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■AUTOMAGICイズム■                            第八章・独創的な発想を保護するための特許とは

序章:ショップやユーザーが自分好みに自由な発想で実践するのがカスタムであり、そこに権利関係を発生させることに違和感を覚える読者は少なくないだろう。しかし、誰かが思いついた発想が好き勝手に利用されれば、
元ネタを考える人や企業ほど不利益を困じることになる。
どんな業界でも発案者の権利を保護するための特許が有効である。

ニンジャのダイヤモンドフレームをスイングアームピボット上で切断して、この部分を延長するコマを入 れれば(暫定的にカラーを挿入)、エンジンは駆動関係のディメンションを変更せずキャスター角のみ を変更できる。これはフレーム製法に関する特許を取得しているオートマジックだからできる作業内容 である。「この発案から共同で何か作りたいという業者様大歓迎です」と荒木氏。


 カスタムと特許というと、いかにも自分の権利を守るために必死になっているような印象を与えるかも知れないが、そうもしないと横行するパクリを押さえきれない現実がある。そもそもモラルや道義、クリエイターとしての意地があれば、模倣などしないだろうが、そうはいかないから、アイデアや具体的な手法を保護する必要がある。
 僕がそう考えるようになったのは、この連載コラムの第二回目のテーマで取り上げたオフセットスプロケットがきっかけだった。自分たちが作り出したカスタムパーツが自らの権利を真剣に考えるきっかけになるとは皮肉な話だ。
 Zやカタナといった絶版車に太いタイヤを装着する際、チェーンラインを変更せず純正より太いタイヤをセットすれば、タイヤセンターは車体中心より右側にずれてしまう。そのためタイヤを車体のセンターを同一線上に揃えるには、ドライブスプロケットを外側にずらさなくてはならない。そのために1990年、オートマジックで開発、販売したのが規格外オフセットスプロケットである。
 開発段階では大手スプロケットメーカーには話も聞いてもらえず、電話帳
を集めてやっとのことで製造メーカーを探し出したにもかかわらず、それから2~3年すると、最初は全く興味を示さなかったスプロケットメーカーや用品メーカーから続々と同様の製品が発売されるようになってしまった。限られた予算しかない我々ショップと大メーカーが同じ商品を作れば、価格面や販売面に我々に勝ち目はないのは明らかだ。オートマジックのオフセットスプロケットは、市場調査に使われたようなものだった。
 当時は自社開発商品に関する権利や特許といった知識に疎く、自分たちが考えたパーツが受け入れられ、カスタムの必需品になるのが嬉しかった。僕はカスタム業界全体で共存共栄できた方がいいと考えているが、こんな物真似を容認できるほどお人好しではない。そこで模倣品メーカーに連絡してみると「オートマジックさんは特許権を取得されていなかったので……」と、自分たちのやり方に問題はないという回答が返ってきた。
 この点を弁理士に確認すると、確かに「雑誌広告のような公の場に一度発表してしたものについては、後から独占的な権利を主張することはできない」ということが分かった。つまり、発売から2年も経過した規格外オフセットスプロケットを「僕の発明物だから許さない」と主張しても、何の効力もないのだ。オートマジック開業から僅かの頃にこうした苦い経験というか、教訓を得たことで、その後は「カスタムと権利」についても正面から
取り組むようになったのだ。

