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The Strokesとミヤさんの思い出
The Strokesというアメリカのバンドが大好きだった。
幾重にも重なって流れ続ける音が心地いい。
そこに、ジュリアンカサブランカスのスモーキーな嗄れた声が乗ってくる。
一つの曲の中でも、曲と曲の繋がりでも、次の展開がどうなっていくのかとワクワクする。
いつの間にか、音楽に乗って身体が揺れ動いている。
当時の勝手な自分の感覚では、
「オレたちがオレたちのための最高に気持ちいい音楽をやる」
という感じを、彼らから感じていた。
ガレージロックというジャンルを、そのとき初めて知った。
衝撃だった。
他のバンドの音楽と何かが違う。
時に涙が出てくるくらい格好良く、開放感を体験した。
そんな音楽を教えてくれたのは、服屋の「ミヤさん(ミヤタさん)」だった。
大学の3年の頃、必要な単位はすでに取得しており、時間が空くようになっていた。
そんな中、ただならぬオーラを放っていた大学の友人が教えてくれた、小さな服屋のことをふと思い出し、通うようになる。
友人の名前を出すと、店員のミヤさんは、すぐに親しみをもって接して下さるようになった。優しい方だった。
いつも丁寧に、ブランドの歴史やその服の詳細を教えてくれた。
(エンジニアードガーメンツやニードルスといったブランドを知ったのもこの店だ。)
パーマがかかった髪にキャスケットというスタイルが似合う方だった。
いつでも快く自由に、服を試着させて下さった。
派遣の引越しバイトをしてお金を貯めては、その店で服を買うというということを繰り返していた。
充足感を感じられる楽しい時期だった。
その服屋の店内ではいつもロックミュージックが流れていた。
ある時、服の試着をしているときに、音楽に乗って自然と身体が動き出し、これまでに感じたことのない高揚感を感じる瞬間があった。
この音楽は何かとミヤさんに尋ね、それがストロークスだった。
ミヤさんは、『Is This It』と『Room On Fire』という2枚のアルバムも貸して下さった。
当時、それを家でCD-ROMに焼いたことを覚えている。
そんな思い出だ。
大学4年になってからだと思うが、段々とその店に通わなくなっていく。
しばらくたってから、その大宮にある店を訪ねようとした時には、店は無くなっていた。
今では、ストロークスと自分の距離も空いてきてしまっている。
しかし、その時の体験は、確実に自分の土台を構成してくれた。
大切な思い出の記憶だ。
当時はちゃんとお別れの挨拶をすることができなかったので。
「ミヤさん、ありがとうございました」