インフラメンテナンスを包括的民間委託で行う場合の予定価格の策定について
インフラメンテナンス国民会議への提言
【提言のタイトル】
インフラメンテナンスを包括的民間委託で行う場合の予定価格の策定について
【提言の全文】
昨今、「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」が主因となり、自治体の公共事業では受注業者が選定できない事態、つまり、発注に失敗した事例が相次いでいます。直接的な原因は、これまでどおりの取り組み方や考え方で策定した予定価格(公募型プロポーザルの場合には提案上限価格)では、契約締結後の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった建設業者には極めて重大なリスク要因が、全くと言ってよいほど予定価格(提案上限価格)に反映されていないためです。このような予定価格(提案上限価格)を事前公開した場合には応札(応募)が無く、再入札(再公募)時に予定価格(提案上限価格)を大幅に引き上げた挙句に、一者応札(一者応募)に終わってしまった事例が全国の自治体で頻発しているのです。一般競争入札や公募型プロポーザルの本来の意義・目的は、複数業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現するところにあるのですが、一者応札(一者応募)に終わったのでは時間と手間暇をかけた甲斐も無かったことになってしまいます。
それゆえ、包括的民間委託によるインフラメンテナンスを成功させる上での最大の要諦は、複数業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現するところにあると言えます。
自治体が包括的民間委託で用いる公募型プロポーザルは、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の第18条に規定された「技術提案の審査及び価格等の交渉による方式」に準じています。具体的には、受注業者がインフラメンテナンスを実施する上で必要十分となる要求要件をまとめた要求水準書を作成して、要求水準書に基づく技術提案と価格提案を公募します。次に、外部の有識者等で構成した選定委員会で技術提案と価格提案を審査して、優先交渉権者を選定します。そして、発注者である自治体は、優先交渉権者との交渉がまとまれば、その時点での提案価格を予定価格として優先交渉権者と随意契約を締結します。
このような公募型プロポーザルでは、要求水準書に示された要求要件を満たす限り、受注業者が資材や工法について創意工夫を存分に凝らすことができますし、最先端技術の導入も容易です。
また、上記の公募型プロポーザルでは、随意契約締結に先立つ予定価格は優先交渉権者からの提案価格に基づきますので、「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因を予定価格に反映させることができます。
しかし、最大の問題は、公募時の募集要項に示す提案上限価格です。提案上限価格を上回った価格提案は失格とされてしまいますが、このような提案上限価格はこれまでの類似実績等に基づいて設定されるため、昨今の「資材価格の高騰や、働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因がほとんど反映されていません。その結果、公募型プロポーザルへの応募者が皆無となる事態が多発しています。そこで、公募型プロポーザルへの複数の業者の参加を促すため、公募時の募集要項に提案上限価格を示さないことをお薦めします。提案上限価格を示さなければ、複数の業者からの価格提案と技術提案が大いに期待できるようになりますので、競争原理が働きやすくなるとともに、発注者である自治体側からすれば「市場の実勢価格」を具体的に掴めるようになるからです。
なお、複数の業者の参加により競争原理を働かせて費用対効果に優れた発注を実現する上で、募集要項、要求水準書、審査選定基準、工事等請負契約書の全般にわたって細部までチェックして、競争を阻害する記述を除去または改訂することが肝要です。
【提言の補足】
競争入札に先立ち策定しなければならない予定価格は、これまでは確定した詳細仕様(つまり、工事仕様書です。)に基づく緻密な積算により策定してきました。ところが、このようにして策定した予定価格は、昨今の「資材価格の高騰や働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といった、建設業者の死活問題に繋がりかねないリスク要因への対処が難しく、入札不落や入札不成立が全国の自治体で多発している元凶となっています。なぜならば、予定価格策定時の資材価格は、一般財団法人建設物価調査会が毎月刊行する「建設物価」に基づくため、予定価格策定後に資材価格の上昇が見込まれたとしても、その上昇リスク分を予定価格に反映させることができないからです。また、労働時間の制約を、作業員等の労働単価に置き換えて反映させることもできないからです。
ところで、国や自治体の契約に関する法令は、会計法、予算決算及び会計令、地方自治法、地方自治法施行令の4つです。この中で、予定価格の策定方法の規定は予算決算及び会計令のみにあり、他の3つの法令では「予定価格の制限の範囲内で」とする運用方法の規定のみです。予算決算及び会計令では、第七十九条で(予定価格の作成)について、第八十条で(予定価格の決定方法)について規定されていますが、要するに「予定価格は、仕様書、設計書等によって、適正に定めなければならない。」ということです。また、4つの法令のどこにも「積算」という文言を見出すことはできません。このことから、全国に蔓延している「予定価格は、確定した詳細仕様に基づく緻密な積算に依るものでなければ法令上の規定に反する」といった認識は、勘違いも甚だしいと言えます。
そこで、昨今の「資材価格の高騰や働き方改革関連法に基づく労働時間の制約」といったリスク要因を予定価格に的確に反映できるようにするため、下記の3段階の予定価格策定手順をお薦めします。ちなみに、この手順は、私が警察での現役時代に、土木・建築工事を含む数百件の警察情報通信施設整備事業を性能発注方式(設計・施工一括発注方式)で実施した際に、実際に用いた予定価格策定手順であり、会計検査院による4回の会計実地検査において「適正に経理されている」旨の講評を受けることができた予定価格策定手順です。
1 見積もり依頼先としての選定理由を明記した書面決裁(工事請負契約書上の「甲」となる自治体首長までの決裁)により、複数の業者を選定します。ここで、談合等を防ぐため、選定した業者名は最後まで外部には伏せておくことが肝要です。
2 1で選定した複数の業者に、制定済みの工事仕様書を添付した見積もり依頼文書を送付して、指定した期日(設計・施工分離発注方式の場合には数ヶ月先とすることが必要)までの見積書の作成と送付を依頼します。
3 業者から徴収した見積書を査定することにより予定価格を策定します。この際、金額の査定に先立ち、見積書の見積日付、有効期限、宛先、件名、見積責任者の住所・氏名・捺印を確認した上で、工事仕様書記載内容と対照して、見積書に計上漏れが無いかを確認することが肝要です。
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