人間は神なしでは生きられない
ユヴァル・ノア・ハラリの著書「サピエンス全史」は、人間の歴史や特性、進化の過程を深く探るものである。その中で彼が強調するのは、人間だけが持つ「虚構」を信じる能力である。この能力が人類を他の生物から際立たせ、私たちの文明を築く上での重要な要素となっている。
何千年もの間、人類は様々な物語や信仰を通じて、共通の価値観や目的を共有してきた。神話や伝説、宗教はそれぞれの文明や時代における中心的な要素として、人々の生活や文化、そして社会制度を形成する役割を果たしてきた。これらの「虚構」は、具体的な証拠や論理だけでは説明できない部分を埋めるものであり、人々に希望や安心感を与える力を持っている。
しかし、宗教や伝統的な神話だけが私たちの心を掴む「神」ではない。時代が変わり、文化が進化する中で、新たな「神」が現れてきた。それは、音楽やアート、映画やゲーム、さらには趣味やファッションなど、様々な形で私たちの日常生活の中に溶け込んでいる。
例えば、音楽は、言葉や文化の壁を越えて、人々の心を直接打つ力を持つ。ビートルズやエルビス・プレスリーは、彼らの時代を象徴するアーティストとして、世界中の人々を魅了した。彼らの音楽は、ただの娯楽としてだけではなく、その時代の若者たちの気持ちや願望、抱える問題や感情を映し出すものであり、多くの人々にとって「神」のような存在となった。
また、近年の文化として注目されているゲームやアニメも、そのストーリーの中に様々な価値観や哲学を持ち、多くのファンに深い感動や興奮を与えている。ゲームや漫画は、その独自の世界観やキャラクター、そしてメッセージを通じて、人々の心に深く刻まれる作品となっている。
さらに、収集の趣味も、人々の心を満たすものとして存在している。コインや切手、ウィスキーやワインなどのアイテムは、それぞれの歴史や背景を持ち、それを知ることで、人々は自身の知識や興味を深めることができる。これらのアイテムは、所有することでの満足感や、それを通じての人々との繋がりを持つことで、日常生活の中での喜びや安らぎを提供している。
人間は、絶えず「神」を求めて生きているのかもしれない。それは宗教であったり、音楽やアート、ゲームや趣味といった文化であったりする。それぞれの「神」が持つ力は、私たちの心を満たすものであり、それが人類の特性として、私たちの日常や社会、文化を形成しているのだ。