見出し画像

10月22日~10月28日 きんようび+わんぱくしゅつじん

今日は花の金曜日、通称はなきん。今使っている人がどのくらいいるのか怪しいが、わんぱく三銃士はいつものようにいきつけの全品300円均一の居酒屋に集結し、ぐだぐだ生ぬるい夢の話を語り合っていた。

「そろそろオレらも売れてもいい頃だと思うけどな。今回の楽曲のリフ、かなりいけてたっしょ。」

そう語るのはリーダーであるボーカル担当のケンジ。

「そうなんだよな。きっかきさえつかめればバズると思うんだよ。最近、かなりビートもよくなってきてるのにな。」

追随するのは、編曲担当の後藤。

「うーん、ミームを引き起こすもうちょっと攻めたダンスにしたほうがよかったのかな。」

しかめっ面で、もも肉焼きをほおばるダンス担当のジュン。

彼らは、ワンマイク、ワンDJ、ワンパフォーマーのハイパーコングリマリットグループ「ナタデココジューシーズ」として活動している。只今、無所属の新進気鋭のアーティストである。現在、登録者数は78人。絶賛SNSで活躍中だ。とはいっても、みんな食べていくために他に仕事を持ち、ケンジはディスカウントショップの主任、後藤は中古車のディーラー、ジュンはベンチャー企業の営業として働いている。大学を卒業してもダラダラ夢を追いかけている、いうならば“夢追い大学の留年組”だ。未だに若い頃抱いた野望から卒業できないでいる。

「まぁ、でも次頑張ろう。あきらめず続けていたら夢は叶うよ。」

アラフォーの彼らが現実逃避するいつもの合い言葉である。そして、彼らはまた、武道館やドームなどの現実から何億光年もかけ離れた妄想の話を、ハイボールとお代わり自由のキャベツとともに語り始める。

「おいお前ら、それは違うんじゃねぇーか!」

突然、背後から怒号が飛ぶ。彼らは驚いて、その声がするほうへ目を向けると、なんとそこには最近メディアでひっぱりだこのあの有名人がいた。

「も、もしかして魚鼠(ウオねずみ)さんですか?」

彼は、50歳直前でキャラクターアニメ映画を全世界で大ヒットさせた、監督・脚本・製作をすべてをこなすマルチクリエーターである。彼の作品は、独特のキャラクターが縦横無尽にコミカルに暴れまわるハートフルシリアスサスペンスコメディが特徴だ。その唯一無二の感じがあらゆる場所でドはまりし、興行収入5000億を稼ぐ今や時の人だ。

「いいか、おっさんども。夢っていうのはな。ただ続けるだけ、ただあきらめないだけでは絶対叶わない。覚悟が必要なんだ。覚悟ってわかるか?今のけだるい空気のお前らにはそれが足りねぇ。なぜ、俺が50歳手前で成功したかわかるか?20歳のとき夢を抱き、そのときからずっと約30年間、覚悟を持って好奇心と子ども心を持ち続けていたからだ。絶対成功してやる、一生作品に人生を捧げるという覚悟を持って、挑んでいたからだ。重要だから最後にもう一度いうぞ。覚悟を持ってだ!わかったか?」

「はい。」

店中に響き渡る声で説教された3人衆は、声を揃えて頷いた。

「まぁ頑張れよ。応援してるぜ。」

そう言って立ち上がり、自分達の分まで会計を済ませてくれている魚さんの出で立ちを見て、彼らは覚悟とは何かを実感した。

上はバッドボーイズのTシャツに下はPIKOの短パン。そして、ポケットからはおそらく子どもチャレンジで手に入れたであろうチャレメイトの財布、さらに、靴は足が速くなることで子どもに大人気のアキレスプラズマ…

徹底した子ども心を忘れぬ姿勢に驚嘆と感動を覚えた彼らは、

「バイビー」

そう言って去っていく子ども部屋アラフィフの後ろ姿から目を離すことができなかった。

しばらくの沈黙が続いた後、彼らは店を出た。そして、結成の原点である大学に忍び込み、どうしようもならない衝動を発散した。コンビニで買ったうまい棒をかじりながら、一人は歌い、一人は音楽を聴き続け、一人は踊り狂い続けた。セコムの警報音を聞きながら。

いいなと思ったら応援しよう!