SF創作講座2023「最終課題:第7回ゲンロンSF新人賞【実作】」感想(2)
本日・2024年5月1日。
SF創作講座の同期・朱谷さんが自作を除く、最終実作28本全ての感想をnoteに発表され、講座の主任講師・大森望先生が旧ツイッターで「最終実作の最終候補選出もいよいよ大詰め。まもなく候補が発表されます~」とツイートされていました。
4月上旬に最終実作3本の感想をアップしたっきり、沈黙を続けていた私は顔面蒼白ですよ!
勤勉な朱谷さんに対し、怠惰極まりない私……。
そのうえ、「最終候補作の5本」とやらが発表されたら、私の「最終実作の感想を書こう!」というモチベーションがダダ下がりするのは、ほぼ確実。
というわけで、現時点で私が読了している、実作の感想9本を仕上げ、急遽、公開する次第です。最初に公開した感想3本と合わせて、これで12本分。
果たして、残り16本の感想を書けるか否かは、神のみぞ知るですが、もしこのまま何も書けずにフェードアウトしても、その時は「あいつ、やっぱりか……」と失笑して下さい。よろしくお願いします。
感想を書く際のスタンスについては、前回の感想の冒頭をご参照ください。
なお、取り上げた作品は、SF創作講座のサイトでの掲載順に準じています。
4) 聖武天皇素数秘史/藤 琉
多くの歴史資料を読み込まれた上で執筆された労作ですよね。
藤 琉さんが本作に注がれた情熱の量と真摯な姿勢には、素直に敬意を表します。
個性豊かな登場人物たちは過不足なく描かれているし、文章も端麗で、読みにくい箇所も特になかったです。
読んでいて「あれ?」と疑問を感じたのは、「夜は聖武と戦い、昼は政務という生活を、真備は何年も続けたけど、いつ寝てるの? 身体壊さないの? 唐に操られていると、睡眠は必要ないの?」という点ぐらいですかね。
それで、肝心のストーリーについてですが、話が途中、足踏みするというか、停滞するというか。メインの素数合戦がいささか単調に感じられました。
アクションや生成される式神などで工夫されてはいるんですが、基本的に「大きな素数を算出して攻撃→相手がさらに大きな素数を算出して反撃→更に更に大きな素数を算出して再攻撃」の繰り返しで、途中でちょっと飽きてくるというか。
終盤で「弥勒」「薬師如来」が登場するのは、予想外の超展開で面白いんですが、そこまでがちょっと長いかな、と。とはいえ素数は、順々に、数を大きくしなければいけないので難しい処ではありますね。
あと「聖武天皇の時代にこんなことがありました。では、そのことが現代にどう影響しているの?」と、私のような凡俗はついつい考えてしてしまいます。果たして、本作での「聖武天皇の時代」は、「我々の現代」に直結しているのか、いないのか?
聖武天皇の述懐で、物語は閉じられ、その後の歴史への言及は一切無いことから、あくまで『秘史』であり、聖武天皇の治世下での様々な発見は後世に一切継承されることなく、廃れ、「我々の現代」には何の影響も残さなかったという解釈でいいんですかね?
「聖武天皇の時代にここまで算術が進んだのなら、「我々の歴史」より早く、様々なブレイクスルーが起きていて(例えば明治時代には電算機が完成してしまうとか)、同じ2024年でも、我々より高度な数学体系に裏打ちされた、『別の世界線の現代日本』が成立してもおかしくないのでは?」とか、つい考えてしまうのですが……。
とまぁ、以上、色々とつまらないケチをつけましたが、本作は今回のゲンロンSF新人賞の最終候補には残るんじゃないかと個人的には考えています。
5)岡田麻沙(おかだあさ)
/クロノクラワーの谷
最初に謝っておきます。ごめんなさい。私の読解力では、本作には歯が立ちませんでした。岡田さんが「本作を通して伝えたかったこと」や「物語の全体像」を、読後の私が完全に把握できたとは、とても言えない状態です。
以下は、その程度の読解力しか持ち合わせていない人間の感想なのをご承知の上で、お読み頂ければと。
個人的な『小説観』の話になりますが、私個人は『小説』である以上は、「この世界は実はこういう構造です。こういう歴史を辿って、こうなったのです」という情報の開示は、登場人物(本作なら「わたし』)の目や経験を通して行なって欲しいと考えています。
そんな人間からすると、「実はこういう世界設定だったのです」「こういう歴史があったのです」という種明かしが、「ダーシャの話」という体裁は取っているものの、実質は地の文によって数ページに渡り、延々と記述されるという本作の構成は、私には馴染めなかったです。
物語を読む快感に乏しく、まるでガチガチに硬質な論文とか、歴史書を読まされているかのようで……。率直に書くと、ワクワクしなかったんですよね。
「物語世界の成り立ち」とか「物語世界の歴史」の全ては当然、作者の頭の中にはあるべきです。でも一方で「物語の中でそれらを全て開示する必要はない」と私は考えています。
「設定と歴史を全て開示することに力を注ぐ」よりも、「エンタメとしての物語の膨らませ方、転がせ方」の方をこそ優先して頂きたかったな~と。
本作の壮大な世界観、歴史に接した上で、そう思いました。
岡田さんは筆力がある方だと私は認識しています。
それだけに『世界設定の説明が過剰で、物語が薄め』の本作は、あまりにも勿体なく思われました。
