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【創作SF】宇宙葬


 恋人が煙になる前に、男は町の火葬場を後にした。木製の棺に擦り寄って泣いた夜に決めていたことだった。その日の夕方に訝しげな表情をした、葬儀屋の手によってかつて恋人だったソレは、乳白色の陶器の壺として帰ってきた。
 男は受け取るとすぐに庭先に停めていた、さっき買ったばかりの宇宙船に乗り込んだ。片脇には受け取った陶器の壺が大事に抱えられていた。
 そして全自動の宇宙船は苦もなく、遥か彼方の名も知らぬ星々の間に到着した。男は船外服に着替えハッチを開けて宇宙への扉を開いた。決して見たことのない筈の景色は、何故か懐かしいような気がして、不思議と温かく感じられた。
 しばらくした後、男はソレをそっと星々の間に送り出した。そうしてその姿が目視で捉えられているうちに、自分自身もそっと身を投げ出した。
 遥かな輝きの中を小さな浮遊物が帰着点を目指す。続けて手を伸ばした宇宙飛行士が続いていく。その軌道はぴったり同じで、そして決して追いつくことはない。
 男は安堵する。これで自分は永遠に恋人に向かっていくことが出来ると。いつか、遠いいつか、ふたりの塊が何処かの星に辿り着いて、そこがきっと再会の場所となるだろうと。そうして男は満足して静かに微笑んだ。

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