さあ、春杯だ!
俺は「春野陽光」中3。
俺は今とあるアニメキャラクター選考に
専念している。
(受かれ受かれ受かれ受かれ受かれ!)
「陽光〜テス勉終わった〜?」
(テストは知らん!)
結果発表 - 落選(落ちた)
「其方のキャラクター選考に認められず。落選したことを何卒ご理解のほど」
ぽや〜
長瀬「って、ちょ!?」
長瀬「何してんの?」
陽光「好きなアニメのキャラクター選考落ちてた……」
コイツはクラスメイトの長瀬。
子どもの頃から仲良くしてくれる友達。
長瀬「じゃあさ、入ろうよ!」
陽光「どこに」
長瀬「四万十清村高校!非公式の春高にノミネートされたんだって!」
長瀬「そこに俺らが入れば優勝間違いナシ!」
「最近ハル1人でなにしてんだろーねー」
陽光(どーすっかなー)
-----------------------------2-----------------------------
陽光「おーい、ハル〜な〜に書いてんだー?」
くるりと陽光の方をむくハル。
ハル「お前に見せるものはないです」
(べー)
陽光(ヒド!)
ハル「明日、東京さ行くです!」
陽光・長瀬「「エ……?」」
ここは四国の土佐、高知。
ハル「ソレジャ!」
陽光「オイ、ハルちょっと待て!」
-----------------------------東京って------------。
陽光(あのでっかい?)長瀬「それはUSA」
長瀬「でも俺ちょっとショックだ」
陽光「あ、長瀬ハルの事好きなタイプ?」
長瀬「ハルちゃんてっきり好きなやつ追いかけてサッカー部入るのかと思ってた」
陽光「分かる長瀬主人公っぽいもんなー」
長瀬「俺が?」
陽光「好きなコ追いかけてさ、そのまま東京行っちゃったりして!ガンバレよ!」
長瀬「うん!」
次の日
陽光「ハヨ!」
ドン!
ヒリヒリと長瀬がぶつかっていった頬に手を当てる陽光。
陽光「?」
-----------------------------何が主人公だバーカ---------
長瀬
と書かれた長瀬のメモが陽光の目の前に落ちてきた。
陽光「ハル、お前何描いたーーー……」
怒る陽光。
陽光(俺……?)
高知フェリー乗り場
ハル「あれ、表紙どこだっけ、、?」
1
さあ、春杯だ!
螺旋川中―――
「お前ら偉いトコと当たったな!」
「負けて恥かくに決まってるんだ」
要(アイツらの目…死んでない。これだけ手を尽くしたのに…ムカつくな)
20―1
「なんで狐火中が廃校寸前の螺旋川中に一点を許したの!?」
「今アンタが言ったんじゃないの」
「え?」
「“廃校”」
「ああ」
だから、一点だけ譲ったのよ。
オレは這い上がってく。クライミングをする登山者みたいに。待ってろ、熊野古高校。
「そうそう。そこのサッカー部、デンセツを作った高校らしいね」
「伝説を作った学校!?」
―――オレは春野陽光。たった今、オレはそう叫んだ。最近のアニメやゲームに不満を覚えていた中、リアル(現実)で刺激が欲しかったのだ。ここは家からすぐ近所の公園。
サッカークラブの少年たちが練習の休憩中に、そんな事をほのめかしていた。
「狐火高校なんだけどさ、サッカーめちゃくちゃうまくてすげえつええの。お兄ちゃんみたいな奴には縁のないところ」
「うるせえくそガキだな」
と、オレは遮断したが、子どもたちはクスクスと笑いながら持ち場のポジションに戻っていった。
オレは暫くそいつらのプレイを見ていたが、どうも狐火高校の文字がちらつく。だって、その少年たちの入っていたクラブが『ほむらブーストサッカークラブ』だったから。
炎と狐って、昔から縁があるじゃん?
―――
ほむらなんちゃらサッカークラブVS熊野アネモーネの戦いは、熊野アネモーネに軍配が上がった。
「ッシャ!さすがオレの地元のチーム!」
オレも高校で部活に入ることに決めた。もちろん、狙うはサッカー部。今は3月。4月の入学式までまだまだ時間がある。今から練習すればまだ希望はあるはずだ。
「そんなヘタクソなドリブルでよくまあ意気揚々とサッカー部に入るなんて意気込んだもんだな」ICV:保志総一朗
3月も終わりに近づき、いつもの公園でオレが練習に励んでいると、一人のイケメン風ノッポ純黒少年が声を掛けてきた。
「お前だってサッカーやってねえ風に見える!けど!」
「やってみせてやるよ」
そういってイケメンはオレのボールをとるなり、リズミカルにリフティングを始めた。
「おおお…」
そして、ポーン、とボールをオレにパスしてニヤリと笑えば、
「オレ夏野快晴。4月からよろしくな」
と、手を一振りして去っていった。
「あんな奴も入るのか…」
オレは少し物怖じしてしまった。
後で調べれば、夏野快晴とかいう男は熊野アネモーネFWの息子だそうだ。そりゃ煽りが…じゃなくて、プレイが上手いわけだぜ。
―――そして、ついに“入部の日(その日)”はやってきた。
2. 入部の日(その日)
~四万十高校の皆さん~
主将 2年:水無月 美龍(みなづき みる)♂(MF)
金髪天才ナルシスト。ナルシストだが天才。とにかくナルシスト。
性格はあれだが顔は良いため女子にモテる。
試合中は計算高く自らの才に酔いしれること無く戦う。奥の手は残しておくタイプ。
ミル「さあ一年生たち!この主将の美しさに酔いしれなよ!」
2年:卯月 サトル(うづき さとる)♂(DF)
メガネをかけた長身の熱血少年。
四万十サッカー部の未来をかけて一部のやる気の無い部員達と日々葛藤中。
サトル「酔いしれているのは自分(貴方)でしょう!!!ああっホラ一年生があきれている!」
1年:白河 霧月(しらかわ むつき)♂(MF)
去年の全中リーグ大会以来、何を思ったのかぱたりと話すことをやめてしまった小柄な
少年。クリーム色の配色。クラスメイトや部員からはプラチナ少年と呼ばれている。
白河「…」
1年:花巻 弥生(はなまき やよい)♂(DF)
一件おとなしそうだが喋り出したらフキダシを全て埋め尽くすほどの
人に世論を掻き立てるマシンガントークボーイ。
話を聞き流せなくて倒れていった部員も数名確認されている。
今の興味はサッカーより持ち仕事のアイドル業へと移っている。
弥生「白河くんが黙っているのはいつもの事だから気にしなくていいよ。鈍才な同学年達」
