見出し画像

質的研究_育児は家庭医療に役立つか?

Fujihara M, Watanabe S, Kodama K, Nakamura K, Stanyon M, Kanke S, et al. A qualitative descriptive study examining the impact of child-raising experience on Japanese family doctors. Journal of General and Family Medicine [Internet]. [cited 2024 Sep 29];n/a(n/a). Available from: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/jgf2.730


背景

  • 家庭医の診療において、患者中心の臨床手法(Patient-centered clinical method:PCCM)は重要であり、子育て経験がコミュニケーションスキルに影響を与える可能性があるが、どのように診療に反映されるかは不明であった。

研究目的

  • 日本の家庭医がどのように子育て経験をPCCMに取り入れているか、その影響を探ることを目的とした。

研究方法・対象者

  • 日本プライマリケア学会に認定された家庭医、10歳以下の子どもを持つ家庭医が対象とし、スノーボールサンプリングで8名を募集した

データ収集方法

  • 半構造化面接によりデータを収集し、逐語的に転写。

  • 質的記述分析を使用して、データをコード化し、カテゴリを抽出した。

研究結果

主なテーマ

  1. 子育てによる忍耐力と新たな視点の獲得

    • 子どもの感情や行動を理解することで、患者にも個別の対応が必要と感じるようになった。

    • 非言語的なコミュニケーションや簡潔な説明を心がけるようになった。

  2. 他者経験への共感の向上

    • 自身や子どもが病気を経験することで、患者やその家族の不安や苦しみに共感できるようになった。

  3. 社会的要因や家庭環境への意識向上

    • 子育て経験を通じて、患者の家庭環境や社会的要因に対する理解が深まった。

    • 家庭内での役割や親子関係を考えることで、患者の家庭状況をより深く理解できるようになった。

  4. 自己の言動を見直す機会

    • 子どもの行動を通じて自分自身の振る舞いや言葉に反省する機会が増え、これが診療にも影響を与えた。

  5. 子育て経験を通じた患者との信頼関係の構築

    • 子育て経験を共有することで、患者との関係が深まり、信頼を構築する手助けとなった。

  6. 対人関係の成長を促進

    • 子育てを通じて、愛情や親しみを持って他者と接することの重要性を学び、それが患者との関係構築にも役立った。


子育て経験が家庭医療の実践に与える影響

※医師と保護者の立場が並列で書かれている点が興味深い。
PCCMのみならず、自分の育児経験とミックスさせて、最終的に両者を合わせて患者理解につなげているのがミソなのだろう。患者のPCCMだけではなく、自分自身のPCCMも認識すべし(自己認識・自己理解)と上級医に言われたことを思い出した。


結論

  • 子育て経験によって得られたコミュニケーションスキルや共感能力は、診療現場でも応用可能であり、家庭医療の質向上に寄与することが示された。PCCMを実践する家庭医は、子育てから得た知識や経験を活かし、患者との信頼関係を深めていることがわかった。


読後感想

  • 「家庭医はあらゆる人生経験を糧にする」「育児経験は家庭医療を深めることにつながる」というフレーズは随所で聞いていた。しかし私自身に育児経験がないので、実際にどのように役立てているかについてはよく分からなかったので、非常に興味深かった。

    • 例えば「子育てを通しての忍耐力」は、患者につい口を出したくなるところをぐっと我慢する状況と似ていると言われると、なるほどと思う。(認知行動療法における"正したい反射"か)

    • 家庭を持つことがキャリアのマイナスにつながる、自由な仕事の時間が減る、という考えを持つ人がいるのもわかる。先日読んだ本の中では、「家庭における新しいキャリアを積んでいく。それが巡り巡って本業にも生かされていくだろう」という話があった。「育児という学びが越境学習につながる」と考えると、家庭医療以外にも色々生かされるところがあるだろう

今回は育児経験を家庭医療(特にPCCM)にどう活かすか?という話がメインだった。逆に、家庭医療のスキルが育児に役立つことはあるのだろうか?


いいなと思ったら応援しよう!