女の小言〜私の古希日記〜

 女の寝言じゃない女の小言。外で会合があるというと、家人は決まってこう言う。「呑み過ぎないでね」と。水ではない、お茶でもない、酒のことだ。

 親父とお袋の喧嘩はお袋の「酔っ払うほど呑まないように」という一言が原因だったことが多い。親父の反論はお決まりのもの。「わかっちょる。いちいちうるさいんだよ」と。

 結婚する前、恋人同士のころは相手の言葉は天使の響きのようだった。「呑み過ぎないでね」と言われると、「なんてこの女性はやさしいんだ」と胸が熱くなったものだ。が、綾小路きみまろではないが、あれから四十年! あれだけ愛した女《ひと》の声はまるで悪魔のささやきどころか叫びだ。

 振り返って想うのだ。いったいいつから男の心の受信版は変質したのだろうか、と。もっとも女も同じか。そう思うと少しだけ心が軽くなる。

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