陽光「お前なんかむかつく」
快晴「相手にすんなよ。部員はこれで全部か?」
陽光「は!?バスケとかバレー部とかとは違うんだぞ!!!これで全部な訳ねえじゃん!!!オレたちゃサッカー部だぞアホか!!!」
快晴「うるせえよ」
サトル先輩は目を曇らせ、ぽつりぽつりと話し始めた。
サトル「あれは、全高リーグの第二回戦の事でした。四万十高校は、狐火高に破れたんです。部員も殆どやめていってしまいました」
ミル主将もまた、その心の内を晒す。
ミル「僕と弥生はサトルとは腐れ縁でね。彼の熱意に負けなんとか思いとどまったのさ。ほかの部員達はきっともう熊野古高校は終わったと思ったんだろうね。振り向きもしなかった」
弥生は、悲し気に口を尖らせる。
弥生「サトルとミルは今まで頑張って四万十高校を全国に出してきた。それなのに、狐火高の巧妙な手口で部員達がどんどん離れて行ったんだ。僕はそんな二しまんと人を見て、別に同情なんかしていないけれどこの部活に掛けてみたくなったんだ」
ミル「あとひとりいるよね」
主将は思い出すように言った。―――その一人とは。
サトル「全くあの人はマイペースなんだからなあ。晩冬さ~ん!」
サトル先輩が大声で呼ぶ。
快晴は、
「呼んでくんのかよ!」
なんて笑っていたけど。
晩冬「なんじゃ!後輩ども!!!」
1年達(((スッゲー訛り!どこ出身だよ!!!)))
びっくりするオレら1年を置いて、晩冬先輩が現れた。3年生だ。デカいな。サトル先輩に聞けば、彼は土佐生まれの漁師の息子だったらしい。叔母の体調の都合上、介護のために土佐に移住してきたんだとか。そんな彼がサッカーをやる理由とは。
晩冬「サッカーやってりゃモテると聞いたからぜよ!」
サトル「あんた※シザーズ好きなんでしょ。それいいなさいよ先輩」
晩冬「は?」
・・・幸先不安だな。このチーム。
※シザーズ:サッカーにおけるドリブルのフェイントの一種である。
陽光「螺旋川中?」
快晴「ああ。半年前の対全中に出ていた、運悪く狐火中に当たった一回戦敗退のチームだ」
陽光「そこがどうかしたのかよ?」
快晴「熊野古中とは練習試合で何回も勝鬨を上げていた。けど…」
陽光「…た、たったの一点…?」
快晴「さぞかし、悔しかったろうな」
嘘だろ…。と、オレは立ち尽くした。熊野古中だって全中でかなりの成績を上げていたんだぜ。それが、一回戦敗退。狐火中と当たっただけで。
今はもうオレ達は高校生だけど、もしその時狐火中にいたやつらが高校の部活を牛耳っているとしたら。
オレはゾッとした。
快晴「震えてる場合か!お前には早くオレのライバルになってもらわないと困るんだよ!!!」
陽光「は!?震えてねえし!って、今なんつった?」
快晴「―――オレは今、この町にライバルがいない」
3.空花と始-ソラカとハジメ‐
オレと快晴の二人は、グラウンドで練習をし始めた。快晴のライバルがいないという理由が分かった。快晴は上手いのだ。
なんというか、テクニックとかボールさばきとか、とにかくサッカーにおいて抜けどころがない。それに加えて、猛烈な野心と重圧を感じた。夕暮れも傾いてきたころ、快晴が口を開いた。
快晴「サトル先輩が部員集めに苦戦してたぜ」
陽光「じゃあオレらで一年誘おうよ!!!」
快晴「使えないベンチ組増やしてどうすんだよ」
陽光「…ったく。お前そんなんだから友達いないんだよ」
快晴「うるせえよ」
その時、夕暮れに伸びる影二つ。ボールに移していた目を見上げると、入部届を持った二人組が立っていた。
「やあ」
「…よ」
陽光「オレ、春野陽光!こっちは夏野快晴!一年!」
空花「僕は桃山空花(ももやまそらか)。言われた通り、キミのピンクですぐキミ達を見つけられたよ。こっちは栗谷始(くりたにはじめ)。僕達も一年」
始「オレはGK希望ね。部員足りないみたいだったから、入ろうかってなって」
陽光「マジ!?めっちゃ嬉しい!!!サンキュー!」
空花「陽光っていったけ?キミ、裏街道とか※メイア・ルアの使えるFWでしょ?それ、MFじゃないとうまく発揮できないテクニックなんだよ。もしよければポジション変わってあげるけど」
陽光「結構です」
オレは話をシャットアウトした。
快晴「水無月ミル主将の性格知って入ろうって決めたんじゃないようだな。FWでソイツを使えたら、奥の手として取っておけるだろ」
空花「…フーン。随分奥の手にこだわるんだね」
始「桃山、そろそろ行かな」
空花「ああ、そうだね栗谷。誤解してゴメンね、陽光くん。それじゃ、僕ら行くから。コレ出しにね」
入部届のビラをヒラヒラと振ったかと思えば、校内に戻っていった二人。校内にはまだ二年生の卯月サトル先輩が残っているハズだ。マネージャーがいないから、きっとサトル先輩にでも渡そうという魂胆だろう。
陽光「アイツ、毒があるのかないのか分からん奴だな」
快晴「…茨の心の持ち主みたいだな」
陽光「ぶはっ、はんだソレ」
快晴「間違ってもその蔓踏むなよ。ケガすんぞ」
快晴は意味深にそう呟くと、ボールをカゴに戻しに行った。確かに桃山ってやつ、アブナイ目してたもんな。なんか、目に光がなかったっていうか…。それに後ろにいた栗谷って言うメガネも只ものじゃなさそうだった。
※その名の通りボールと選手とで半円を描くような軌道を取ることから、ブラジルではポルトガル語で半月を意味する言葉であるメイア・ルア。
4.事件
ミル「無い!!!無い無い無い!!!僕の愛用のよーじや油トリガミがなあああい!!!」
サトル「事件です!!!」
ミル「でしょ!?」
サトル「あっ、違います。練習試合が組めたんですよ」
陽光「ッシャア!!!」
快晴「うるせえよ陽光」
ミル「…」
ミル主将のよーじやさんの油トリガミは一体何処へ消えたのか。取り敢えずそこはスルーして、なんとこの四万十高が練習試合を組めたのだ。それこそ一大事じゃないか。それと事件とはちょっと違う気もします、サトル先輩…。
サトル「相手は―――螺旋川高です!!!」
一同「!!!」
弥生「同族のニオイがする高校だねえ」
空花「よしてくださいよ弥生くん。ぶはっ」
始「笑っとる場合じゃなか。知っとうよ。
プラチナくん(霧月)の居た中学と同じ名前たい」
始って博多弁だったんだ…!確かに最初からそんな匂いほのめかしていたきがする…!