繰り返しになりますが、作品中で世界設定や歴史を記述するにしても、視点人物である「わたし」が把握できる範囲に留めるとか、「わたし」とサハナの関係性を通して描くとか、加減をして頂きたかったです。
6)瀬古悠太/テセウスの翼
正体も目的も不明の異質な敵ファリスと戦う為に、人類が組織した特殊戦闘機部隊という設定は王道で燃えるモノがありました。「なぜ、そのような特殊な戦闘機が作られたのか?」という理屈が理詰めなので、納得感は高かったです。
「人類の特殊戦闘機部隊に対して、ファリスがどんな武器を使うのか?」の情報はもう少し早めに欲しかったなとは思いましたが。
アリス、ブリジット、カイト、三人のパイロットの個性の描き分けも、若干ベタですが(「ベタベタのラブコメ実作を書いたお前に言われたくねぇーわ!」とは思いますがwww)よく書けていたと思います。
一度、どん底に落ちたキャラが復活に至るまでのドラマって、上手くいけばお話が大いに盛り上がるんですが、その過程の描写って結構、難しいんですよね。本作は、後半、愛機に搭乗できなくなったカイトが復活に至るドラマについては、ロジックの納得感がちょっと薄いかな~と思いました。
ただ私は『エヴァンゲリオン』の旧劇場版での「心神喪失状態になっていたアスカの復活劇」にも納得がいかなかったような人間なので、話半分に聞いておいて下さい(苦笑)
ラストで、ファリス拠点に続く空間トンネルが「突然、開いた」という展開を、唐突と考える向きもいるでしょう。しかしファリスは人類とは異なるロジックを持つ存在であり、彼らの侵略(?)目的すらも不明であることは、事前に示されているので、私は気にならなかったです。
7)やらずの/薄氷
本作に登場する、人機一体の格闘技『機甲拳闘(ヒュプリス)』は、身体に外部装甲を装着してのボクシング競技ということで、私はテレビアニメ『メガロボクス』のビジュアル・イメージを思い浮かべながら読みました。
『機甲拳闘』と出会って以降、心身共に《変容》していく歩(アユミ)の、ヒリつくような感覚が、冷徹な筆致で綿密に書き込まれていて、感心しました。
元いじめられっ子としては、《変容》した歩が、学校のいじめっ子どもに如何なる制裁を加えたのかの言及が一切ないのは、若干気になりました。
とはいえ本作は規定字数ギリギリだし、そこに触れる余裕はないか。本筋には関係ないし、行間から、いじめっ子どもがどうなったのか、察せられないこともないし……。
迫力の拳闘シーン、流れるようなストーリーテリングと、亡父に《憑かれ》て以降、いささか自意識過剰とすら思える歩の語り口など、素晴らしかったです。
私はハッピーエンド至上主義者なので、父の亡霊からようやく解放された歩に訪れる、この結末はあまりに残酷で、救いがなさ過ぎると思いますが、これも「ありといえばありの結末」ですよね~。
「薄氷」というタイトルは絶妙で、含蓄があって良かったです。
本作は今回のゲンロンSF新人賞の最終候補には残るのでは? と個人的には考えています。
8)夢想 真/隣接世界
全6100字ということで、ストーリー的にはかなり物足りなさを感じましたし、物語のロジック的にも「あれ?」と首をひねる部分がちらほら。
「ホラーサスペンスなので、論理的整合性は重視していない」と言われれば、それまでですが。
言い回しがおかしい部分も散見されました。
例えば「写真なんていくらでも『偽装』できる」は、フォトショなどのソフトや写真加工アプリが流布している現代ですから、「加工できる」「修正できる」「でっち上げられる」などが適切じゃないでしょうか?
それから物語とは別の指摘となりますが、改行や読点を適宜、挿入して頂きたかったです。
私ももう老眼ですし(苦笑)、講師陣も目に優しいレイアウトを求めていると思います。
改行も読点もほとんどないまま、文字がみっしり詰まっている本作の字面を見るだけで、読む意欲が失せてしまいます。読者を意識し、パッと見で読みやすい字面に形を整えるのも、創作者の務めだと私は考えます。
9)真崎麻矢/エゴイスト
「二次創作」と、ご自分で揶揄されていますが、構想自体は悪くないと思います。私も『銀魂』、好きですしね!(苦笑)
ただ本作は、本筋に関係のないことについて、あまりに饒舌に語り過ぎているせいで、全体的に冗長になっていますし、ストーリーラインもぼやけてしまっています。
「このシーン要る?」「この説明要る?」「このキャラクター要る?」というのが多すぎます。
その一方でストーリー上、もっと書き込むべき箇所や世界設定、歴史設定にまつわる説明部分が割とおざなりなんですよね。
最後の最後で駆け足で、超時空種族にまつわる説明を一気にダッーとされても、読者としては納得感が薄いですし、小説としての情緒や潤いにも欠けています。
一言でいうと「小説としてのバランスが取れていない」かと。
とはいえ、「真っ赤なペンキ缶に頭を突っ込んだ友人の死体」というインパクトのある描写や、芥太たちの青春エピソードに漂う、何とも言えない空気感には感心させられたのも事実。「書くべきこと、書かなくてもいいこと」の見極めをきっちり意識して、行えば、もっとリーダビリティの高い作品になると思います(何様だ、お前!)
