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似て非なる二人の天才、TAJIRIとCIMAの真逆なプロレス観

軽量級でありながら、世界を股にかけ活躍する2人のレスラーTAJIRIとCIMA。
正式デビュー以前、TAJIRIは大学生、CIMAは高校生の時に単身メキシコに渡り練習した経験を持ち、デビューしてからもメキシコを主戦場としていた時期がある2人は、各々がルチャ・リブレを取り入れて独自のスタイルを構築していった。
ある時期からはレスラー活動をしながらも、後輩の育成や団体のプロデュースに力を入れるようになり、オフがあれば精力的に海外で試合をするといった共通項も多くある。

メキシコを第二の故郷とする両者だが、TAJIRIは日本のIWA JAPAN、CIMAはメキシコ闘龍門でデビューしている。
先輩レスラーが多く在籍していた日本の団体で、若手時代をすごしたTAJIRIのほうが上下関係を尊重し、闘龍門一期生であり、海外で若手時代を過ごしたCIMAのほうが、砕けたプロレス観を持っているように思えるが、実際のところは真逆なのだ。

試合に関してCIMAはどんな時でも、常にレベルの高いものを見せる、というスタンスだが、TAJIRIは状況やポジションに応じて、立場をわきまえその場に対応する、というものだ。
2009年にTAJIRIが新日本のG1クライマックスに出場した際のこと。すでに優勝争いから脱落し、消化試合となった最終戦を短時間で反則決着に終わらせたのは「優勝戦に残らなかったもの同士で濃厚な試合をやったところで、本来の意図からははずれている」というリーグ戦の本質をついたTAJIRIの見解があったからにほかならない。

リング外に目を向けると、CIMAがAAAに参戦した際、直属の後輩Eitaがメキシコ人たちの選手移動バスの中で寝ていたことを、「周りはみんな先輩選手なんだから、そんな中で寝るな」と注意したことがある。
日本であればこの注意は適格だが、海外でもそこは曲げないCIMAに対し、TAJIRIの場合、誰がどこで寝ようがまったく気にすることはない。

またパチューカで試合をした時、試合後CIMAに近づいてきたプロのサッカー選手がいた。彼は本田圭祐が在籍していたこともあるクラブに所属しており、ゴールを決めた際、コルバタを決めるパフォーマンスで脚光を浴びていた選手だった。スマホを片手に得意げにその動画をCIMAに見せると、実際には彼はコルバタを受ける側で、ゴールを決めた選手が彼に技をかけているのだ。
デビューから一年メキシコで生活していたCIMAであれば、こういったアクションは受け入れるかと思ったが、プロレスの領域を冒とくするような彼の行為に「なんか腹立つな。」と厳しい反応を見せたのだ。
一方TAJIRIの場合は相手が素人だろうが、こういったパフォーマンスは面白がる傾向にある。

二人のプロレス観の違いが如実に現れたのが、中国人練習生へのコーチングだ。
2017年2度目のWWE参戦時、TAJIRIはパフォーマンスセンターでコーチをすることがあり、そこには多くの中国人練習生がいた。
WWEは来るべき中国市場開拓のために、選手を育成していたのだ。
しかしTAJIRIが実際に教えてみると、なかなか日本人やアメリカ人に教えるのと同じようにはいかなかった。

我々日本人やアメリカ人でプロレスラーになりたい人間の多くは、子供のころからプロレスを見て育ってきた選手が多いが、一方の中国にはプロレスがないわけで、彼らは最近になってプロレスを初めて見て、レスラーになろうとしているのだ。

潜在的にプロレスが刷り込まれている日本の練習生に対し、まったくそれがない中国人がやろうとするのだから、そう簡単にできるわけがない。

一方CIMAも中国OWEに招かれ、つきっきりで中国人の指導にあたった経験があるが、彼は真逆の反応を示している。
とにかく身体能力が高い練習生ばかりで、教えたことをどんどん吸収していく。プロレスを見たことがないから、こっちが言ったとおりに学んでいく、ということなのだ。

このように似たようでありながら、全く違う感性をもったTAJIRIとCIMAは、これまでほとんど接点がなく、リング上でいえば数年前に全日本プロレスでニアミスした程度だ。
選手として残された活動期間があるうちに、両者がリング上で対峙したときに起こるであろう化学反応を見たい、というのはこれまでを振り返ってみても、想像だけで終わってしまう可能性が大きいだろう。





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