陽光「…螺旋川って―――」
快晴「ああ。狐火中に全中一回戦で負けたあの中学の、エスカレート先だな」
横で空花が、
空花「プラチナくん大丈夫?さっきから汗が諾々だけど…」
始「よーじやさんの油トリガミ使っとるね」
ミル「犯人はキミか!!!」
これでミル主将の油トリガミ事件は幕を閉じたけれど、肝心のチームメイトの心境と状態が心配だ。
サトル「白河くん、黙っていたら伝わりません。ここは、勇気を出して話すべきです。
口で伝えるのが辛かったら、この筆記用具を使って説明しても構いませんから…ね?」
白河ことプラチナくんは、筆記用具を手にした。よっぽど口を開くのが重いのだろう。目には空花と違う光の無さが伺えた。
『僕ら螺旋川中は全中リーグで一回戦、最後の一点を狐火中から譲り受けました』
陽光「え!?」
『理由は数日後に廃校してしまうから。でも狐火中に劣っているとはチームのみんな思っていなかった。何故あんなに力の差が付いてしまったのだろう。それは、チームの全員が思っていました』
快晴「…」
晩冬「それは、狐火中がスキャンダルで報道陣全部を乗っ取っていたからやきのう」
陽光「どういう事ですか?」
『後で分かったことですが、狐火中は螺旋川中にこう宣告していたようなんです。
―――オレらに勝たせなきゃ、高校も潰す』
オレら一同、仰天した。それってつまり‥
快晴「八百長ってコトですか」
晩冬「ああ。裏で大人たちの手に寄る金取引が行われていたんだぜよ。闇商売も良いとこだ」
弥生「許せない…!」
陽光「オレらが今出来ることは、アイツらに恥じないプレイをするって事なんだな‥」
白河が目に涙を浮かべていた。それはボロボロと床に零れて。ミル主将が綺麗な薔薇の詩集が施されている自前のハンカチでその涙を拭ってやっていた。
空花「元気出しなよプラチナくん。僕らがソイツらをぶっ飛ばせばいいだけの話じゃないか。こんな高校の未来なんてどうでもいいんだからさ」
始「空花のいう事は一見残酷やけど、オレも似たような―――そう思っとうよ」
陽光「つまり高校や大人の話は抜きにして、狐火高をぶっ倒そうって話だな!」
快晴「ぶはっ、単純バカ…。ま、オレも同意見だ」
白河『みんな…』
その日の夕方は、メンバーに更に二年生の赤林さん、三年生の牛虎さんが加わり(出戻り?)
対和歌山杯に向けての準備を整えた。
5.春の期末テスト
ついにやってきた―――春の期末テスト!!!
(春杯は?というツッコミはナシだ)
陽光「空花にノート借りるなんて珍しいな!お前いつも頭いいじゃん!」
快晴「うるせえ!たまたま忘れたんだよ!」
空花「サッカーバカもたいがいにしとけよ~」
始「授業始まるけん。相手にしてられんよ、空花」
空花「んだな」
快晴「アイツら好き勝手言いやがって…」
部室に着けば、サトル先輩が縦横無尽に部室内を歩き回っていた。
陽光「どうしたんスか?サトル先輩」
サトル「陽光くん、キミの平均点は!?アレクちゃんより低い場合、次の春杯出場はナシだ!!!」
陽光「は!!!????」
そして結局、補習組が決まり―――。
オレ、アレクちゃん、牛虎先輩が補習組に入った。
ミル主将はギリギリで補習を回避。ギリギリって辺り、案外頭悪かったんだなミル主将。
陽光「快晴に教えてもらうか…」
アレク「アイツあたまいいのか?」
陽光「アイツ、普通にテストで100点取ってくるやつだから」
アレク「バケモンだ」
始「オレとタメ張れるけん」
空花「アイツ頭良かったんだ…」
3、 さあ、偵察だ!
快晴「敵の弱点を知るには何が必要だと思う?」
空花「騙す」
始「出し抜く」
プラチナくんは手記で、「恐怖」を与える」と書いた。ひでえな。だから勝てねえんだよお前ら。
快晴「それを総称して、偵察しにいくんだよ」
おい、ソコ。ストーカーすんな。
空花「重要ですね」
どこがだ。
始「一本取られたと」
呆れ顔の俺はいつの間にか置いてきぼりにされ、いつの間にか一人きりになった。
慌ててみんなの後を着いていく。こんな幸先不安なチームで大丈夫か!?
