絶している哀ちゃんを見て慌てふためき、人工呼吸をしようか迷っているとむくっと哀ちゃんが身体を起こして───
「!!??」
「ね、寝惚けてたのかな? アハハ……」
 びっくり仰天する蘭姉ちゃんとコナン。そんな二人の様子を見て哀ちゃんは心の中でこうつぶやきます。
(返したわよ、あなたの唇)

 哀ちゃぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあああああんんっ!!!!(本日二度目)。

 新一の唇(心)は蘭だけのものだから。甘く、苦く、そして切ない。けれどどこか清々しくもある、哀ちゃんらしいシーンだと思いました。

 哀ちゃんは負けヒロインなのかと言われれば、確かにそうかもしれません。でも蘭と決定的に違う点が彼女にはあります。
 それは重大な秘密を共有していること。色んな人に嘘をついていることを隠していること。
共犯者であり、協力者。コナン君が信頼して相談できる唯一無二の女の子。それでいて重たい十字架を背負っていて、年不相応に達観している。でも弱さもあって、ふとした時に垣間見える乙女の表情。それが灰原哀というヒロインなのです。
 蘭も哀ちゃんも新一(コナン)にとっては守るべき大事な人。でも哀ちゃんはそこから一歩踏み込んで『一緒に戦う仲間』でもあるのです。これが蘭との違いなのかなと個人的には思っています。

エンディングと『ベルモット』

 エンディングはスピッツの『美しい鰭』が流れても立ち上がる観客は当然いません。この後に真のエンディングがあるからです。
 そこでは新たなパシフィック・ブイへと旅立つ直美とそれを見送る哀ちゃん。
「また会えてよかったわ、志保」
 そう心の中呟いて直美は旅立っていきました。

 その様子を見ながら、コナンは安室との会話を思い出しています。シェリーが生きていると組織にバレたと思っていたけど動きがなかった真相を聞きます(=ベルモットが世界中でシェリーに変装してシステムを誤作動させた)。

「どうしてそんなことをしたのか……キミなら心当たりがあると思ってね」

 でもコナンにもその理由はわからず。
 無事、直美の見送りが済んだことで食事でもして帰ろうかと雑談しながら帰るコナン達。その様子を見つめる着物姿の貴婦人。この人は物語冒頭で哀ちゃんからフサエブランドの新作ブローチの整理券の最後の一枚を譲ってもらった人物です。
 貴婦人はエレベーターに向かって歩きながら顔に手をかけて変装マスクをはぎ取り、結っていたプラチナブロンドの美しい髪が宙に舞います。
 貴婦人かと思われた人物はベルモットだったのです。

(助けたわけ? それを探るのがあなたの仕事でしょう? シルバーブレット君)

 エレベーターに乗り込みながら謎めいた言葉をつぶやくベルモット。その着物の帯にはフサエブランドの限定ブローチがありました。

 最後の最後で爆弾を落としていきましたね。
 何故ベルモットが哀ちゃんを助けたのか。
 最もわかりやすい理由として挙げられるのはフサエブランドの限定ブローチの最後の一つを譲ってくれた恩を返すため。
 ベルモットは作中では色々なところで暗躍しているキャラクターですが、組織の人間とは思えないくらい約束を守る義理人情に厚い人物として描かれています。
 新一(コナン)と蘭に対しては甘々で、特に蘭は「エンジェル」と呼んで危険から遠ざけようとするくらい大好きです。
 とはいえ非情な一面がないかと言えばそういうわけでもなく、とりわけシェリーに対しては「生きていてはいけない存在」とまで言って幾度となく抹殺しようとしています。黒の組織との真っ向勝負やベルツリー急行が最たる例です。

 なので限定ブローチを譲ってもらったくらいで灰原の命を助けようとするとは思えないのが正直な感想です(ただそう考えた方が綺麗かなとは思います)。
 あえて深読みをするなら、ベルツリー急行で工藤有希子とのやり取り。

───私達があなたを出し抜いたら……今度こそ彼女から手を引いてくれるわよね

 ベルツリー急行での攻防にベルモットは絶対の自信がありました。だからこそ有希子とコナンにしてやられたと気付いた時、彼女は悔しさよりも清々しい表情をしていました。
 この有希子との約束とブローチの件、さらに老若認証システムが自分やボスに対して『開けてはいけない玉手箱』になりうると判断し、結果的に彼女を助ける形になったのではないか、と僕は妄想しつつ、そろそろ締めに入ろうと思います。

 いやぁ、まさか映画を観てここまでアレな感想書く日が来るとは思っても見ませんでした(笑)。
哀ちゃんを含め、色々な人たちの関係が丁寧に描かれていたので感情が爆発して抑えきれなくなってしまいました。それくらい満足度が高く、同時に余韻に浸れる作品です。

最後に

 最後に、監督の立川譲さんのツイートを紹介させていただきます。


 『名探偵コナン』のことあんまり知らない、でも映画の評判良いから観てみようかな、という人でももちろん楽しむことは出来ます。
 ただ監督がおっしゃっているように、各キャラクターの過去や関係性を把握しているとより楽しめるのも事実です。
 もしお時間があるという方は、映画を観に行く前にアニメを見て復習をするのもいいかもしれません。
個人的にオススメを紹介して終わりにしようと思います。

アニメ第129話「黒の組織から来た女 大学教授殺人事件」
アニメ130―131話「競技場無差別脅迫事件」
アニメ176―178話「黒の組織との再会」アニメ230―231話「謎めいた乗客」
アニメ246―247話「網にかかった謎
アニメ345話「黒の組織と真っ向勝負」
特別編集版「名探偵コナン 灰原哀物語~黒鉄のミステリートレイン~」

 もちろんこれ以外にも哀ちゃんの可愛さが爆発している回とか、キールこと水無怜奈が関わる回など観ておいた方がより楽しめる回はたくさんありますがキリがないのでこの辺にとどめておきます(笑)

 少しでも気になったという方はぜひ劇場へ足を運んでください! 既に観たよという方は感想欄に思いのたけを綴ってください。
 それではここまでお付き合いいただきありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう。


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