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どうしても持ち帰れない vol,7
ピカイチの友人と夜に落ちあう。
夏の旅行の予定を立てるつもりが、やはり近況報告にピューピュー話が脱線し行き先さえ決まらなかった。母の予言よ侮るべからず、だ。
互いに韓国ドラマにまたハマっているとのことで夜ご飯はもちろん韓国料理にしよう。今の時代輸入食品店でたいていのミールキットは買えるが、個人的には「それでもお店で食べる価値がある」と思っている三枚肉と”海鮮”チヂミを食べ、やはりうまい。
珍しくお酒をしっかり飲んで、イタくて妙に熱い人生話に花を咲かせ、暗くなった代官山の洒落た歩道で、しっかりと花壇に足を取られ転んで帰った。
日は変わり、その日の午後は教習所でみっちり過ごすぞと意気込み送迎バスで学校へ。
車内で持ってきたトートバックがバタンと倒れ、「ああ、これは中身が出ないように教習車では持ち手を結ぼう」と教訓を得て小さな満足を得た。
着いて、さあカバンを開くと、「あれ、サイフガナイ、、」
真夏の一番熱い時間に、意を決して汗を流しつけた出立ちで気合い十分だというのに、身分証がなく車に乗れないという信じたくない事実が豪速で頭をよぎる。
当然すぐには飲み込めないので、「何も忘れてませんけど」の顔でベンチに無意味に5分座って帰った。
どう考えても悔しすぎた。
思えば私は、出先でどうにもならないほど嫌なことがあったり辛い気持ちになると、無意識にその気持ちをどうにか好転させようと努め始める。
そしてその手段は、なんと恐ろしや「買い物」なのだ。
その状況では、まさしく財布の紐など昨日に置いてきたという勢いで、高いものほどすいすい買えてしまうので、帰る頃には普通の日よりよほど気分が良いくらいだ。
戦利品を見返しながら、何か嫌なことがあった気がする、とちらっと思い出しかけてまた思い出すのをやめる。
いやはや買ってしまったな〜、と小豆サイズの反省を腹に収め、大いなる清々しさで四肢を自由に伸ばして床につきその日は終えてしまう。
思い返しても自分の無意識の威力に慄きつつ、その反射神経はゴキブリを見つけ飛び上がるときのレベルに似ていると、思う。