唯一待っててくれたのは、卯月先輩だけだった。
卯月「陽光くん、行くよ」
陽光「ハイっす!」
如月先生とたぬき坂の監督は、なんと元カレ元カノ同士だった。たぬき坂の監督は、如月先生の芋っぽさに嫌気がさし、如月先生を振り、グラビアの女性と付き合ってしまった。
四万十高校顧問の如月先生をあっという間に裏切って、エセイケメンのたぬき坂の監督とたぬき坂は笑い声を上げながら、俺らを食堂から追い出した。本当のイケメンは晩冬先輩だったのか・・・。
チーム一同唖然。
如月先生の悔し涙が鼻にツンときた。
たぬき坂の偵察を終えた俺と快晴は、とある男性と出逢った。その男性はスラッとしていて、髪の毛はロングヘアの金髪でどうみてもホストにいそうなイケメンだ。
(なんか、美龍キャプテンレベル100ってカンジだ)
ベンチで考え込むすがたは、言うなれば銅像の「考える人」に近い。
陽光「ど、どうもッス」
「そのユニフォーム、四万十高校か」
陽光「そうッスけど…」
「…俺は柊瑠香。元四万十高校サッカー部監督だ」
陽光「そういえば、オレらんトコ監督いないんでした。コーチも」
柊「そうか。まだいないのか‥その様子なだと、夏杯もそろそろじゃないか?」
陽光「いやこれからやるのは春杯という大会で・・・」
柊「春杯?」
快晴「正式にいえば夏杯でドベからスタートするための敗者復活戦」
柊「お前、名前は?」
陽光「春野陽光です!名前を覚えてもらうなんて光栄です!」
柊「お前じゃない!」
柊「ナルホド。失敗のまた失敗した奴らの挑戦か。しかも夏杯ではドベからスタートとは・・・面白い。少しは見応えがありそうだ。最近のデスゲームとやらは俺にはちょいと野蛮でな」
陽光「監督、戻ってきてくれるんですか!?」
柊「イヤ、それは考え中だ」
陽光「そ、そんなあ…」
柊「なぜなら四万十高校は―――」
『ドベ中のドベで、はじめたての歴史の浅い高校だからね』
陽光「誰だ!?」
要「横から失礼。僕は田中要。狐火高校2年生、そっちのオジサンは分かっていると思うけどね」
柊「オレはまだ26だ」
要「今は狐火高校サッカー部のキャプテンを努めている。そのオジサンを監督の座から引きずりおりしたのも僕らだよ。だって、僕らに歯向かってきて邪魔だったんだから。
僕らの目的は、あの憎き螺旋川高校だけだ。それに邪魔する奴は、みな消えてもらうのさ」
陽光「柊さんの事を幾度となくオジサン扱いしやがって…キャプテンだかなんだか知らねえけどな!!!ここは京都民の来る場所じゃねえんだよ!!!土佐内なんだよバッキャロー!!!」
要「うわ煩い。京都民だからなんだというの。頭が固いと勝てないよ?僕らにはね…それじゃあね」
陽光「柊さん」
柊「陽光くん?」
陽光「オレ、めちゃくちゃかちんと来ちゃいました」
柊「アハハ…」
陽光「テスト、絶対満天取りますんで柊さんも考えて置いてください」
柊「何を?」
陽光「“監督復帰”の件です」
柊「!」
陽光「快晴、先行くなよ!」
快晴「待ってる時間が惜しいんだよ」
柊「快晴…?あの、夏野選手の…?まさか…こんな歴史の無い高校に、なぜ・・・」
そう、今の四万十高校には夏野快晴がいるんだ。オレもいる。狐火なんかに負けねー。プラチナくんの思いも、主将の思いも、全部全国へ持っていく!!!まずは第一回戦だ!
柊サイド
1
次の日。監督復帰の件を考え直してくれた柊さんは、突如四万十高校に現れた。
しかし、柊監督から学んだのは、失敗のさらにその先でーーーー。みんなの前で曝け出した柊監督の話は、赤裸々なものに違いなかった。
陽光「それってどう言う事ですか?柊さんーーー」
柊監督は、くちをもごもごしながら、「んー」とか「うー」とか唸り出して
一向に喋る気がしない。
話がもだえるほど、いいにくい事なのか。
柊「昔一緒に小説家を目指していた奴がいたんだけどな。ソイツの精神年齢が幼稚だったせいで、俺もとある被害にあったんだ。まだコドモのお前らに言うのは少々とまどうが、
精神剤を無理やり飲まされた、とかは話てもいいのかなあ・・・うーむ」
柊監督の衝撃の発言に、俺らは口をポカンと開けた。
柊監督は、すぐにその話から話をそらすように、
俺たちに次の話題を繰り出した。
その女性の夢を10年間見続けることからはじまって、
体が勝手にその女性の地元まで行っていたこと。
その行動力が、誰かの勇気になって、失敗も一緒にどこかに連れてって欲しいと、
監督を目指すことを決意したらしい。
その先が頂点であっても、恋幕の幕開けであってもかまわない。
自分が満足するくらいのストーリーを、その子のオリジナルで作り上げて欲しいんだと。
その後、俺らに問いかけた。
「君たちの夢はなんだい?」
失敗も挑戦も、全部俺らの力になることを、柊監督は教えてくれた。
たとえそれが年齢制限の「ぴーーー」路線だったとしても、それは間違いなく立派な失敗だから。
それは。時に大人も子供もあり得るから。
そこに大人や子供の境界線はないのだ。
しっかりと教訓を得て、俺らは次の試合に臨む。
教訓を得た俺らは強い。たとえそれが、勝ち進んでも次の夏にはドベから始まる、「負け杯」だったとしても。春杯とは、夏に負けた者が次の夏の大会に出るために這い上がるための、敗者復活戦だ。
次の夏の栄光を手に入れるための、前夜祭なのだ!!!負け杯でもかまわない。それが誰かの勇気になって、次に勝ち上がる挑戦に変わるなら。俺たちは這い上がってやる。ロッククライミングをする登山者みたいに!
