KEIJI MUTO GRAND FINAL

 まさに”祭典”とよぶにふさわしい雰囲気に満ちあふれ,そして途中途中でいくつもの謎をはらんで進行した2/21東京ドーム大会が終わりました。まず試合前日,論外選手のコメントに「勝ちばかりにこだわっているレスラーでもなし」という一節があり,他方で武藤選手は「レスラーにとって大事なのは,負けなんだよ。ある意味で勝利よりも大事かもしれねえ。俺たちってさ,負けから這い上がる姿をいかに見せられるかなんだと思うんだよ。俺だって負けてばっかりだ」と述べました。”俺だって”の部分から考えるに,これらは清宮選手あるいはオカダ選手いずれかに向けられたメッセージのように受け止められました。それが果たしてどちらなのかは,試合結果に直結します。セミのマッチメイクが二転三転したことは,煽り戦略ではなくリアルな交渉難だったと思われます。前日に発表された試合形式30分1本が,当日昼に時間無制限に切り替わるハプニング。これは端的に,時間切れ引き分けの手打ちで終わるはずが一転白黒決着が定まったことを示しています。前座にはあまりにあっけないフィニッシュで終わる試合がいくつかあり,その進行を急いでいる感はやはりセミのロングランが予想される影響ではないかと思われました。その中で行われた清宮vsオカダ戦,入場時点で清宮選手の目が活きていない,というよりやや死んでいる点が気がかりでした。この1か月煽り疲れたのかどうなのか,横浜のときのようなギラギラ感が消えています。
 試合内容は予想に反するハイスパートレスリングとなり,組み合うシーンは冒頭のロックアップのみで,以後場外乱闘,打撃,投げのみで進行。意外にも通常のプロレスを両者が展開しようとしている光景にほっとする反面,いやな予感を感じ始めました。早めのフィニッシュの仕掛け合いがスピード感を加速する好勝負に発展しました。特筆すべきは徹底したカウンタープロレスに清宮選手がずばりのタイミングで対応していたことです。普段清宮選手があまり積極的には打ち出していないカウンターの応酬ですが,今後の日常の試合で取り入れていってもよい点ではないでしょうか。しかしそれはオカダ選手のペースで試合が進行されたということを意味し,清宮選手本来のフィニッシュのいくつかは繰り出す機会なく終わってしまいました。こうして2年前の対DDT,1年前の対新日本,そして今回と清宮選手は屈辱の敗戦ロードが続く結果となりました。今回のマッチメイクは「ことごとく見ている人の予想の裏をかく」ことがテーマだったかのごとく波乱続きとなり,清宮選手を発端とする横浜大会からの一連の事件には,深く考えを巡らせる楽しみを与えてくれた点で感謝します。果たしてここで清宮選手はまた格下げされるのか,挽回の日は訪れるのか,試合後のコメントはまだ届いていませんが今後の日常の戦いに注目していきたいと思います。
 さらにメインでは,武藤選手が長い花道を歩いてリングインしたのみならず,飛ぶ,走る,倒れる,すべての動きにほぼ普段どおりに対応して見せました。両もも肉離れをおこしている人間がこうした動きを見せたこと,これがこの日の最大の謎かもしれません。試合はムーンサルトの二度の躊躇が仇となり武藤選手の敗戦となりましたが,自ら発したアンコールで蝶野選手との対戦が実現。おそらく武藤選手はこの”試合”を10カウントゴングの代わりに位置づけたのでしょう。頭の中を何の不安も占めることなく,祝福の気持ちでいっぱいになったのは大会を通じて唯一この瞬間かもしれません。このように見る者の感情を上下左右に揺さぶりつつ進行し,最後にシンプルな大団円で締めくくった今回の大会の主催に拍手を送ります。

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