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第一  事実とされているイギリスの3枚舌外交⑴フサイン:マクマホン密約について そのⅱ

【ヘンリー:マクマホンと英国政府について】

さて,「歴史的事実」とされている英国政府の現パレスチナ人の祖国となるべき・新建国国家ヒジャーズ王国に対する架空契約であるが,

ほとんどの日本人は,フサインマクマホン密約についてその内容を知ることなく,一部の知識人と言われる人たちによって,英国はイスラエル(パレスチナ)に住むパレスチナ人に対して,
『英国に味方して宗主国オスマン帝国打倒に立ち上がれば,イスラエル(パレスチナ)をアラブ人に建国国家として認めると誓約している。』
 ↑このように信じている。
 そしてそれを日本人だけではなく,世界中の大部分の人々に対しても繰り返し教授されることで,このイギリスの3枚舌外交は「歴史的事実」の地位を得ているわけである。

ちょっと真面目に,ヘンリー:マクマホンはフサイン:イブン:アリーに何を回答したのかを見てみたい。

[Title]
McMahon-Husain Correspondence (Letter from McMahon to Husayn, dated October 24,1915)

[Full text]
The two districts of Mersina and Alexandretta and portions of Syria lying to the west of the districts of Damascus, Homs, Hama and Aleppo cannot be said to be purely Arab, and should be excluded from the limits demanded.

With the above modification, and without prejudice of our existing treaties with Arab chiefs, we accept those limits.

As for those regions lying within those frontiers wherein Great Britain is free to act without detriment to the interests of her ally, France, I am empowered in the name of the Government of Great Britain to give the following assurances and make the following assurances and make the following reply to your letter:

1. Subject to the above modifications, Great Britain is prepared to recognize and support the independence of the Arabs in all the regions within the limits demanded by the Sherif of Mecca.

2. Great Britain will guarantee the Holy Places against all external aggression and will recognise their inviolability.

3. When the situation admits, Great Britain will give to the Arabs her advice and will assist them to establish what may appear to be the most suitable forms of government in those various territories.

4. On the other hand, it is understood that the Arabs have decided to seek the advice and guidance of Great Britain only, and that such European advisers and officials as may be required for the formation of a sound form of administration will be British.

5. With regard to the vilayets of Bagdad and Basra, the Arabs will recognise that the established position and interests of Great Britain necessitate special administrative arrangements in order to secure these territories from foreign aggression, to promote the welfare of the local populations and to safeguard our mutual economic interests.

I am convinced that this declaration will assure you beyond all possible doubt of the sympathy of Great Britain towards the aspirations of her friends the Arabs and will result in a firm and lasting alliance, the immediate results of which will be the expulsion of the Turks from the Arab countries and the freeing of the Arab peoples from the Turkish yoke, which for so many years has pressed heavily upon them.

拙訳

[タイトル]
マクマホン-フサイン通信(マクマホンからのフサイン(1915年10月24日付けの)への手紙)

[全文]
メルスィナ/アレクサンドレッタの2つの地区を結んだ線とダマスカス/ホムス/ハマ/アレッポより西方に存在しているシリアの領域は,これは全くアラブ人居住区と定義することができず,要求される国境から除外されなければなりません。

上記の解釈を受け入れてくれる前提で,アラブ・チーフ(フサインだけでなく関連盟約を結んでいる全てのアラブ人)と我々の存在している下記条文は後で解釈変更することなく,英国政府はそれらの要求を受け入れます。

英国が陛下の盟友(フランスのこと)の利益を損なわずに行うことが可能である上記を除く領域ですから,その除外区域中に存在する限り,あなたの領土要求する地方に関しては,私は,あなたの要求すべてに保証を与え,また下記のごとく追加の保証を確約し,あなたの手紙で尋ねられた項目への答えとしてお返しします。これは英国政府の名において,あなたの正当な権限として与えられます。

1. 上記の修正を前提として(2行上の除外区域を繰り返し),イギリスは,メッカのシェリフ(フサイン個人)によって,要求される制限内のすべての地方でアラブ族の独立を認めて,これを支持する用意ができています。

2. 英国としては聖地(メッカのこと)へのすべての外部による攻撃性に対し,侵略者の不可侵を確約します。

3. 万が一侵略が起こった時,英国はアラブ族に陛下のアドバイスを与え,彼ら(侵略者たる第三者・この時想定される唯一の侵略者とはサウジアラビア)にとって,いかなる境界線が,それらのいろいろな国境線として,最も合法的な見極めとなるかについて,あなたがそれを立証することを助けます。

4. 他方,アラブ族が後見国として英国だけに守護を求めることに決め,そして,安全保障体制の形成のために,必要に値すると思われるヨーロッパのアドバイザーと当局が英国軍であることも理解されます。

5. バグダッドとバスラ両州に関し,アラブ族は,英国の確立した位置および利益について,両州領域を外国の攻撃から守るために特別に駐留を必要とすると認めます。そして,地元の住民の福祉を進めて,我々の相互の経済利益を保護します。

私(ヘンリー:マクマホン)の宣言は,陛下のアラブ族に対する愛を疑うアラブ人がいるという問題に対し,すべての難題を越えてくださったあなた(フサイン)であるからこそ,良好に安定し長続きする提携に終わることを確信しています。そして,それの差し迫った結果はアラブ国からトルコ人を追放します。トルコの軛から,長年の間,重く圧迫され続けたアラブ民族を解放しましょう。


フサインマクマホン密約のうち,回答1 2 3は,おそらくフサインがマクマホンに尋ねたことへの回答だと思われる。

回答4 5は,マクマホンよりフサインへ,尋ねられていないけれども,これを約束しますよと追加的に保証されたものだろう。

そして,ここで問題となるアラブ人の建国国家領域について,回答前文として「上記の」「これを除く」と約束されている箇所は非常に重要である。

トルコ南岸の地中海沿岸都市メルスィンと,現レバノン北,シリアの沿海部分に接する国境の都市アレキサンドリア(現在の正式な都市名はエスケンデルン(日本名イスカンダル))のラインとは,『そこより北はアラブ人の領域にならないよ』という意味に解釈できるだろう。

ダマスカス/ホムス/ハマ/アレッポは現在もシリアにおける同名の都市県であるが,これを南北に境界線を引いてもらいたい。

そのラインは,死海の真ん中を通過して,ヨルダン川を真っ直ぐに紅海へ降り,現在のヨルダンの都市アカバを東,イスラエルの都市エイラートを西と区切るだろう。

そこより西,すなわちヨルダン川西岸を含む現在の全イスラエル・パレスチナ領域は『これは全くアラブ人居住区と定義することができず,要求される国境から除外されなければなりません。』このように,はっきりアラブ人に割譲しないことが宣告されている。

イスラエル・パレスチナをアラブ人に与えるではない。それどころか,

イスラエル・パレスチナに当たる「ダマスカス/ホムス/ハマ/アレッポを結ぶ境界線より西」はアラブ人の居住区ではないので,フサインの領土にしないことが前提ですよ。」←このように念押しまでされているのである。


パレスチナ人は,このヘンリー:マクマホンの約束によって,いったい何を騙されたのであろうか?

それは次回【フサイン:イブン:アリーとパレスチナ人について】にて。

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