6.裏街道
空花「アイツ、また一人で練習してるよ」
始「練習、付き合ってやらんと?」
空花「…そうしようか」
オレは昨晩ネットでループ再生していた裏街道『メイア・ルア』という個人技の特訓をしていた。これは本来、MFが扱う技だが、主将の意思を継ぎたいオレはFWでもうまくこの個人技が機能するように練習しているのだ。
空花「ま~た裏街道の練習?」
始「懲りないやつやね」
陽光「空花、始」
空花「初心者のキミに僕らが特別に始動してあげるよ。裏街道のコツとボールさばきになれるよぅに」
陽光「え、待ってお前ら協力してくれんの!?」
始「オレも空花も狐火に腹たっとるけん。ソイツらを倒そうとしている仲間に協力するのは当たり前」
空花「裏街道もいいけどさ、勉強進んでる?」
陽光「快晴のスパルタ指導で毎日死にそうだ。アイツバカが嫌いらしいからな…(トホホ)」
空花も始も、それに関しては笑いをこらえきれないようだった。チクショー。
空花「じゃ、裏街道中に問題出すから。和歌山杯出場停止なんてなったら友達止めるよ」
陽光「手厳しい!!!後そんな事にはならないし!!!」
始「まずは裏街道×歴史の出題やね」
陽光「よし来い!!!」
オレ達の挑戦はまだまだ続く。
―――そして、テスト当日。
弥生「あの三人(始、空花、快晴)なんであんなにゲッソリしてんの?目が死んでるよ?」
白河『卯月先輩と赤林先輩も死んでます』
サトル「で、では一年補習組の成績を発表します…」
ドドン!!!
春野陽光
現代文 89点 数学80点 日本史98点 世界史83点 生物90点 英語87点
サトル「陽光くんよくやりました!!!一抜けです!!!まず一人和歌山杯出場決定!!!」
快晴「はあ!?なんで100点がねえんだよ!!!ぶっ飛ばすぞ!!!」
弥生「まあまあ」
サトル「最後はアレクちゃんですね…」
現代文 81点 数学90点 日本史88点 世界史97点 生物92点 英語100点
サトル「僕は嬉しい!!!感動している!!!ありがとう仲間達よ!!!」
ミル「よくやったね!!!」
快晴「やっぱ陽光ぶっ飛ばす!アレクちゃんに負けてんじゃねえかよ!!!英語で100点取ってんぞアレクちゃん!!!クソッ」
弥生「プラチナくんの教えが良かったんだよきっと。諦めな」
始「アレクちゃんがバカすぎてオレもプラチナくんもここまで育てるのに苦労したと…」
空花「お前も頑張ったな。僕と快晴も陽光を育てるのにめちゃくちゃ苦労した…」
サトル「晩冬もよく頑張ったよ…牛虎も…僕と赤林がいなきゃ落第してたところだ」
弥生「サトル大げさすぎ…」
ミル「これで和歌山杯が明確になったな!さあみんな!先ずはグラウンド100週だ!」
キラーンと語尾にそんな効果音が聞こえた気がした。
…そう、ミル主将は意外とスパルタだった。
7.練習試合 VS螺旋川高
汗諾々の練習メニューをこなし、ようやくチームがまとまってきた4月後半、
怒涛の中で螺旋川高との練習試合は行われた。
俺は空花たちと裏街道の猛特訓をして、目標の奥の手に王手をかける。
「よっ!プラチナくん久しぶり!」
試合当日。プラチナくんに声をかけてきたのは、螺旋川高のキャプテンだった。そう、あの対全中の試合でプラチナくんとチームメイトだった人物だ。一年だというのに、もうキャプテンに選ばれたのか、アイツ。
白河『翼!』
「ん?お前いつから手記になったの?」
灰沢 翼
太陽のようなはじける瞳と、深い翡翠色のショートヘアを併せ持つ飛翔の少年。
性格は明朗快活で、誰とでも打ち解ける。少々天然が過ぎる。プラチナくんの同期。
プレイはなかなか優秀で、快晴と同じサッカー雑誌の特集にも載るほど。
「翼!あっちにはコーチも監督もいないよ!チャンスだよ!」
白河『朱子、マネージャーになったの!?』
朱子「え!?プラチナくん!?背伸びたねえ!!アンタが居たらこりゃ一筋縄じゃ行かないかぁ!」
梼原 朱子♀
螺旋川高唯一の女子。マネージャー
翼やプラチナくんの幼馴染。明るい性格で、いつも天然ボケ一直線の翼を突っ込んでいる。
梼原とプラチナくんの会話を遮ったのは、どう見ても中学生離れした体格を持つモブだった。事情は分からないが、なんか偉そうだ。
「準備運動だ、行くぞ翼。いつまでも昔のチームメイトに引きずられるんじゃない」
翼「なんだなんだ、俺がキャプテンなんだぞっお前はいつも持っていきやがって!
この『狐火のシード』が!!!」
快晴「オイ!灰沢、今なんつった?!」
熊野古全員(((狐火…!!!)))
翼「この学校は殆ど狐火財閥の資金で運営されている…だから、シードに目を付けられてもしかたねえんだよ…クソッ」
シード「螺旋川高を再建してやったんだぞ。それだけでも有難く思いな」
朱子「翼が頑張ってチームを集めたのにアンタらは何もせずにのこのこ後から入って来たんじゃない!アンタらなんかよりね、偉いのは翼よ!!!」
快晴「どうやら、この螺旋川高との練習試合は一筋縄じゃいかないようだぜ」
陽光「そうだな…。…見ていてくれますか、柊さん」
快晴「陽光?」
陽光「熊野古高の元監督だよ」
ふいっと俺は持ち場へ戻った。
快晴「あの人が…?」
その時。
快晴「父さん‥柊さんは、まだサッカーを、やっていた…?」
快晴?お前、なんて顔してんだ‥‥?お前と柊さんに、何かあったのか…?
