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「設計・施工分離の原則」への拘りは、インフラメンテナンスに有害無益です。

インフラメンテナンス国民会議への提言

【提言のタイトル】
「設計・施工分離の原則」への拘りは、インフラメンテナンスに有害無益です。

【提言の本文】

 2025年4月に開幕予定の大阪・関西万博では、海外各国が独自に建設する、万博の「華」とも言うべき海外パビリオン(51館)の全てが昨年末時点で未着工であり、その半数近い24館では建設業者が未定(建設工事契約が未締結)です。建設工事契約が締結できた27館では、国内の大手ゼネコンが直接請け負ったケースはありません。万博協会では、年内に建設業者が決まらない海外パビリオンは建設が開幕までに間に合わない恐れがあるとして、箱型のプレハブ方式パビリオンであるタイプXの建設資材を24館分既に発注済みです。しかし、海外パビリオンは、いずれもそれぞれの国内で建築デザインを選りすぐったものであるため、独自建設を断念してタイプXに乗り換える国は少なく、3ヶ国に留まったままです。これでは、2025年4月の開幕が極めて危ぶまれます。

 他方、国内パビリオンでは、昨年の8月頃までに全ての建設工事契約がゼネコン等の国内大手建設業者と締結済みです。海外パビリオンと国内パビリオンでは、建設工事契約締結の進捗状況に雲泥の差があります。その原因を調べてみたところ、外国政府のパビリオン建設発注関係者とゼネコン等国内建設業者との間で、建設工事契約についての認識が全くかけ離れているのです。我が国では「設計・施工分離の原則」に基づく設計・施工分離発注方式(つまり、この設計図面のとおりに造ってくれといった、他国に類を見ない我が国独自の仕様発注方式)が常識となっており、工事請負契約書の雛型である「公共工事標準請負契約約款」と「民間建設工事標準請負契約約款」のいずれも、設計・施工分離発注方式を前提としています。ところが、海外ではデザインビルド方式(つまり、別途選定した建築デザインに基づいて設計と施工を一括発注する方式であり、このようなものを造ってくれといった、グローバルスタンダードな性能発注方式)が常識です。このため、外国政府のパビリオン建設発注関係者には、設計・施工分離発注方式の概念を理解することは難しく、ましてや、我が国の標準的な工事請負契約書を理解して用いることは不可能です。

 経産省と万博協会は、昨年の8月以降、経産省や財務省の現役幹部職員等を万博協会に異動させて対外折衝体制を強化し、また、外国政府と国内建設業者を引き合わせる会合を複数回開催するなど、海外パビリオンの建設工事契約締結の促進を「組織対応」により図っています。しかし、このような「組織対応」が効を奏して外国政府が国内建設業者と建設工事契約を直接締結した事例は、残念ながら殆どありません。
 ところで、契約の締結については、民法に則り、発注者と受注者が対等の立場で信義誠実の原則に基づき、「誰が誰に」、「何を」、「いつまでに」、「いくらで」、「どうするか」の5点について、発注者と受注者の双方が十分に納得した上で契約書に署名捺印すればよいことです。そこで、契約の当事者である発注者と受注者を「組織対応」で支えるべきことは、前記の5点の内の、「何を」、「いつまでに」、「どうするか」の3点についての合意内容が齟齬無く明確なものとなるように助言すること、つまり、契約書に編綴される発注書の簡潔明瞭かつ必要十分な書き方について、外国政府のパビリオン建設発注関係者に助言することです。しかし、誠に残念なことに、このような支援・助言は全くなされませんでした。

 我が国では、昭和34年1月発出の建設事務次官通達「土木事業に係わる設計業務等を委託する場合の契約方式等について」で示された「設計・施工分離の原則」が、今日でも土木分野のみならず建築分野や各種製造請負分野に「我が国の常識」として広く深く浸透しています。設計・施工分離発注方式(仕様発注方式)が我が国だけの常識となっていることの弊害は、海外パビリオン建設契約締結が進まないことで初めて顕在化したのですが、昨年2月の三菱スペースジェットの開発中止や昨年3月のH3ロケットの打ち上げ失敗について分析したところ、やはり、失敗の根元には仕様発注方式の取り組み方や考え方がありました。このように、我が国では仕様発注方式の取り組み方や考え方があらゆる分野で常識となっていることが、我が国のイノベーションを阻害しプロジェクトを破綻させるなど、我が国の技術立国としての立場を危うくしています。このことは、インフラメンテナンスにおける取り組みにおいても同様ですので、インフラメンテナンスでの事業者による創意工夫と最先端技術の活用を促進するには、「設計・施工分離の原則」への拘りをかなぐり捨てることが必要不可欠です。つまり、「我が国の常識」は「世界の非常識」であることを国全体で自覚して、「我が国の常識である仕様発注方式の考え方や取り組み方を、グローバルスタンダードな性能発注方式の考え方や取り組み方に変えていくこと」こそ、インフラメンテナンスの効果的かつ効率的な推進を通じて我が国を再び活性化できる大きな切り札となります。


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