振戦
経済史について、世界システム論を軸に具体的な史実を確認しながら考える。
世界システム論は50年前のアメリカのイマニュエル・ウォーラーステインによる理論だ。当時から南北問題に挙げられるように、世界的な規模で格差が見られた。これはどのように形成されたかを考えることも出来る
格差が生まれるのが資本主義、これはマルクス主義と同じだ。利潤の最大化を追求する国際的な分業関係が、資本主義経済だと説明するのがウォーラーステインの世界システム論である。
ここから史実を確認しながら考えていく。近代以前は世界帝国という概念があった。世界的分業関係を一つの国が抱えるという形が成り立っている状況のことだ。これには一国に利益を取られて発展が遅れるという問題がある。この状況から脱したのが近代の資本主義的世界経済である。1000年から1250年にかけてのヨーロッパの封建制の危機の中で、対策として、資本主義経済システムは誕生したと考えられる。
1450年から1600年の近世にかけて、北西ヨーロッパで、貴族が農民を支配する力を徐々に失っていき、土地を貸すだけの地主になっていく。その貴族の土地を、大規模に経営していたのが資本家的借地農という人々だ。農民の効率性が向上し、経営性が生まれたのだ。
小作人などと呼ばれた人々が人間的に支配される関係から抜け出したことで、経済は自由化していく。
一方、東欧の貴族(ユンカー)が輸出で利益を得ることで、逆に東ヨーロッパでは、貴族の立場が向上するといった現象が起こった。これをグーツヘルシャフトという。不自由な強制労働が生じ、西と東で違う形の経済が生まれる。
そしてアメリカでは、プランテーションによるモノカルチャー経済による輸出が行われる。これも強制労働によるもので、東ヨーロッパと重なる。
自由な北西ヨーロッパの経済とアメリカと東ヨーロッパの不自由な経済は裏表の関係で、それが資本主義のグローバルな分業関係なのだ。
中核と周辺・半周辺と言われる括りがある。中核では資本家的借地農や工業化が進み、周辺では強制労働が進む。周辺は中核に搾取される。半周辺では折半子作制が出てくる。中核程豊かではないが、折半によりリスクを分散し、地主と農民で協力しながら経営するのだ。
中核では国家統合が円滑に進み、周辺(東ヨーロッパ)では貴族が対立することで、統合が進まないといった異点もある。
植民地から得た資本で軍隊を形成するなど、16世紀のスペインでは覇権政策が行われた。しかし経済的視点で見ると、軍隊に支出しすぎているため失敗していると考える。結果として、ヨーロッパではどの国も世界帝国をなしえなかった。中核・周辺・半周辺の分業関係が、変容しながらも20世紀まで続くことになる。
1600年から1700年にヨーロッパの拡大が止まり、景気も停滞する。国家利益をどう広げるか競われる中で、重商主義が広がる。1618年から1648年までの30年戦争があり、それを経てオランダが経済的覇権を握る。生産も金融も流通も圧倒的になる。これが世界初の覇権国家となる。
しかし、各国が重商主義などを拡大させる中で、オランダは土地が狭すぎたのではないかと言われる。徐々にイギリスやフランスに追い上げられていく。オランダの衰退というよりは影響力の減少と考えられる。
1700年から1840年の近代では、産業革命と市民革命がおこる。フランス革命では、あまり経済行動は変化していないとウォーラーステインは説明する。フランス革命は考え方の変化だと言う。考え方が資本主義化したということだ。思想や世界観、イデオロギーの革命なのだ。政治・文化の変革ともいえる。マルクス主義のブルジョア革命論は、市民革命によって自由な資本主義運動がおこるとする。これはウォーラーステインの理論と異なる。
フランス革命は、ブルジョアジーが中心となり国家を改造しようとしたが、あまりうまくいかなかった。しかし、政治や文化といった領域で多くのものを勝ち取ったとウォーラーステインはまとめる。それがフランス革命の意義だと言える。
フランス革命と同時期にアメリカ独立も起こった。同時に、世界システムの拡大が起こる。インドやオスマン帝国、ロシア帝国が周辺として登場する。また、フランス革命後に自由主義が出てくる。各地で受け入れる人が現れるが、反発もある。保守主義という思想が初めて明確に登場することになった。
フランスとの植民地争奪戦に勝利したイギリスが覇権を握る。世界で2番目の覇権国家だ。近代から現代へと時代が移る。
1914年から1945年までを20世紀の30年戦争と表す。そして、アメリカという3番目の覇権国家が生まれる。経済的には1920年代からアメリカが覇権を握るが、完全な覇権は戦後にある。また、1917年のロシア革命は反世界システム論だとした。資本主義に対抗する新しい経済体制だと言われたが、ステインは資本主義システムからの隔離だとした。周辺として搾取されることを避けるということだ。世界経済の中での地位を挙げるという目的だ。
まとめとして、ウォーラーステインの世界システム論は、非常に面白い。マルクス主義以降の、最も大きな理論だと言われる。グローバルな分業関係にある世界を解析する中で、かなり良く出来ている。しかし、分析の枠組みがきちんとなされているのかという疑問や、これからの世界の展望などを言えていないという評価がある。
つまり、ウォーラーステインの理論が現代に近づくにつれて、我々がその理論を補完できるように、理論について考えていく必要があるということが言える。