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乳房再建しなくても普通に温泉に行きたい

私は2023年9月の頭に乳がんで右胸を全摘した。
再建するつもりは全くない。
片胸がないことで困ることは何もないし、ビジュアル的な意味でも全然気にならない。
その辺の話は、以前書いたこちらの記事をご覧いただきたい。

そして今月末、手術してから初めての温泉に行こうと思っている。
手術からまだ1ヶ月半くらいだが、抗がん剤治療に入る前に旅行に行っておきたいのだ。
そこで悩むのが、どうやって温泉で右胸を隠すかだ。

手術する前は、大枚をはたいてシリコンの人工乳房を作るつもりでいた。
しかし手術後は、入浴着を着ればいいかなって思った。
そしていよいよ実際に温泉に行く日が近づくにつれ、タオルを肩から掛けて隠せばいいやって思ってる。
しかし湯船に浸かってる間もタオルで隠すことはできないので、人々には背中を向けるようにしたほうがいいのかなとか考えている。

そんなことを考えているうちに、隠さなきゃいけないこと自体を疑問に感じるようになってきた。

手術前に人工乳房を作ってでも隠そうと思っていた理由は、自分自身のためだ。
なくなった胸を見られるのが嫌だった。
可哀想って思われたくない、見世物になりたくない、恥ずかしい、プライドが傷つく、なんだかみじめ、といったところだ。

だけど今は周りへの配慮以外の何でもない。
傷口を見て気分が悪くなる人がいるんじゃないか、小さな子どもが見たらショックを受けるんじゃないか、などなど。

そしてさらに思った。
そういえば私、今までこんなに温泉とかスーパー銭湯に頻繁に行ってきたのに、胸を全摘した人を一度も見たことがないな……。

今や女性の9人に1人が乳がんになる時代。
その全員が胸を全摘しないにしても、かなり多くの人がしているはずだ。
そしてその全員が再建しているわけではない。
ということは、今まで数え切れないくらい温泉やスーパー銭湯に行ってきた中で、一度くらいは見かけたことがあってもいいはずだ。

自分が周りをろくに見ていなかっただけなのか。
それとも自分が思っているよりみんな再建してるのか。
もしくは人工乳房、入浴着、タオルなどでうまく隠しているのか。
はたまた全摘した人は温泉に来ないのか。

最後の理由だった場合、最初から温泉が好きじゃない人はともかく、何らかの理由で来れなくなってしまったのなら悲しいことだ。
どうしたらそういう人たちが堂々と温泉に来れるようになるのだろう。

答えはただひとつ。
胸を全摘した人が、みんな堂々と温泉に来るようになることだ。
なんじゃそりゃって思われそうだが、それしかない。

駅を歩いていると、たまに目が不自由で白い杖をついている人を見かける。
スーパーに行くと電動車椅子で買い物をしている人を見かける。
せめてそのくらいの頻度で見かけるようになれば、驚かせることもなくなるし、珍しがってジロジロ見られることもなくなる。

インクルーシブ教育と同じことだと思う。
胸がない人も、どんな体型の人も、体毛が濃い人も、介助が必要な人も、温泉に行くといろんな人がいる状況が当たり前になれば、みんなにとってそれが普通になるのだ。

小さい子供には「温泉に行ったらたまに胸がない人がいるけど、ジロジロ見ちゃダメだよ」って教えればいい。
それに子供のうちから見慣れておけば、いざ自分が乳がんになった時、全摘するハードルが少しは下がるんじゃないかと思う。
生きていれば病気になって胸を全摘することだってある。
それを予め理解しておき、イメージしやすい状態にしておくのだ。

胸がなくても堂々と生きていける。
胸がなくても我々はみんな美しい。
そんな当たり前の事実がもっと人々の生活に馴染んでいけば、私のように胸を全摘した人間ももっと生きやすくなるし、これから手術をする人にとっても励みになるのになぁ。

タオルで隠さなくても、堂々と胸を張って温泉に入れる時代が来ますように。

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