■AUTOMAGICイズム■ 第五章・グレーを「シロ」にする改造公認
序章:カスタムバイクショップがユーザーのためにカスタムマシンを製作する際は、安全と安心を担保する「公認車検」を取得することが重要だ。カスタムがグレーゾーンな趣味として認識されていた頃から、オートマジックでは正面から公認車検に取り組んできた。現在、誰もがカスタムを楽しめるのは、先人の取り組みのたまものでもある。。。
格好良さや速さなど評価軸はさまざまだが、他人とは違う個性を求めるのが
バイクのカスタムである。今やパーツ量販店でも気軽にカスタムパーツを購入できるが、30年ほどさかのぼれば純正以外すべてが不法改造という時代だった。決して暴走族風でなくとも、カタナ750の大アップハンドルを
1100用の純正ハンドルに交換するだけでキップを切られる時代。ラムのタイトルでは「グレー」としたが、たとえ性能向上したとしてもカスタムはグレーゾーンどころか全てがクロだった。
バイクブームを契機として、改造好きすべてが暴走族風ではなく、カスタムやチューニングという趣味的要素も意識されるようになってきたが、相変わらずカスタムはどこか後ろ暗く、やはりグレー感が否めなかった。
そこにビジネスチャンスがあるとは誰も着眼しなかっただろうし、
するわけがない。
しかし僕はその隙間に何かがあると感じてしまった。誰も踏み入れていなかった領域を切り開いてみたくなった。それを乗り越えれば僕しかできないビジネスが得られると漠然と感じたのだ。それがカスタムバイクの合法化である。全てのカスタム行為を合法の枠に入れば何の問題もないのだ。
オートマジックを開業した頃、逆輸入車は車検証上の型式が「不明」であることを利用して、公認申請を行わずカスタムを行う風潮があった。Z1を例に取れば、車体番号はZ1でも型式に「不明」とあれば、Z1の純正仕様に縛られることはないというのがその理屈である。しかしこれでは、カスタムはいつまでも日の目を見ないグレーな存在から抜け出すことはできないだろう。だから僕は、細かい部分からコツコツと正攻法で公認申請に取り組むことにした。
【純正より高い強度を証明する高年式純正パーツの流用】
そこでまず初めに驚いたのが、公道を走るバイクの安全規定を決める道路運送車両法には、ホイールやブレーキなど車体各部のパーツを純正部品から交換してはならない、という決まりはないことだった。部品の素材が鉄やアルミかといった区別もない。そもそも、メーカーから出荷された状態の製品を、改造して使うことなど前提にない法律なのだ。
これでは まるで手掛かりがない。どうすればいいのか?
そこで出した答えは、カスタム済みのバイクを正面切って車検場に持ち込むことだった。昔から今に至るまで、僕はカスタムバイク文化の発展と成長を考えながらも、一方で結構出たこと勝負なところがある。カスタムバイクの何が問題でどこを改善すれば大手を振って公道を走ることができるかを確認するには、あれこれ考えているだけでなく、具体的に車検の現場で行動を起
こす方が手っ取り早いと考えたのだ。フルカスタム車を前に、検査官は目が点になっていたけど……。
そしてここで分かったのは、検査では「ダメ」を出されることはないということだった。ブレーキやホイールやバックステップなど、交換したそれぞれの部品についてどう改善すれば車検を通すことができるかをアドバイスしてくれるのだ。
具体的に言えば、そのバイクが問題あるかないかを判断する基準は「純正のスタンダード状態より劣っていないかどうか」が、ある意味バロメーターでありボーダーラインだった。
片押し1ピストンのブレーキキャリパーを、アルミ製キャリパーサポートを介して対向4ピストンキャリパーに変更する際、サポートの素材や厚みや形状などはカスタムしたショップが自由に設計できる。だが、そのサポートの強度が純正パーツに劣らないこともまた、製作した側が証明しなくてはならない。その証明ができれば、改造に対して公認を与えられるということだった。
そこで目をつけたのが純正パーツの流用だ。カワサキZ 1やスズキGSX
1100Sカタナのカスタム車に、それより遙かにハイパワーで高速走行できるGSX -R1100やFZR1000用にバイクメーカーが開発した純正パーツを装着するという行為は、陸運局として文句のつけどころのない改造だった。
走行性能の向上や制動能力の改善などといった改造の目的を示し、
1970年代の頼りない絶版車の純正部品を1980年代後半の当時最新クラスの市販車装着用純正部品、それもカスタムを行うベース車両より強度が高い、具体的にはより排気量の大きなマシンの純正部品を装着したことで公認改造というお墨付きが与えられる。オートマジック初期に爆発的にヒットした純正パーツ流用のコンプリートカスタムはこうして誕生し、公認済みカスタムマシンはユーザーの安心感を与えただけでなく、全国のバイクショップからも数多くのオーダーをいただくことになった。