~プチ回想~
『父さんと柊さんは絶対日本一になれるね!!!』
柊「見てろ!絶対熊野アネモーネを日本一にしてみせるぞ!」
夏野「俺と柊が居れば、最強コンビだからな!」
―――
ピイーっと試合開始の笛が鳴る。
審判「試合開始!」
FWの俺と快晴が上がっていく。ボールはオレ達からだ。
陽光「俺とお前がいれば、最強コンビだろ」
快晴「!」
狐火シード「行け!先ずは夏野の息子を潰せ!!!」
快晴に渡そうとしたボールが狐火シードに阻まれた。クソ、やられた。
サトル「行かせはしません!」
サトル先輩がシードからボールを奪う体制に入る。サトル先輩はテクニカルな動きで相手を翻弄する。
アレク「俺と空花でGKの始を守るゾ!」
空花「サトル先輩がボールを奪ったのはいいが、攻め込まれているな…」
晩冬「サトル!こっちじゃ!俺に渡せ、赤林に上げるぜよ!!!」
サトル「晩冬さん!あ!」
サトル先輩が晩冬先輩にボールを渡そうとした瞬間、元の螺旋川高のチームメイトが瞬時に対応したのだ。
白河『もう狐火に―――点はやらない!!!』
晩冬「ナイススライディングじゃ!!!プラチナくん!!!」
プラチナくんのスライディングのおかげで、ボールは守られた。その時、シードがしくじった螺旋川高のチームメイトの肩を肩にぶつけた。ドン、という音がしたかと思えば、チームメイトはその場に倒れた。味方同士のぶつかり合いが始まった。
選手「うわぁっ!」
シード「使えねえな!」
審判「ファウル!レッドカード!」
シード「翼の言っていた策ってのはこれかよ。審判だけはいいの連れてきやがって、チッ」
そう一人のシードが言うと、シード達は審判に抗議しに行った。
陽光「一体なんの話をしているんだ!?審判がどうとか」
快晴「試合が公平に進むように、翼が仕組んだんだろ。狐火任せじゃ、どうなるか分からないからな」
弥生「つまり僕達は今、螺旋川高に助けられているという事なんだね」
陽光「翼…」
翼「俺らのプレイスタイルを思い出せ!!!相手選手もリスペクト!!!それが俺らのプレイスタイルだろうが!!!シードは関係ない!!!そうだろう!!!」
選手1「そうだ!翼のいう通りだ!!!」
選手2「忘れてたぜ…狐火の影におびえてよ…!!!」
それから、螺旋川高の選手たちはシードの要請をことごとく跳ね返した。そのお蔭か、誰にも邪魔されることなく試合が順調に進む。
シード「なんだ…オレ達のいう事が聞けないのか!!!この弱小サッカー部め!!」
翼「点を取りたくないわけじゃない!けど!お前達に力を貸すのは嫌だ!」
翼がそう声を上げると、プラチナくんはユニフォームに忍ばせていた手記(ノート)をその場に破り捨てた。そしてMF達をスルスルと抜け交わしていくと、こう叫ぶ。
白河「翼は…翼たちは弱小なんかじゃない!!!!!!もうお前らの好きにさせてたまるか!!!熊野古高校も螺旋川高も、僕が守るんだ!!!!」
近くにいたミル主将とサトル先輩が吃驚していた。勿論俺も、快晴も他のみんなも吃驚する。
弥生「プラチナくん!?」
ミル「プラチナくんが…」
サトル「声を出した…!!!」
晩冬「案外可愛い声しとるのう!!!」
シード「このチビ助め!!!ちょこまかと動きやがって!!!」
翼「今、オレ達螺旋川高は熊野古高の味方だ!」
シード「邪魔をするな!」
白河「快晴!!!」
翼「行け!熊野古高!!!」
プラチナくんのキープしていたボールは相手DFにわたる事なく、掛け声と共にこのチーム最強の選手の元へとパスされた。
快晴「!!!」
前半中盤は、周りのみんなもサポートしていたものの、殆どプラチナくんの独走である。
陽光「一発決めたれ!!!お前はこの町最強なんだろ!!!快晴!!!」
快晴「分かったよ!」
プラチナくんからのパスで、螺旋川高のDF陣を軽々と交わし快晴が華麗にシュートを決めた。
陽光「おおっ!やっぱかっけえ!」
審判「ゴール!!!前半終了!!!」
わあっ、とその場は盛り上がった。
空花「まだまだこれじゃ終わらないよ、ウチ”熊野古高”はね…?」
シード「ち、ちくしょう…!」
朱子「翼、みんな!こんどは、『狐火』じゃなくて私達の番…だよ!」
前半結果
熊野古 1-0 螺旋川高
螺旋川高監督「これが今の彼らです。戻ってきては頂けませんか。柊さん」
柊「…」
8.”最強の戦術・オリオン”
後半、螺旋川高が奇妙な陣形で挑んできた。FWに二人、MFに五人、DFに三人だ。
快晴「あの並び、まさか螺旋川も本気を出してきたな」
陽光「どういう事だ?」
ゴール側から始が説明する。
「あれは―――彼らが持つ最強のドリブル陣形、『オリオン』とよ」
「二、五、三の戦術。一件なんの変哲もない陣形に見えるが、
奴らはそれを点と点でオリオンの形につなぎ合わせるんじゃ!なに、その意味は試合をしていくうちに分かるぜよ!」
「最も恐ろしいのは、中盤のドリブルタクティクスです。スタミナが高い彼らは、
中盤を制します。これは僕らもあの手を出さないときついかもしれません」
「奥の手は―――最後まで取っておくものだよ。フフッ」
晩冬先輩とサトル先輩が相手の戦略の説明をし、ミル主将が不敵に笑う。なんだなんだ。ミル先輩もみんなも、なんかカッケエ!俺だけ置いてけぼり感まっしぐらなんだけど!
「良かったな陽光。主将の奥の手が見られるぞ」
「!ああ!そういう事か!」
快晴に言われて、俺は主将の意図がようやく分かった。
審判「試合開始!」
「あ!シードがいつの間にかベンチ入りしてる!」
弥生が叫ぶ。その視線の先には、ベンチ入りされてぶーたれている狐火のシード達の姿が。翼、オトボケモンに見えて案外スゲエ奴なんだな。
ボールは螺旋川高から運ばれる。綺麗なドリブルで俺や快晴を抜いたと思えば、
翼の掛け声が。どうやらこれが螺旋川高の奥の手のようだ。
『冬の大三角!!!』
「出たな!冬の大三角!!!」
中盤から守備に回っていた空花がそう叫ぶ。螺旋川高のメイン三人が綺麗な三角形の陣形でパスを回していく。この完成されたタクティクス、そう簡単には抜かせて貰えない。
プラチナくんと空花が同時にスライディングを決めようとするが、
相手の華麗なパス回しでボールはキャプテンの翼へとパスされてしまった。そして、ゴール前。DF陣は螺旋川高の選手たちにマークされてしまい、ゴール前の始が手薄になってしまった。
「しまった!始!」
俺は始に叫ぶ。
「一対一でキャプテンと渡り合えるのは嬉しい限りやけん。勝負!」
「ふっ!」
翼のシュートは綺麗に決まって、読み合いを期待していた相手は一瞬の出来事に呆然としていた。
「これが本当の螺旋川高のサッカーだ!」
くるりと体制を変えてその場を去っていく翼。始は心底悔しそうな顔をしていた。
「機会があれば、俺にもテスト勉強教えてくれよ。始くん。あはは」
「絶対イヤやけん」
「なんの勝負だよ!」
俺と快晴は、思わず二人に突っ込んでしまった。
同点に追いつかれてしまった後半15分。
こちらのボールタッチで試合は始まった。俺と快晴でボールをMF側に回していく。
そして、ボールはミル主将に渡った。
「しまった!アイツにボールがいった!守備!」
翼が叫ぶ。螺旋川高は守備を慌てて固め始める。何が起こるんだ?