「これまでのDFCニンジャカスタムでは、フレー ム下半分をGPZ1100などから移植して
ダブル クレードル化してきました。しかしDFCなら、ダイ ヤモンドフレームの構造を生かしながらキャスター 角を自由に変えられます」と荒木代表。フレーム を一度切り離して好みに合わせて再設定してか ら再溶接するDFCは、同一車両のフレームを 切断して接合することも含めて
特許を取得して いるのだ。
ダイヤモンドフレームニンジャで他のショップにないカスタム を追求するオートマジックでは、スイングアームピボットに注 目。どれだけ凄いスペシャルスイングアームでもピボットシャ フトは純正のφ16mmのままであることがほとんどで、太い タイヤや剛性の高いスイングアームのしわ寄せが来るの は確実。そこで要となる極太φ25mmのシャフトが使える ようピボット内径を拡大、
周辺にも補強を加えていきます。 見た目だけでなく、機能面や剛性面でも合理性を追求する。
こだわりのユーザーによるオーダーで完成間近の、ホンダ AX-1+ホーネット250のDFCマシン。
異なる車両のフレー ムを溶接して新しい価値を作り出すのは、
オートマジックが 得意とするところだ。
単なるオフセットに加えて、純正チェーンが630だったZやカタナを 530にコンバートする
オフセット+コンバートスプロケットは、当時の絶 版空冷4気筒カスタムブームに乗って、
全国のカスタムショップに驚 くほど大量に売れた。その時に味わったコピー品の横行という
辛酸 を糧に、荒木氏はカスタムに権利という観点を加えることになる。


特許は開発者、発案者の権利と利益を保護するために存在する

 新たなブームが起きる時、そこには新しいアイデアや発想で、無の状態からそれを具体化する構造やメカニズムが存在し、機能しているはずだ。特許とは、それらを作り出した個人や企業に対して、一定期間、一定の条件の下に発明の保護を図る、特許権という独占的な権利を与えるものだ。独創的な発想や発明に対して、考え無しで追従する2番手、3番手を排除するためには、一番手に優位性が与えられるのは当然である。もしそうした権利がなく、誰がどんなアイデアをパクッても良いなら、誰も斬新な考えを発表しなくなり、どんな産業でも進化や発展はなくなるだろう。
 つまり特許を取得する目的のひとつは、そのアイデアを最初に考え出したのは自分たちであり、その発想が保護されるというお墨付きを得ることである。ちなみに自分たちが新しく画期的だと思っても、先願といって特許を先に出願した案件が優先されるのがルールである。
 また、特許を取得することによって、自らの特許権を侵害するパクリ商品の販売や使用を差し止めることができる。
それまでに販売された分は損害賠償を請求できるという、経済的なメリットも生ずる。特許は非常に強い権利なので、権利を取得しているのが個人やショップでも、たとえ大企業が相手であろうがこちらの特許が侵害されている場合は利益回収の権利があるのだ。
 他のショップとは違うやり方で新しいカスタムバイクや手法を発表してカスタム文化を広げたいと思う一方で、独自性をアピールすべきカスタムで模倣が横行する現実。それでも、お手本にする車両やショップに承諾を得るならまだしも、いかにも自分たちのオリジナルであるかのように振る舞うことで先駆者のやる気が減退したり、経済的な不利益が生じることは許されない。我々オートマジックはそう考えるからこそ、あえて公明正大なか
たちで権利を主張できる特許取得も視野に入れたカスタム製作を行うのだ。
 かつては「あそこのショップがそう来るなら、ウチはこうしてやろう」という時代があった。他店を出し抜くオリジナリティ溢れるショップばかりで競い合えれば特許申請など不要だが、そうはいかない現状が残念でもある。
 
