Fudangi のコンセプト(1)
泰は、友人たちからヤスと呼ばれていました。1986年1月17日、札幌で生まれ、仙台で育ち、神戸で青春を謳歌。2011年に就職のために上京します。翌2012年4月1日に白血病の中で最も悪性と言われる急性リンパ性白血病フィラディルフィア陽性型の発症が確認され、8年3ヶ月に及ぶ闘病の末、2020年7月19日に神戸で永眠しました。享年34歳でした。この闘病生活で泰が遺したのが Fudangi です。泰自身は Fudangi の完成を目前に亡くなりました。
泰の友人たちが Fudangi の命名者。HPの写真撮影や立ち上げでも全面的な協力をしてくれました。
Fudangi は34年という泰の短い生涯最後の「作品」で、そこには彼のさまざまな思いが詰まっています。このブログでは、この「作品」と発案者である泰について述べようと思います。最初は「Fudangiのコンセプト(1)」です。ここでは「無機質な病院生活に彩りを」という、彼のFudangiに託した思いに立ちいることにします。
大村泉・陽子
無機質な病院生活に彩りを
Fudangiの企画書の一節
泰が Fudangi に連なる入院服の準備に着手したのは2019年春のことでした。仙台から神戸への転居準備と重なっていました。転居は同年7月でした。泰はこの直後にひとつの企画書を書いていました。そこには「無機質な病院生活に彩りを」という言葉がありました。
病院の外来はさまざまですが、
「病棟は概して無機質な場合が多く、感染を予防しないといけない病棟には花や観賞用植物の持ち込みも禁止です。極端な話、僕自身は1年以上外気に触れることもできず窓を閉め切った季節を感じない病室で寝て過ごしました。窓の外の景色だけが時間が経過しているのを感じさせるような。だから、そういった無機質な病院生活に彩りを加えたい」。
泰は、この企画書を書いた直後から、3度のICU送致や気管挿管を含む通算8ヶ月余りの入院生活を送ることになりました。
泰はまた、
「病院が入院患者に提供する『病衣』は一般的には前開きひも閉じが主流でサイズはS,M,L,LLの4種類。男女で色分けしているところもありますが、これを着ていると入院患者であるのは一目でわかります。」
「患者は、入院中であっても、健常者の友人と繋がっていたいもの。入院服は患者が日常普段に身につけるルームウエア、タイプはシンプルなTシャツ型、ゆったりして、そして気持ちも明るくなれるようカラフルなのが良い。」
と言っていました。
泰が開発した入院服の名前は Fudangi です。命名は彼の友人達がしてくれたものです。きっかけは、泰の口から出たこうした言葉でした。
Fudangi はゆったり柔らかいシルエットが、男女や年齢を問わずどんな方にもなじみ、日常生活にとけこむデザインです
こうした泰の遺志を生かして Fudangi のデザインはゆったりしたドルマンスリーブのTシャツに原型を求めました。また無機質な病室であっても、着る人と周りの人たちの気持ちを明るくするボーダー/マスタード/オリーブ/ネイビーという4色のカラー展開にしました。患者さんには普段着感覚で色を選んでいただけます。
Fudangi の素材は肌触りがやさしい天竺コットン100%です
泰の闘病は2012年4月1日から2020年7月19日に及びました。この間、病気の再発があり、治療を進める中で発症した重度のGVHD(移植片対宿主病)から、呼吸器、消化器、循環器、顎関節、そして皮膚や粘膜、涙腺などにも大きな障害が生じました。このことから、泰は、
「直接肌に触れる入院服の素材は可能な限り肌に優しい素材にこだわりたい、長期入院だと床ずれなどで肌が弱くなる方が多い、これは多くの入院患者さんに共通する気持ちだと思う」
と話していました。
Fudangi の素材を100%天竺コットンに求めたのは、こうした経緯からです。
Fudangiは前がはだけることはありません
多くの病院で採用されている前開き・ひも閉じの「病衣」は、おしゃれ感を欠き、体位を少し変えるだけで前がはだけやすいです。
入院している患者さんは、治療のために肌着を着けないこともあり、少し体を動かすだけで前がはだけるのは気になるものです。前がはだけることを気にしながらの院内移動や見舞いの方との面会、リハビリに取り組むのはストレスがたまります。
Fudangi だと、患者さんは、前がはだけることを気にせず、身体を動かしてリハビリに励み、自宅でTシャツを着ている時のように病院内を移動し、お見舞いの方と会うことができます。
Fudangi は、①片側フルオープン、②プラスチックボタンによる開閉なので着替えが簡単
Fudangi の前がはだけないのは、①片側フルオープン、②プラスチックボタンによる開閉だからです。Fudangiの着替えは簡単です。