「主将!?」
俺は思わず叫んだ。
ソレは主将の、あまりにも完璧で、素晴らしいほどの“あの”ロナウジーニョが得意とする足技…
『エラシコ』。
その華麗な足技でぐんぐん螺旋川高のDF陣までボールを運んでいく。
俺はいつの間にか、主将の足に誘導されて、いかにもFWがゴールしやすそうなコースにたどり着いていた。
「あ、あの!」
「陽光くん!」
初心者の俺でも受け取りやすい綺麗なパス。足に馴染むパス。
これで外したら、なんて…そんな事考えている暇はない。
「春野をマークしろ!!!」
「判断が遅いよ!陽光くん!今だ!」
「うおおおっ」
俺はこの日初めて、FWとしての役目を果たした。試合中に点を決めるのって、こんなに…
こんなに、
気持ちが良いんだな――――。
審判
「試合終了!」
螺旋川高のみんなも、プラチナくんも、試合後とても気の抜けたような、優しい表情をしていた。
試合に負けて悔しいとか、そういうのもあるだろうけど、それだけじゃい。
まるで狐の憑き物が落ちたような―――安心した表情だった。
快晴「まず一校救えたな」
陽光「ああ!」
シード達は螺旋川高の責任者に取り押さえられ、翼たちは俺たちに『ありがとう』と言って去って行った。
空花「今回は陽光の裏街道、発動しなかったね」
始「ミル主将の本物の奥の手が見れただけでも儲けもんとよ。勘弁したるけん」
アレク「まさかエラシコが使えるとは思わなかったな!」
白河「流石主将だよね」
弥生「あ!僕このあと撮影があるんだ!」
ドタバタと散っていくチームメイト達。
俺と快晴は二人グラウンドに残り、本来ならばマネージャーが行う業務を二人でやっていた。ボール拭きは基本だ。
「…柊さん、まだサッカーやってたんだな」
「なんだお前知ってたの?だったらあの時一緒に説得してくれたらよかったのに」
「…あの人にも色々アンだよ」
「知ってるぞ!狐火だろ?」
「それだけじゃなくてよ」
「そうなのか?」
「…メンドクセエ」
ボールを拭き終えた快晴は、そう言うとすたこらと帰路についた。なんだよ!俺だけ置いて行きやがって!ぼっちか!
「…それだけじゃないって、どういう事だよ…」
―――今日の快晴のシュート俺なんかと違ってカッコ良かったな。
くそ、俺ももっと上手くなりてえ…。そう思いながら、小学生が夕暮れ時サッカーの練習をしている姿を目じりに、帰路の河川敷を走った。
快晴「どうしたんすか。柊さん」
河川敷を抜け、柊さんに久しぶりに会ったら、柊さんはやつれた顔で公園のベンチに居座っていた。
柊さんは統合失調症の30歳で、
現在治療をしながらサッカーのコーチを子供たちにしている。
なんでも、若い頃顔を見せてくれなかった親戚のことが気になって、
小さな頃からうつ病を患い、気づかないうちに病気になってしまったんだという。
柊さんは、サッカーをやっている時が一番純粋な少年のような目をしている。
そんな柊さんは、今月は2月で去年の11月に妙な輩に襲われたんだという。
柊さんも恋愛難民で、
LGBT掲示板という大人のサイトをのぞいて、実際にLGBT女性に会って見たら、
その女性は自分と同じ統合失調症で、妄想が酷めの女性だったらしい。
その女性に二ヶ月間もつきまとわれて大変だったとか。
柊さんはLGBTじゃないんだが(自称バイ予備軍だそうだが)、その掲示板をのぞいた理由があるらしい。
親戚のことで通話ができるんなら、誰でもよかったそうだ。
そんな相談、俺に話してくれりゃいいものを。
未成年で年下だから無理だったんだとか。切ないねえ。
でも、ギリギリ聞けるところまで話してくれた。
柊さんちの親戚の人が、昔悪したんだって。
それも柊さんの父親の家族ぐるみで。
なるほど。そりゃ普通の人には話せないから、わらにもすがる思いだったんだな。
その女性はその時の逆恨みで、腹いせに柊さんに薬(精神錠剤)を無理やり飲ませ、去っていった。
柊さんはその時の絶望からまだ耐えきれていないみたいで、俺も少し応援してやりたくなった。
その後、柊さんの話を聞いたら、
結婚の為に50万円下ろして彼氏に会いにいって、今同棲しているんだと。その50万は家族が代替わりしてくれたんだとか。
柊さんがコーチに戻ってくれなかった理由が分かった。
今後は同棲生活、楽しんでください。
お体にもご自愛ください。
次の試合、柊さんが来てくれたらいいな。
俺は未来の来訪にワクワクしながら、部室の前で陽光の頭を軽く叩き、
「おはよう」と言った。
「いってー」
「はよ」
「ん!オハヨ!」
柊サイド
2
美しい女性が夢の中にでてきては、
目が覚めるたび当たり前だと思うがそれが夢だと思い知らされた。
単なる夢、
夢、なのに現実にいるのかいないのか、とても気になる。
想いを馳せる。
されど散る桜のように、俺の時は一刻と過ぎてゆく。
午前0時の針を指す。
俺は飛び起きた。
また、あの女性の夢だ。
今日はあの子たちの試合があるのに、一体何故。
気持ち悪いような、気味悪いような気がして、
俺は急いで洗面所へ向かった。
顔を洗ったら、背筋が凍るような寒気は無くなっていた。
VS狐火
卯月・美龍サイド
狐火学園と戦う時も、他校と戦う時も、度々
僕と美龍に悲痛な言葉が投げかけられた。
小さい頃、駄菓子店にクラスメイトと行った時
クラスメイトの1人が万引きをしたのだ。
卯月「や、やめろよ!」
クラスメイト「卯月が!万引きしましたー!」
卯月「!?」
美龍「ねえ君、」
クラスメイト2「水無月くんも一緒ですー」
美龍「!」
僕達はなんと無実の罪を擦り付けられてしまったのだ。その事件は、今でも生々しくボクらの心に残っていて。
たまに、ため息をつきたくなる日もある。
その時は、なんとか親も謝りに行って解放されたけど。
部活でキツい練習がある時だって、
いつかあの時の事が無実だという事が伝わることを信じてる。
いつもは明るい美龍も、
その時ばかりは悔し涙をながしたから。
わぁぁぁぁぁと観客席から歓声の声が上がる。
スタジアムはついに、最終決戦にまでたどり着いた。四万十高校VS狐火学園。
その時、なぜか反対側のグラウンドにいたのはーーーーーー。
快晴「さあ、みなさん。始めましょうか」
陽光「快晴、どうしてだ・・・!?」
快晴サイド
励まし合うだけじゃなく、一緒に落ち込む友達ができたのは、桜の花びらが降る頃だった。
父親も母親も交通事故で死んで、なんでも孤児院に預けられたのだそう。昔の名前と今の名前は違うそうだ。
ずいぶん凹んで、ずいぶん泣いた彼は、公園で落ち込んでいた俺と一緒に落ち込んできた。
「そうそう。俺も同じだよ。一寸先は闇だな」
おお、ブレネリ。わかってくれるのか?
