大規模災害のリスクマネジメントとダメージコントロール《小惑星探査機「初代はやぶさ」に学ぶダメージコントロールの極意》
2024年10月12日(土)に開催された文部科学省認可 技術士協同組合の月例研究会において、【 大規模災害のリスクマネジメントとダメージコントロール《小惑星探査機「初代はやぶさ」に学ぶダメージコントロールの極意》 】と題する講演を行いました。講演の趣旨と目次内容は、次のとおりです。
【 講演の趣旨 】
南海トラフを震源とする巨大地震が発生すれば、東日本大震災とは桁違いの人的・物的被害の発生が危惧されます。東日本大震災による物的被害の極みは東電福島第一原発事故によるものですが、大地震や大津波に対する原発の安全確保に向けたリスクマネジメントを東京電力が事前に実施していれば、東日本大震災が福島第一原発を襲った際に、被害拡大防止に向けたダメージコントロールが奏功して爆発を伴う炉心溶融事故には至らなかった可能性は、決して低くはないのです。
このような東電福島第一原発事故の大きな教訓は、南海トラフ巨大地震発生に伴う人的・物的被害の軽減対策に反映させて活かしていくことが大事です。つまり、大規模災害対策の要諦として、事前対応のプロセスとしてのリスクマネジメントを周到に実施しておくことと、事後対応のプロセスとしてのダメージコントロールを臨機応変かつ的確に実施できる体制を整えておくことが大事なのです。この観点から、東京都は、東部5区に広がる海抜ゼロメートル地帯における水害対策施設について、東日本大震災を契機とする周到なリスクマネジメントを実施していますので、これを踏まえた実効的なダメージコントロールが実施できる体制を整えておくことが何よりも望まれるところです。
ここで、リスクマネジメントについてですが、リスクを組織的に管理し、想定される被害や損失の低減を図る事前対応のプロセスとして、概念や用語、手法も明確であり、多方面で広く実施されています。他方、ダメージコントロールについてですが、被害が実際に発生した際に臨機応変に被害拡大防止を図る事後対応のプロセスであることから、手法の普遍化は困難であり、概念や用語も明確であるとは言えません。このため、実効的なダメージコントロールの実現に向けて、事前に準備を整える動きもほとんど見られないところです。
それゆえ、事前の周到なリスクマネジメントが奏功して、臨機応変かつ的確なダメージコントロールにより数多の重大なトラブルを全て克服し、奇跡の生還を遂げた小惑星探査機「初代はやぶさ」に、改めて目を向けるべきではないでしょうか。「初代はやぶさの奇跡の生還」は、事前対応としてのリスクマネジメントと、事後対応としてのダメージコントロールとの間の関係性や取り組み方について、大いに参考にすべき類稀な事例と言えるからです。
【 講演の目次内容 】
1 リスクマネジメントとダメージコントロール
2 ダメージコントロールの顕著な成功事例 〜 小惑星探査機「初代はやぶさ」の奇跡の生還
3 ダメージコントロールに大失敗した東京電力福島第一原子力発電所事故
4 東京都の海抜ゼロメートル地帯における水害対策の概要
5 東日本大震災を契機として、東京都が実施したリスクマネジメント
6 東京都が実施したリスクマネジメントで残された課題