私の古希日記〜なんだ、俺の人生は〜

 司馬遼太郎さんは、平成八年、一九九六年二月十日に吐血し十二日に亡くなった。前日の九日、「文藝春秋」の巻頭随筆「この国のかたち」の百二十一回分の原稿を書き終えていた。病床に伏せることなく現役で逝った。享年七十二。

 私は二十九歳のとき大病をした。そのときから「死」を意識するようになった。三十一でシューベルト、三十三で坂本龍馬、三十五でモーツァルト、四十二でR・ケネディ、五十六でベートーヴェンをそれぞれ意識し、「あぁ、ここまで生きられた」と思った。

 同時にそういう偉人たちが生涯で成し遂げたことと己のそれを比べ「なんだ、俺の人生は」と、中身のない人生を悔やんだ。真面目に人生を考えたのはそこまで。後は惰性。

 二年で司馬さんの年齢に達する。「国のかたち」を考える頭はない。せめて「自分のかたち」ぐらいは書き残しておきたいと思っている。          《一月十六日》

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