それ以来、彼と俺は一緒に凹む凹み合い仲間になった。
彼は、いつもサッカー関連の何かに精を出していた。
紙にキャラクターのイラストを描いていたように思える。
そんな事より本物のサッカーの方が楽しいって。俺はそういってその少年をいつもサッカーに誘ったが、断られてばかりだった。
彼はいつもベンチから俺の練習を見つめていた。
俺はいつの間にか。勝手に彼をライバル認定していた。
俺はボールを蹴っている時が一番楽しいからという理由で、サッカーを始めた。
でも、周りは天才ばかりで、落ちこぼれじゃない俺でもたまに落ち込むことがある。
彼を見ていると、落ち込んだとき一緒に落ち込んでくれて、
なんだか心が安らいだ。俺は、そんな彼を助けたいと思った。
春の季節が似合う、そんな名前の彼を。
いつも元気でバカな少年だったが、どこか可愛げがあった。
でもいつの日か、ほむらブーストで親友の陽光のその名義変更について色々聞かれるようになり、俺は疑問を抱いた。
陽光の家族が危ない!
もとの家族も。
俺は、ほむらブーストなのをいいことに、狐火と交渉し、
全国大会の決勝で、狐火に戻ることを決意した。
陽光を守るため。陽光の家族を守るため。
俺は、四万十を、敵側サイドから必死で応援した。
最初はみんなわかってくれないかもしれない。
でも、いつの日かきっとわかってくれる。
「失敗しても挑戦する勇気になるなら、その失敗ごときみたちの勇気に変えて、天辺へ持っていってくれ。それがまた次の勝利に繋がるから。それがドベからのスタートだっていいじゃないか」
その言葉が喋り終えるか、喋り終わらないかのうちに、狐火の長瀬のパスが決まって、敵がわの快晴のシュートが一本決まってしまった。
2ー1。
まさに、大ピンチである。
俺はガムシャラにボールを追いかけた。それは、何人も何人も抜いていって、その怒涛の繰り広劇はジーコさながら、と呼ばれた。歓声と共に、快晴にどんどん近づいていく。
快晴はバツが悪そうにしながら、俺を必死で避けようと選手たちをなんにんも抜こうとするが、
俺らの団結力はそう簡単に抜けず、
選手たちのブロックで、快晴は立ち塞がるばかり。
強豪と呼ばれた最強FWも、ここまでのようだ。
俺はボールをキープし、
一気にゴール前まで走り切った。
だけど、ここで終わりじゃない。
シュートするまでが、サッカーだ。
MFの俺なんかがシュートを決められるわけがない。でも、練習してきたんだ。
あの猛攻蒙古な選手のように。
スターを抜いたあの練習試合のように。
いわゆる、また抜きってやつを!
空花「でた、裏街道!」
始「違う、これは、シンプルにいうと」
快晴「単なる股抜きか!でも、素早い!」
陽光「MFだってシュートできるんだ!うおおおお」
ーーーーーーーその後、審判は取り押さえられ、
狐火の悪事も判明した。
なんでも、田中要の父親が仕切る会社の株で競り落とされた狐火高校と螺旋川高校は、
自分たちの試合をエンターテイメントとして世に知らしめ、
狐を世界まで持っていく契約をしていたのだそうだ。ボロボロの大人が、負けそうな子供が、裏切った選手が、なんて関係なく、時は過ぎ行く。
俺は這い上がってみせる。どんな事があっても、ロッククライミングする登山家みたいに!
失敗も挑戦も、全て自分の血肉となるから。
公園の真ん中で、俺たちは夢を見る。春の陽光みたいな、光り輝くでっかい夢を!
ピーヒョロロロ……
数年後・・・。陽光は中学生の時と同じようにキャラクター選考に精を出していた。
しかし、どんなキャラクターを描いても落とされるばかり。
もうあきらめようかと思った時、中学生時代の幼馴染の、漫画アシスタントのチラシが、
四万十にも舞い込んだ。
高校の三年間、ハルは知り合いの漫画家の元で漫画家修行をしていたが、どうにもストーリ構成がうまくいかず、苦戦していたところ陽光が東京に上京してきた。
その際、陽光の衝撃の才能を知り、陽光をサッカー少年から小説家の師匠へ引き摺り上げた。
プロ違いか。幼い頃思い描いた漫画は数年の時を経て、今、現実化する!それも、その漫画の主人公とヒロインとともにーーーー。
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