6月25日~7月1日 ゲリラ豪雨+シャッフルメドレー
今日の主役は、突然のゲリラ豪雨にひどく興奮していた。
「今こそオレらの伝説を創るときじゃねぇの?」
どしゃ降りの中、ステージに立とうとする彼をスタッフが止めた。
「何で止めんだよ。雨っていうのはなぁ、フェスでは伝説を起こすチャンスなんだ!フジロックや京都大作戦、遡ればウッドストックだってそう。いつだって後世に語り継がれるのはこういう自然とのギグなんだ、わかるか?」「いや、でも今は安全管理がうるさい時代ですし。こんな雨の中、続行して何かあったらマスコミに総叩きくらいますよ。だから落ち着いてください。」
「お前にはあの大歓声が聞こえないのか?あれを無視するくらいならこの人生果てても構わない。小物が!調子に乗るなよ。お前なんかいつでも他のチームとトレードできるんだからな。とにかくオレは出る!」
カバおくんの手を振り切り、アンパンマンはステージの上に立った。
「今日は、伝説のギグにようこそ!」
鳴りやまない歓声。
「それでは、聞いてください。アンパンマンシャッフルメドレー。」
会場全体に響き渡る声量で彼が叫んだとき、歓声が悲鳴に変わった。
“ゴトリッ”
静かに雨で解けゆく彼の頭が、あんこをはみ出させながら転げ落ちた。
「だから言ったのに。」
その後、頭の焼き上がり時間を待ってフェスは再開された。
「あぁアンパンマン、やさしい君は。いけ!みんなの夢守るため」
キッズの夢を壊したアンパンマンの言葉は、彼らの胸には届かなかった。
そこから、アンパンマンの人気は凋落の一途を辿る。彼の周りのスタッフはドンドン離れて、遂には誰も彼に寄り付かなくなった。
「愛と勇気だけが友達さ。」
誰もいない公園で、夜空を見上げながらポツリと彼はつぶやいた。
「愛と勇気とカバおが友達さ。」
振り向けば、ボストンバック一つを片手にカバおくんが立っていた。
「ごめん、本当にごめん。」
「大丈夫、ここから一緒にまた子どもの夢を守っていこう。」
そこから、二人の全国パン屋巡業の旅が始まる。彼らはショッピングモールから商店街までありとあらゆる土地を巡った。そしてあるとき、その姿が世界一のユーチューバーの目に留まり世界で配信されることになるのだが、それはまた別のお話。
「そうだ、うれしいんだ。生きるよろこび。たとえ胸の傷が痛んでも」
人生、何があるかわからない。だから、毎日を大切に生きよう。