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高齢患者の透析

施設入所中で認知症のないADLが伝い歩きレベルの80歳代女性
CKD Stage 5(eGFR 10前後)の方
透析するかしないかという議論になったが、高齢者での透析導入について知識が無かった

P:施設入所中、認知症無し、脳梗塞・高血圧既往のあるCKD Stage 5の80台女性が
I:血液維持透析をうけると
C:受けないときと比べて
O:余命は伸びるのか、機能予後は悪化するか、QOLは下がるか

というPICOをたてて、エビデンスを調べてみた
authors:Buur LE, Madsen JK,et al.
title: Does conservative kidney management offer a quantity or quality of life benefit compared to dialysis? A systematic review
citation:BMC Nephrol. 2022 Nov 2
PubMed PMID:34507554

PICOにぴったりなシステマティックレビュー・メタアナリシスを見つけたため読んでみることにした(概要だけ記載)

☆批判的吟味

①論文のPICO
P: 18歳以上のCKD stage G5  除外基準;17歳未満、CKD stage 1-4(殆どが65歳以上)
I: 透析以外の緩和的治療
C:血液透析 or 腹膜透析
O: Primary outcome→死亡率、 QOL
  Secondary outcome→入院、Symptom burden、死亡場所

②コクラン、GRADEかどうか
コクランレビューではなく、GRADEと記載はあるがGRADEじゃなさそう

③出版バイアスやバイアスリスク
10件以上の研究が統合されているがFunnel plotがなく、出版バイアスは不明だが、ありそう(感想)
統合された殆どの研究はバイアスリスクが中等度~高度

④結果
12件のコホート研究を統合 症例数 11598人
死亡率Hazard Ratio 0.47 ( 0.34 ~0.65 )
Cochran Q(カイ二乗検定)=54.20  P< 0.00001 ○I2統計量(82)% →異質性が極めて高い

高い異質性の原因は、研究毎の対象地域の違い、年齢の違い、緩和治療の実施方法がバラバラ、バイアスリスクの高い研究が多い、コホートと後ろ向きコホートが混ざっている、そもそも観察研究を集めているetcでしょうか

また、そもそも、集められた研究の多くで透析群の方がかなり若く合併症が少ない傾向がある。どの程度、交絡因子が調整されているかにもよるが、ベースラインが透析に有利なので未調整の交絡因子が増え、透析群に有利になっている可能性はあるだろう

異質性は高いが、効果はかなり大きいので、おそらく透析した方が寿命は延びるだろうという結果。高齢者だけに限ったら実は効果はもう少し小さい可能性はあるかも?

ちなみに80歳以上が参加した研究に絞ったサブグループ解析では、透析と緩和治療で死亡率に差がないという結果であったが、症例数が少なすぎるため何とも言えないだろう。

⑤その他のアウトカム
QOL、症状負担については結果の統合無し
入院日数は-2.31 (-3.86~ -0.75)日で緩和群の方が短い
死亡場所は透析すると病院で死亡することが多いという結果

☆二次資料での記載はどうなっているか

①各国ガイドライン
日本を含め米国、英国、カナダなどみましたが具体的な記載無し
唯一「Kidney Health Australia/Australian and New Zealand Society of Nephrology (KHA/ANZSN) position statement on renal supportive and palliative care」によると

心疾患やその他の合併症の数、栄養状態、機能状態、老人ホームに入所しているかどうか、「あなたの患者が12ヵ月以内に死亡したら驚きますか?これらの問題を総合すると、透析で予後不良になるリスクのある患者を特定するのに役立つ。 
一般に、透析を受けている高齢患者は、受けていない高齢患者よりも長生きする可能性が高い。透析を受けない場合の生存期間は6〜23ヵ月と推定されているが、データは限られている。いくつかの研究によると、合併症のスコアが高い患者では、透析と非透析を比較した場合、透析の方が生存率が高くなる可能性は低い。

という記載がありました。

②UpToDateでは?

deal candidates for CKM:
以下のような生存期間の延長ができず、入院のリスクが高い人が適応になる
 ・終末期心不全や終末期肝不全など、生命を縮める合併症を1つ以上有する患者(ほかに予後規定因子がある)
・ 虚弱や機能障害や認知機能障害が既にある。かつ、透析導入で機能低下や認知機能低下が加速する可能性のある方
・長期療養施設に入所している患者
・重度で持続する非可逆的な身体的・心理的症状を有する患者
・意思決定能力のない患者で、事前意思によりCKMを希望している
・そもそも、処置ができない患者(認知症が激しい等)
・意識がない患者                                

’Kidney palliative care: Conservative kidney management’’ 

と具体的な適応について記載がありました。
長期療養施設に入所している患者が含まれていますが、絶対適応ではないことに注意が必要です

☆患者への適用

高齢者での透析導入の経験はあまりなく、高齢者に透析しても予後はよくないのではないかという勝手なイメージがありましたが、高齢だからというだけで透析をしないというのは間違っているというのが分かりました。

症例の患者さんは、
施設には入所しておりやや虚弱だが、
CKD以外に特に予後を規定するような疾患がなく、認知症もない。
透析による予後延長は期待できるだろうと予想される。

あとは、
週3回4時間の透析通院やブラッドアクセスのための入院、透析した方が入院が増えたり、最期を病院で迎えることが多いかもしれないということ、費用、その他の面での情報を提供した上で、

透析を希望するかどうか、一緒に相談していくことになるでしょう

もう少し、高齢者や合併症がある方でのCKD Stage 5の予後や透析vs緩和でのQOLに関するエビデンスが増えるとより具体的な話がしやすくなるかもしれないと思いました。


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