特許取得技法であるDFCでフレームカスタムの幅が広がる

オートマジックではカスタムに関した特許や実用新案などの知的財産権をい
くつも取得している。DFCもその一つである。この発明の名称は「自動二輪車の車体フレームとその製造方法」というシンプルなもの。どんな特許であれ、タイトルは実に素っ気ないものなのだ。このタイトルの下に、発明の狙いや具体的な手法、主張できる権利範囲などを詳細に書き記す必要があるので、自分が主張する内容で得られるメリットを最大範囲で想定して申請しておく必要がある。
 DFC特許の根幹となるのは「フレームのヘッドパイプからバックボーンまでの部分とスイングアームピボットを切り離して、再び溶接する」点にある。目的が補修であれカスタムであれ、スチールフレーム+アルミフレームであれ、接合方法が溶接でもボルトオンでも接着でも、異なる2機種のフレームを使っても1台のフレームを上下に切って再び接合しても、Unit化したフレームの接合であっても(陸運局の指導によりフレーム番号のあるヘッドパイプ部分は絶対切り離してはいけない)すべてこの特許で保護されるように申請してある。
 GPZ750/900ニンジャ+GPZ1100も、カタナ+GSF750/1200も、目の前に現れればなるほどその手があったかと、理解や納得もできるだろう。いかにもオートマジック的な大胆な手法だと言われることも多いが「このアイデアいただき」と思うショップが出てくるかも知れない。実際には、フレームを切り離して接合するにはフレームジグ無しではできないのだが、そうした実作業的な点だけでなく、特許によって保護されているDFCを真似することは法律的にも許されない。
 ヘッドパイプを含むメインフレームとピボット部を切り離して接合するDFCは、どれも大がかりなカスタムになると想像している読者は多いだろう。これまで製作してきたカスタムマシンも、DFCの可能性をアピールできるよう、派手めな仕上げになっていたのは事実である。だが2台のフレームを融合させなくとも、DFCによってフレームディメンションの変更が容易にできる場合もある。前号ではGPZ900ニンジャのキャスター角を変更する目的で、GPZ1100用フレームと合体させたDFCを紹介した。これはGPZ1100~ZRX1200エンジンを使用する際に有効な手法だが、ニンジャオーナーの中には純正のダイヤモンドフレームとエンジンの組み合わせでこそニンジャだというこだわりを持つ人も多い。
 そこで思いついたのが、純正フレームをスイングアームピボット上で切断してパイプを継ぎ足すことでキャスター角を立てるDFCシャーシである。ニンジャのアンダーフレーム(実際にはフレームと呼べるほど長くない)はシリンダーヘッドにボルト止めされているので、このマウント部を支点にステアリングステムを前傾させるイメージだ。この時、スイングアームピボットは切り離されているから、エンジンやピボットが持ち上がることはなく、スイングアームの垂れ角がきつくなることもない。

 DFCを発案した当初、車台番号が刻印されたヘッドパイプ部分をメインフレームから切り離すことはできないことを陸運局で確認していたから、純正フレームでキャスターを立てるにはフレーム全体を前転するように回転させるしかないと考えられていた。だがスイングアームピボット上で切断するDFCならエンジンからスイングアーム、リアホイールまで駆動系の路面に対する絶対値を変更することなく、フレームディメンションを変更することができるのだ。
 この手法が定着すれば、午前中に自走でオートマジックに来て、外装だけ外した状態でフレームジグにセットして、スイングアームピボット上を切断してあらかじめ用意したコマを溶接。溶接部を部分塗装して外装を復元して夕方にはキャスター角が変わったニンジャに乗って帰ることができるようになるかも知れない。これはニンジャカスタムでもDFCの活用方法としても画期的な手法になるはずだ。すでにこうした手法でカスタムしているショップがあるのかもしれないが、ヘッドパイプを含むメインフレームとピボットを切断して溶接するのは既にオートマジックが特許を取得した手法であるから、同じ効果効能を謳ってユーザーからお金を取って仕事とすることはできないことは理解していただきたい。
 僕としては、特許によって独占的にDFCを囲い込むつもりは全くない。この手法を生かしてさらに面白いカスタムを実現していこうという意欲的な話があれば大歓迎だ。今回は堅苦しい話題になったが、カスタムはクリエイティブな世界の自由競争なので、コピーが横行する不正競争には歯止めをかけたい。そしてショップにはそれぞれ自分たちの発想や技術力で独自性を発揮できるようなカスタムマシンを製作して欲しいし、我々自身も特許取得の有無に関わらず、常に新しい提案をしていきたいと考えている。

DFCとともにオートマジックが特許と登録商標を取得しているのが
【インナーバッフル】である。
これはテールパイプとサイレンサーの間に装着する付加物はすべて特許申 請の範疇に含まれる。
バッフルによって消音、トルク特性の変更など複数の 効果が期待でき、
マフラーの外観を変えることなくチューニングが可能になる のが特徴だ。
発明の名称は「排気構造」と、DFC 同様シンプルだ。



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