4月30日~5月6日 風強すぎ×タイトルホルダー
開始の合図を待つ両者。息を飲む観客。吹き暴れる風の音。
その日は通信ができないくらいのとても風が強い日だった。両者、一瞬の隙を逃すまいと集中しゾーンに入っている。
「ファーン」
開始のブザーが鳴らされた。しかし、無慈悲に吹き荒れる風はスカートを容赦なくまくり上げ、常に下着が見えている状態が続いた。完全に隠された状態からめくらないとフライングとなりそこで負けが決まってしまう。
「フリップ!」
チャンピオンの雄叫びが会場の静けさを破る。彼は一瞬のタイミングを見逃さなかった。審判のVARのチェックが終わり、チャンピオンの手が真っ直ぐ天に向けて掲げられた。
「ウィナー、チャンピオン」
「ワー!!!!!」
これで4冠、史上最高のタイトルホルダーがここに誕生した。
「みんな止まれ!警察だ!」
会場の歓喜は、一瞬で悲鳴に変わった。
時は変わり2023年の夏。一人のバスケットボール選手がニューヨークの会場を沸かせていた。彼は、今まさに日本人初、NBAで得点王の座に輝こうとしている。しなやかな手首のタッチで放たれたレイアップシュートは、ゴールリングを見事に通り抜けた。
「ワー!!!!!」
彼の放つレイアップシュートは世界一と称賛されていた。それも当然だ。彼はあの伝説のラストスカートめくりキング、ライトニング林の息子なのだから。
警察の介入により、昭和から続いていた伝統の競技が終わりを告げた。コンプライアンスが厳しい令和世代の読者には訳のわからない話に聞こえるかもしれない。テレビで公然とわいせつな画像が流れていた20世紀は、強制わいせつ罪にあたるスカートめくりが黙認されていたのだ。しかし、2000年代に入り政府の方針はがらっと変わった。そのみせしめとしてスカートめくりが禁止された。何とか警察の手から逃げ落ちた林は、かつてのサポーターのつてでまっとうな仕事につき、ひっそりと生活を送っていた。過去を胸に封印し表の道を歩み続けた林は、幸せな家庭も築いていた。
「この喜びを、まず誰に伝えたいですか?」
美人のインタビュアーが尋ねた。
「そうですね。ここまで育ててくれた家族に感謝したいです。おい、オヤジ!会場に来てるんだろ?」
息子の一言に再び、会場が湧いた。
突然、息子から呼び出された林は驚きとともに歓声を一心に集めていたかつての栄光の日々が脳裏に甦った。しかし、その光景を懸命に振り払い、コートサイドに足をすすめる。しかし、そこで思いもよらないハプニングが起こった。
体育館のはずなのに、一瞬会場に強烈な風が吹き荒れた。
「だめだ、抑えきれない」
コンマ0.0001秒の出来事だったかもしれない。強烈な風により、最後の大会記憶が完全に脳に再現され細胞が湧き踊った。そして、体が勝手に動いてしまった。止められなかった。インタビュアーのスカートに延ばされた神速の手は自分では制御不可能だった。
「ガッ」
かつて無敵だったゴッドハンドは、息子の大きな手によって止められた。
「どうだい、ワールドクラスの手ぐせの速さは」
そのときの息子の穏やかな目はすべてを物語っていた。
“全部知っていたのか”
感動と恥ずかしさに頬を赤らめながら、林はインタビュアーの質問に答えた。
「こいつは、今俺を越えた。真の世界チャンピオンだ!」
「ワー!!」
会場に歓喜の嵐が吹き荒れた。