業績低迷の危機 ~空観の智慧が解き放つ新たな可能性~
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ ⑨(全12回)
長期の業績低迷から、どうすれば抜け出せるのか。
過去の成功体験への執着が、新たな可能性を阻んでいないか。
古来の智慧「空観」が示す、執着からの解放と革新への道を探ります。
見えない出口
「あの頃のように、うまくいかないのはなぜか」
かつての成功モデルが通用しなくなり、業績の低迷が続いています。あらゆる施策を試みても、期待した効果は得られません。過去の成功体験が、むしろ重荷となっているのかもしれません。
仏教における「空観」とは、固定観念から解放され、物事の本質を見つめ直す智慧を意味します。それは単なる否定ではなく、新たな可能性への目覚めなのです。
空観の智慧が示す3つの解放
1. 成功体験からの自由
多くの企業は、過去の成功モデルに縛られています。しかし空観は、その執着こそが新しい可能性を見えなくしていると説きます。
電機メーカーの経営者は語ります。
「長年の成功体験が、実は重い足かせとなっていました。それを手放す決断ができたとき、まったく新しいビジネスの方向性が見えてきたのです」
2. 本質の発見
空観は、既存の枠組みを一旦脇に置き、物事の本質を見つめ直すことを教えています。
アパレルメーカーの再建に携わった経営者は振り返ります。
「ファッションを作る会社だと思い込んでいました。しかし、本質は『お客様の自己表現をサポートする』ことだったのです。その気づきが、新しいサービスの創造につながりました」
3. 制約からの解放
当たり前と思っていた制約の中に、実は大きな可能性が眠っているかもしれません。
老舗の出版社は、長年の業績低迷を経て、ビジネスモデルを根本から見直しました。
「紙の本を作ることだけが、私たちの役割ではありませんでした。コンテンツの価値を最大化する、という視点への転換が、デジタル時代の新しい展開を生んだのです」
可能性を解き放つ実践的アプローチ
空観の智慧を現代の経営に活かすには、以下の実践が有効です。
まず、当たり前と思っている前提を、意識的に問い直します。「なぜそうでなければならないのか」という問いが、新たな視点をもたらします。
次に、事業の本質的な価値を、既存の形式から切り離して考えます。その作業が、新しい可能性への気づきを生むのです。
そして、発見した本質をもとに、まったく新しい形での価値提供を構想します。この時、業界の常識にとらわれない発想が重要です。
化学メーカーの事例は、この原則を実践して成功を収めました。
「製品を売る会社から、お客様の課題を解決する会社へ。その転換が、サブスクリプション型の新事業を生み出す契機となりました」
実践のために
業績低迷からの脱却を目指すとき、以下の問いを立ててみましょう:
どんな執着が可能性を阻んでいるか?
事業の本質的な価値は何か?
制約を外すとどんな可能性が生まれるか?
次回予告
次回は「事業撤退の危機」において、「即今」の智慧が教える決断の瞬間について解説します。撤退か継続か、その判断に際して経営者はいかなる視座を持つべきか―。
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ ⑩(全12回)
事業撤退の危機 ~即今(そっこん)の智慧が導く決断の瞬間~
本シリーズは経営判断の新たな視座を提供する連載の一部です。