10)広海 智/宇宙船〈姥捨山行き〉ハイジャック
主人公の元・刑事が認知症を患っており、時折、状況が分からなくなるという設定が、物語のサスペンス度を上げているのは、素直に上手いなと思いました。主人公の認知症設定は、「老人達ばかりが搭乗している宇宙船」という舞台設定の説明にも上手く絡んでいますし。
その一方で、肝心のハイジャック事件の顛末については、解決までに時間こそかかるものの、割と「主人公チームのワンサイド・ゲーム」として事態が進行するので、ストーリー的な盛り上がりとか、メリハリには欠けていて、かなり物足りなかったです。
エンタメとしては、もっと主人公側が絶体絶命の窮地に追い込まれてハラハラするような展開をこそ読んでみたかったですね。
「惑星〈姥捨山〉は、人類発祥の惑星〈大地〉かもしれない」という最後の方に出て来る大ネタには唐突感が否めません。これをオチに持ってくるなら、何らかの前振りは欲しかったです。
あと、地球の存在すらあやふやになっている遠い未来の宇宙の話なのに、キャラクターの容姿の説明が「東アジア系」とか「南アジア系」となっているのは奇妙というか、かなり違和感がありました。そもそも「東アジア系」と「南アジア系」の人種の差違って、現代に生きる私にだって分かるか、どうか(苦笑) ここは別の形容にして頂きたかったです。「細部に神は宿る」だと思いますので……。
11)蚊口糸瀬/溶けたところで
人と溶け合うことが日常茶飯事になった世界という「身体性」の話なのに、語り手である主人公の性別がなかなか明かされないので、モヤモヤ、イライラしつつ、読み進めました。「磯部ななみ」というフルネームが明かされ、女性と確定するのが、物語の中盤というのはちょっと遅いのではないでしょうか?
性別を曖昧にするのが、蚊口さんのそもそもの狙いというので無い限りは、主人公の情報(名前、性別、年齢)はさっさと提示した方が、読者に親切ではないでしょうか?
ななみの年齢についてはとうとう不明のままなのですが、「最近どんどん目立ってきたシミ~」という記述があるので、中年という理解で良いのでしょうか?
人体が「溶ける」という描写にはオリジナリティがあり、文章表現と場面場面のインパクトに関しては、私の琴線に触れる箇所も散見されたんですが、「では物語として面白いか?」というと、かなり微妙でした。
語り口はお上手なので、割とすらすら読めますけど、「だから何なの?」という首をひねってしまうというか。純文学ならともかく、SF創作講座の課題ならば、やはり「人が溶ける」という現象が発生することで、「世界がどう変容したのか?」については、チラッとでも良いので、言及して欲しかったです。
「これからストーリーが本格的に転がりそう!」と思える処で、唐突に終わってしまうのも残念でした。
12)ゆきたに/へびむこいり
ストーリーとか、世界観がかなりユルイとは思いますが、民話ベースのユーモアを交えた艶笑譚的と解釈すれば、ありといえばありな話なんでしょうね。
私はきっちりした話が好みなので、私の嗜好からは外れる作品ですね(すみません)
ツッコもうと思えば「父親が同じ赤ん坊が、一度に400人も狭い島に現れたら、将来の結婚問題……近親での婚姻は避けねばならないので、かなり大変じゃないか?(島外の養護施設への移送を考えたが、却下されたという記述はありますが)」とか、「(マスコミが取材に来たという記述はありますが)赤ん坊のDNAがどうなっているのか、政府機関が調べに来たりしないの?」とか、「人口減に悩む某国政府が、赤ん坊の奪取や蛇の誘拐を狙ったりして」とか、ついつい現実に寄せた後日談を考えてしまうのですが、本作は民話と一続きの世界のお話ですからねぇ。シビアなツッコミをしてもそぐわないというか(苦笑)
それでも、蛇に妊娠させられたミカナは何歳なのか? 中学生か? 高校生か? ぐらいかの情報は最低限、明記して欲しかったですね。
終盤、「どういう意味なのか、(男に)訊いてみようよ」という、妊娠させられた女の子たちのやりとりがあるのに、肝心の男の姿をした蛇はどこにいるのか? それともいつの間にか、姿を消したのか、一切、描写がなかったのは引っかかりました。
南の島のおおらかな風土と「なんくるないさー」的な気質の島民達だからこそ、許されるお話ではありますよね(偏見かもしれませんが、これが北の方の話なら「娘を傷物にした蛇を殺せ!」という殺伐とした話になってもおかしくないかと)
SF創作講座の懐ろの深さと広さを示す作品にはなっているかと思います。
残り16本! 感想を書ければ、いいなー。書けるかなー。