点滴がなく、腕や肩に支障がない方の着替え
あらかじめ開口部のプラスチックボタンを閉じて普通のTシャツを着るように頭から被って着用されれば良いわけです。
脱ぐ時はボタンを全開にし、逆の袖から腕を抜くだけです。生地が汗で肌に密着していても簡単に脱げます。
Fudangiの着替えのさい、腕や肩に支障があっても痛みを伴いません
前開き・ひも閉じの「病衣」だと、着衣で袖に腕を通す時、最初は問題がなくとも、2度目は腕を曲げるので痛みを伴うことが多いと言います。
Fudangi は片側フルオープンなので、着替えで袖に腕を通す際、腕を無理に曲げる必要がなく、腕や肩に支障がある方の場合も、痛みはありません。
腕に点滴中の方
点滴をしていない腕を開口部とは逆の袖に通してから、開口部を閉じます。順序としては肩上のボタンを先に2つ3つとめておき、頭から被り、その後で他のボタンを閉じると着やすいでしょう。
脱衣の時は逆になります。点滴をしている側の開口部分を全開し、もう一方の腕を抜き出すだけです。
Fudangi は、前後リバーシブルなので、点滴が右であっても、左であっても対応が可能です。
Fudangi の着替えで点滴の一時中断は不要です
Fudangi は片側フルオープンなので、着替えの際、点滴を一時的に停止する必要はありません。
点滴の一時停止に伴う待ち時間は患者にとってしばしばイライラが募るものです。片側フルオープンの Fudangi だと点滴の一時停止が不要で、症状が軽い患者さんなら一人で着替えることも可能です。付き添いの方がいるとさらに短時間でできます。終われば看護師さんに確認して頂くだけです。
泰は、入院中はいつも腕に点滴をしていました。入院生活は年齢が20代半ばから30代前半でしたから、それだけに
「点滴をしていても、一人で着替えができる入院服、入院生活で患者の自立を促す入院服、たとえ病室にいても、元気な時の自分を、普段の日常を感じることができる入院服が欲しい」
と言っていました。
こうした彼の思いが、Fudangi の基本型をTシャツ型で横開きにしました。
Fudangi は前開き・ひも閉じ「病衣」のメリットを継承しています
Fudangi は、片側の開口部のスナップボタンを外すだけで、医師や看護師が容易に患者の胸部や腹部を触診し、心電図などの機器を確認できます。
開閉はプラスチックボタンなので、レントゲンの際の更衣は不要です。
着替えが簡単なのは Fudangi が開口部を全開すると一枚の布の形になるからです。
Fudangiは一般の「病衣」のメリットを継承し、その問題を解消しています。
ポケット
Fudangi にはスマホが入るポケットが前後についています。
前後につけたのは前後リバーシブルだからです。
またこのポケットには、心電図の小型端末を入れることも可能です。
Fudangiの基本型をドルマンスリーブのTシャツに求めたわけ
Fudangi の基本型はドルマンスリーブのTシャツです。全体が少しゆったりしています。「病院では入院服は普段着。できる限りゆったりした方がストレスはたまらない」。こうした泰の考えがベースにあります。
点滴や心電図など、入院患者にはいろいろな機器や端末が装着されることが多いのですが、ゆったりしていると、このようなことにも対応できますし、ある程度身の回りのことができる患者さんなら単独でも着替えることを可能にします。
肩に拘縮症状がある患者さんや、肩の腱を手術された患者さんの感想では、こうした袖や肩の余裕がたいへん楽であったということでした。
Fudangi をお求め下さった方から、「私はTシャツが好き、しかし点滴をするので、病院から着替えにTシャツはダメといわれました。Fudangi に出会い病室でもTシャツを着ることができるようになりました」、というメールを頂いたことがあります。
いずれはプリントをしたFudangiも
現在 Fudangi のカラーリングは4色です。
泰が遺したFudangiの企画書には、
「前、あるいは後ろに嗜好品や食べ物などのプリントがあるのもいいかもしれない。長期入院患者の願いの一つとして、好きな食べ物をまた自由に食べたいということが圧倒的に多い。病棟の本棚を見ると食べ物の漫画や本、たまにファッション誌などが大部分を占めている」
とも記されていました。
いずれはこのようなプリントをした製品も出せる日が来ることを期待しています。
大村泉・陽子
(株)YAS
HP: https://fudangi.jp
連絡先:hello@fudangi.jp
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