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修士論文


修士論文を書くのに行き詰まっていた時期がある。
2009年頃だったと思う。


大学院の院生室でPCの前に座り、何時間も書いたり消したりを繰り返すような日々が何週間も続いていた。
実家から2時間近くかけて大学に着き、何も書けないで帰るという終わりの見えない不毛さに、焦りや絶望感を感じていた。

どんどん鬱々としてくる。
何も書ける気がしない...。




そんな中で、院生室のPCで論文を書きながら、いつの間にか気分転換にYouTubeでミュージックビデオ(MV)を観るようになり、それが習慣化してきた。

他のアーティストのMVを観ていた流れで、
椎名林檎の『ここでキスして。』を観たときだった。
心に何かが刺さるような感じがあった。


以前からこの曲は知っていたが、ここまで心に響くことはなかった。
椎名林檎のことも、特段好きというわけではなかった。

命から湧き上がってくる衝動や力強さを、今という瞬間にストレートに思いっきりぶつけているような感じがして、それが響いたのかも知れない。
自分に欠けていたものでもあった。

何度も観てしまう。
自分に何が起こっているんだろうか?


他の椎名林檎のMVも観てみるが、あまり心に響くものはなかった。
だが、そこから椎名林檎がボーカルを務める東京事変のMVやライブ映像もいくつも観るようになっていく。
特にライブ映像を観ていると、またもや、心に何かが生じる。


『ここで〜』で感じた、命の衝動のような鋭さが、
東京事変というフィルターを通して表面に現れたときに、多彩な豊かさ・面白さに変わっているという感覚だった。
或いは、その衝動をメンバーの力量によって受け止められ、昇華されているといった感じもした。

素人が見ていてもわかるメンバーの演奏技術に加えて、それぞれのメンバーの個性も音に乗っている感じがする。
それぞれに命を燃やしている感じがある。


命の力強さを、遊んでいる。


こんな感覚を生じさせてくれたメンバーたちに憧れを抱いた。
特に、浮雲(長岡亮介)という人の在り方に魅了された。
(ちなみに、東京事変を経た後の林檎さんも大好きです。)




結局、この年に修士論文を書き上げることはできなかった。

ただこの時期に、これを体験しておく必要があったのだろう。
思い返せば、この体験が自分に深い影響を与えてくれたことに思い当たる。


意識していなかったが、そこから十数年間、私も少しでも当時の彼らのように在りたいと努めてきた感じがする。

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