流用カスタムによる公認を数え切れないほど繰り返す一方で、経験値を上げてノウハウを獲得して素材や形状による強度計算も行い、ワンオフカスタムでも改造公認を取得するようになった。最近は設計を行いながら強度やストレス測定まで行える便利なCADソフトがあるので、オリジナルパーツの設計もさらに積極的に行えるようになるだろう。
1990年代の初めに空冷4気筒カスタムの芽が出かかった頃、いくつかのショップと協力し合って合法化に向けたトライ&エラーを経て公認車検を獲得したことで、その後のカスタムブームが爆発的に盛り上がったのだと思う。1990年代後半には日米間の規制緩和という追い風によってカスタムの自由化が進み、ブレーキや足周りパーツの交換や改造に関して公認取得が必要な範囲は大きく減少し、パーツメーカーがボルトオンのキャリパーサポートを発売したり、カスタムショップがどんどん登場するようになった。
しかし、我々がグレーゾーンをグレーのままで終わらせず、ハードルをクリアしてきたからこそ現在のようなオープンなカスタム環境ができたのは事実だ。その結果、様子見していた後発組がスムーズに参入できたことも知っておいて欲しい。
【コンプリートカスタム製作で実現したエンジン換装と公認取得】
足周りやブレーキカスタムによる公認車検を繰り返すうちに、前号でも紹介したGSX750Sカタナ+油冷GSX -R1100エンジンのコンプリートカスタムも公認車検を取得することになる。
1990年代初頭、油冷エンジンを搭載するためのエンジンマウントプレートに十分な強度があることや、積み替えたエンジンのパワーが純正を上回る場合、それが一定範囲に収まっているなどの条件を満たすことが求められた。そして、改造を行った車両が保安基準に適合していることを示す「改造自動車審査結果通知書」は、書面上にフレーム番号を記載された車両のみに有効となる。つまり、同じ内容で改造を行っても、車体が違えば素書類製作の段階からやり直さなくてはならないのが本筋である。
ところが、オートマジックではカタナのフレームに油冷エンジンを搭載するカスタムマシンをあまりにも数多く製作しその度に公認申請していたため、エンジンスワップ作業で必要なアルミ製エンジンマウントプレートの寸法と構造に変更がなく、いつも通りの方法でフレームに搭載した際には、申請にかかる手続きが簡素化された。オートマジックが製作する油冷カスタムで、フレームとエンジンの組み合わせがある一定のパターンならば、煩雑な申請手続きを簡略化して公認車検が与えられるのだ。
これは油冷カタナ製作の台数と、エンジン搭載に必要なマウントプレートが量産部品レベルで製作されていたからこそ実現した措置だったと思う。カスタムという特殊な楽しみでありながら、量産車両として実績が認められたようなものだ。現在ではそう言った内容の書類は出さなくなったようだが、我々が製作する油冷カタナ(オートマジック製エンジンマウントプレートを使用した車両に限る)は、今も全国の車検場でそのまま継続車検を通過する公認車両なのである。
僕が思うに、たいていのショップはその時代やその時点で、あえて制度や法律をクリアしてまでこだわりの部分を主張しようと思わないのだろう。
しかしそれでは何も変わらないし面白くもない。
バイクは趣味嗜好の世界だし人馬一体となる乗り物だから、好みのポジションだって十人十色なはず。それをメーカー出荷時のツルシ状態で「ユーザーがバイクに合わせなさい」というのは無理でしょ? ライダーの腕や足の長さは調整できないからバイクを改造するのだ。
そこがカスタムの原点のひとつだ。もちろんシャレや遊び心、ビジュアル面を変えるのもカスタムだ。要するに個人個人に合わせて「自分仕様」にする。オートマジックはそんなことがもっともっとしやすい世の中にしたくて、たくさんの開発と開拓、そのための公認申請を積み重ね、世間の認識を変えながらカスタムの認知度を広げてきたつもりだ。
すでにあるブームや手法に便乗しているだけでは新たなブームは生まれない。無難なセンばかり選んでいては何も成長しないと思う。あえて自分で設定したハードルを越えることによって、さまざまなものが見えてくる。
車検制度を徹底的に検証した上で、長くフレーム修正や補強に関わる中で蓄えた知見を生かし、さらに個性的で高性能なカスタムマシンを製作しようという意気込みで生み出したのが、DFCフレームである。次号では、カスタム業界の異端、新風の両論が飛び交うDFCについて、その起源や高性能フレームとしての意義を解説しよう。
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