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組織分裂の危機 ~不退転の智慧が導く統合への道~
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ ⑧(全12回)
内部対立が深まり、組織の一体感が失われていく。
価値観の相違、世代間ギャップ、部門間の対立。
古来の智慧「不退転」が示す、揺るぎない意志と統合への道筋を探ります。
深まる分断
「改革派と現状維持派の対立が、もはや修復不可能なレベルに達している」
事業構造の改革を進める中で、組織の亀裂が深まっていました。若手社員は変革を求め、ベテラン社員は伝統の維持を主張する。部門間の対立も先鋭化し、会社の方向性が定まらない状況が続いています。
仏教における「不退転」とは、確固たる信念を持って道を進むことを意味します。それは単なる頑固さではなく、本質的な価値への深い理解と実践なのです。
不退転の智慧が示す3つの統合
1. 本質への立ち返り
対立が深まるとき、多くの組織は表層的な妥協点を探ろうとします。しかし不退転の智慧は、まず組織の存在意義という本質に立ち返ることを教えています。
ある製造業の経営者は振り返ります。
「対立する両者に、なぜこの仕事に携わっているのかを問いかけました。すると、異なる立場でありながら、根底にある想いは同じだったことに気づいたのです」
2. 揺るぎない軸の確立
不退転は、混乱の中にあっても、ぶれない判断軸を持つことの重要性を説きます。
金融機関の統合に携わった経営者は語ります。
「文化の異なる組織の統合は困難を極めました。しかし、『顧客への価値提供』という軸をぶれずに持ち続けることで、新しい組織文化が醸成されていったのです」
3. 対話による共鳴
一見相反する立場であっても、深い対話を通じて共鳴点を見出すことができます。
小売チェーンの再建では、世代間の対立を乗り越えて新たな価値を創造しました。
「若手の革新性とベテランの経験知。それぞれの価値を認め合う対話を重ねる中で、両者を活かす新しいビジネスモデルが見えてきたのです」
統合を実現する実践的アプローチ
不退転の智慧を現代の組織運営に活かすには、以下の実践が有効です。
まず、対立の表層から一歩下がり、組織の存在意義を問い直します。この作業は、異なる立場の人々が共通基盤を見出すきっかけとなります。
次に、ぶれない判断軸を明確にします。その軸は、単なる理念ではなく、日々の判断に活かせる具体的な指針となるべきです。
そして、異なる立場の間で、深い対話の機会を創出します。形式的な会議ではなく、本音で語り合える場づくりが重要です。
ITサービス企業の事例は、この原則に従って組織の統合を実現しました。
「開発部門と営業部門の対立を解消するため、両者が協働でサービスを創る新しいプロジェクト制を導入しました。実践を通じた対話が、相互理解を深めたのです」
実践のために
組織の分断に直面したとき、以下の問いを立ててみましょう:
組織の本質的な存在意義は何か?
揺るがない判断軸は何か?
どうすれば真の対話が生まれるか?
次回予告
次回は「業績低迷の危機」において、「空観」の智慧が教える執着からの解放について解説します。長期の低迷から抜け出すために、経営者はどのような視座を持つべきか―。
経営危機を乗り越える ~経営者のための仏教的智慧~ (全12回)
業績低迷の危機 ~空観(くうかん)の智慧が解き放つ新たな可能性~
本シリーズは経営判断の新たな視座を提供する連載の一部です。